孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  「赤いモスク」から1年、武装勢力との対話決裂

2008-07-09 13:51:13 | 国際情勢

(パキスタン北西辺境州のペシャワル 街角のザクロジュース屋さん 中国・ウイグルのカシュガル旅行時に同様の屋台でザクロジュースを絞ってもらったことがありますが、ちょっと酸味があって“まあ、1回でいいかな・・・”という感じでした。“flickr”より By yumievriwan
http://www.flickr.com/photos/yumievriwan/289721008/)

【「赤いモスク」から1年】
「赤いモスク」立てこもり事件から1年が経ち、イスラマバードでは厳戒の中、数千人が参加して追悼集会が行われたそうです。
昨年7月3日にタリバンに思想的に近いイスラム急進派神学生がたてこもるモスクを治安部隊が包囲し、1週間後にモスクへの強行突入が行われました。

この強行突入で100人以上の死者が出ましたが、9.11以降アメリカの意向を受けて“テロとの戦い”に“転向”していたムシャラフ大統領とイスラム急進派の対立は、この事件で決定的な段階を向かえました。
その後、対決姿勢を強めるムシャラフ大統領に対し、イスラム急進派は自爆テロで対抗、1000人近くが死亡するほどパキスタン全土の治安は悪化しました。
この治安悪化が今年2月の総選挙での与党敗退の大きな原因となりました。

【対話政策失敗】
このため、選挙後成立したギラニ政権はイスラム武装勢力との対話路線を打ち出し、5月21日、北西部スワート地域のイスラム武装勢力と和平協定を締結しました。
この動きは、タリバンとの戦いが続くアフガニスタンとの緊張・対立を高め、実際、昨日ブログでも触れたように、パキスタン側での“停戦”が結果的にアフガニスタン側での活動活発化を招きました。

更に、パキスタン北西部においても武装勢力側が勢力を拡大し、ペシャワルのような都市部でも治安が悪化、警察が襲撃されるような事態となり、政府は対話政策の失敗を認めるに至りました。

****北西部、拡大する武装勢力、都市部まで進出 「タリバン式」強要****
◇和平交渉乗じ
 「まるでタリバンに町が支配されたようだ」。アフガニスタン国境に近いパキスタン北西部の都市ペシャワル。
ビデオ店を経営するアリマフムードさん(28)は毎日新聞の電話取材に声を潜めて語った。ギラニ・パキスタン政府が3月の発足直後から取り組んだ、アフガン国境沿いの武装勢力との和平交渉は、わずか3カ月で破綻した。その背景には、和平交渉で勢いづいた武装勢力の、予想を上回る勢力拡大があった。

 ◇警官も無力
 アリマフムードさんの店には6月下旬、郊外の山岳部を拠点にする武装勢力のメンバー5人がカラシニコフ銃を手に訪れ、「イスラムに反するものは認めない」と女性のポスターを破り捨て、「ひげをそるのは禁止だ」と命じたという。
 ペシャワルはイスラム保守色が濃い北西辺境州の州都だが、人口120万人を擁し、米国系ファストフード店もある近代都市だ。だが地元警察によると、そのペシャワルで武装勢力は自警団を組織し、イスラム原理主義を象徴する黒地に刀が交差する模様の旗を掲げて巡回。異教徒を拉致し、市民に毎日5回の礼拝を強要した。市民からの苦情に警官が駆けつけると、逆に暴行を受ける始末。警官は夜警を拒否し、治安は極度に悪化した。

◇「政府公認」掲げ
 5月21日、政府は二つの小規模勢力と協定締結で初合意した。地域にイスラム法の導入を認め、一方で雇用拡大や生活環境改善のための「大規模開発」を約束した。
政府関係者によるとこの初合意が他の勢力に誤解を与えたという。各勢力は「政府のお墨付き」を公言し、軍が撤退した地域で住民に「タリバン・スタイル」の生活を強要した。【7月5日 毎日】
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ギラニ首相は28日、武装勢力が治安を悪化させている北西辺境州ペシャワルを訪問。
武装勢力に対し「武器を捨てない者とは、もはや交渉しない」と交渉の破棄をにらんだ最後通告を行い、通告後、政府軍がペシャワル周辺で3カ月ぶりの掃討作戦を再開。
29日、パキスタン政府はペシャワルを確保したと発表しました。
これに対し、パキスタン北西部を拠点にしている武装勢力の5大組織は30日、ギラニ政府との和平交渉を「完全に破棄する」とそれぞれ声明を発表。

【ムシャラフ復活? テロ再開】
こうした武装勢力と対話失敗、掃討作戦再開で息を吹き返した感があるのが、野党勢力から辞任を求められ鳴りを潜めていたムシャラフ大統領。
4日、国内最大の商都カラチであった企業経営者らとの懇談会で、「政治の安定がなければ過激派の台頭や経済危機に立ち向かえない」「政治家は国難の前では過去のあつれきを克服すべきだ」と述べ、人民党主導政権との協調をアピールしました。
大統領が3月末の新政府発足後、公の場で政治的な発言をしたのは初めてだそうです。【7月6日 毎日】

対話決裂後、攻勢を強めるイスラム武装勢力によるテロが頻発しています。
「五つの武装勢力を束ねるベイトラ・メスード最高司令官は政府側と何らかの妥協策を探っている可能性もある。」【7月1日 毎日】との記事もありましたが、メスード最高司令官は3日、政府による掃討作戦再開に対して「主要都市で殉教(自爆)攻撃を開始する」と宣言。

首都イスラマバードで最大の警察署前に設置された検問所で6日、男が自爆。地元テレビによると、警察官ら19人が死亡、20人以上が負傷。
最大都市カラチで7日、6件の爆弾事件が相次いで発生し、1人が死亡、37人が負傷。警察当局によると、爆発は小規模なもので市内の緊張を高めることを目的としているとの見方を示しています。

一方、アフガニスタンの首都カブール市内中心部で7日、爆発物を満載した車がインド大使館入り口の門に衝突して爆発、少なくとも41人が死亡した事件で、アフガンのカルザイ政権は「事件の背後に外国の工作活動がある」とパキスタン軍情報機関の関与を暗に指摘しています。

パキスタン・ギラニ首相は「なぜパキスタンがアフガニスタンを不安定にしなければならないのか。アフガニスタンの安定はわれわれのためになる。われわれは地域の安定を望んでいる」と、事件との関係を否定しています。

【混迷深まるパキスタン】
こうしたイスラム武装勢力によるテロのほかにも、世界共通の問題としての食糧・燃料高騰による国民の生活困窮という問題もあります。
不安定な社会・経済を鎮めるべき政治は、ムシャラフ大統領、人民党主導のギラニ政権、連立を離脱してムシャラフ辞任を求めるシャリフ元首相・・・三者の綱引きで、更に不安定。
まだまだ、波乱が続きそうです。


コメント
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