孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  サルコジ大統領が進める憲法改正・経済改革 その他、時短・GDPのこと

2008-07-25 15:37:04 | 世相

(サルコジ大統領本人の支持率はさほどでもないですが、前妻のセシアリ夫人といい、今回のカーラ夫人(写真中央)といい、奥様の人気は上々のようです。
写真左はラマ・ヤデ人権担当相 セネガル出身、30歳の若さでサルコジ氏によって抜擢されました。周囲に素敵な女性が集まるのは、やはり“甲斐性”というものでしょう。“flickr”より By philippe leroyer
http://www.flickr.com/photos/philippeleroyer/2393480179/)

【1票差の憲法改正】
フランスではサルコジ大統領の進める“改革”が進行しているようです。
21日には大統領選挙時の公約であった憲法改正案が議会で“1票差”で可決されました。

大統領の再選回数を2期までに限定し、一定の条件で大統領による公的機関の長の任命に対する拒否権を議会に与える、また、国民議会(下院)の採決なしに首相が法案を通せる権限に制限が設けられるなど、大統領の権限を制約し議会により多くの権限が与る内容も含んでいます。

それらの点については世論もほぼ賛成していましたが、世論の賛否が分かれたのは、アメリカ大統領の一般教書演説のような年次演説を大統領にさせることを許可する条項だったそうです。
全く知りませんでしたが、フランス憲法では行政府と立法府の分権を根拠に、国家元首のこうした演説を禁じていたそうです。
今後は、議会でサルコジ大統領が熱弁をふるうシーンがたびたび見られれるという訳です。

社会党など野党の反対もそこにあるのでしょう。
“1票差”ということですが、賛成票を投じた10人の左派系議員のなかでも、サルコジ大統領のお声がかりで憲法改正などにかかわる委員会の副委員長も務めた社会党重鎮のラング元文化相が“戦犯”として、ロワイヤル氏などの怒りを買っているとか。

それはともかく、日本は議院内閣制ですので、大統領のイメージがつかみずらいところがあります。
行政府の長たる日本の首相はべったり議会にはりついていますが、大統領というものはそういうものではないようです。
アメリカとは異なりフランスには首相も存在します。
かつて、左派のミッテラン大統領のもとで保守のシラク氏が首相をつとめることもありました。
首相は大統領だけでなく議会にも責任を負うので、首相は議会多数派でないと現実的に運営ができない事情から、大統領の政党とは異なる政党が議会多数を握る場合、このような大統領と首相のねじれ(コアビタシオン:同居・同棲の意)が生じます。
このコアビタシオンにおいては、通常大統領が外交、首相が内政をリードするそうです。

【週35時間制の実質的撤廃】
憲法改正と並んで、最近フランスで改正されたのが法定労働時間の問題。

****仏議会で経済改革法案が成立、週35時間の法定労働時間撤廃も*****
フランス議会上院は23日、法定労働時間の週35時間制の撤廃を定めた大規模な経済改革法案を可決、成立させた。また、ストライキに関する規則変更や失業手当基準の厳格化、競争力を強化することで生活コストの抑制を目的とした経済開放などを含む重要な改革案も可決された。
 これらの法案は、ニコラ・サルコジ大統領の支持母体の国民運動連合が支持・推進していたが、野党・社会党は反対していた。下院では、今月初めにすでに可決されていた。

 新しい法律では、労働時間は週35時間に据え置くものの、企業に対し労働者と直接相談して労働時間を決定できる権利を与えるという。
 社会党や労働組合から最も異論が噴出していたのは、週35時間労働制だった。この制度は10年前に、当時与党だった社会党によって導入されたもので、保守派からはフランスの経済競争力にとっての障害だとの批判を受けていた。
 35時間労働制は失業率の抑制を目的としていたが、フランス国立統計経済研究所(INSEE)は、この制度によって1998-2002年の間に35万人の新規雇用者を創出したものの、政府は数十億ユーロに上る企業への補助金を負担することになったとしている。【7月24日 AFP】
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【“改革”の流れ】
昨年11月にはサルコジ大統領の進める年金改革案に対して国鉄労組が無期限ストを構えるなど、政府対労働組合の対決がありましたが、結局世論の支持を背景にサルコジ大統領が力でねじふせた形で決着。
今回の経済改革法案も、そうした社会の流れ、力関係の反映のように思えます。
日本で言えば75年のスト権スト以降の労働側の一方的長期敗北・左翼勢力衰退の流れでしょうか。

【労働時間比較】
この件に関する私自身の最初の印象は、“週35時間?そんなに短い労働時間でどうやって経済・生活を支えていけるんだろう・・・。ストックの差だろうか?やっぱりヨーロッパと日本の社会では底力が全く違うんだな・・・”というものでした。

ただ、かつて“働きバチ”とか揶揄されることもあった日本でも、労働時間の短縮は随分進んでいるようです。
本川 裕氏のサイト「社会実情データ図録」のなかに、OECDの資料をもとに“年間実労働時間の国際比較”をグラフ化したものがあります。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3100.html(製造業以外も含む数字ですが、本川氏が指摘しておられるように、経年比較用の数字であり、各国間で基準が異なるので横並び比較は厳密には難しい数字です。)

敢えて、大まかな横並び比較をすると、1990年頃まで日本は年間で2100時間程度に対し、英・米・仏は1800時間前後と圧倒的な差がありました。
スウェーデンとかドイツは1500時間台と信じられない数字でした。

国際協調・国民生活の質の向上を掲げる「前川リポート」が発表されたのが86年で、このころ労働時間短縮が社会的にも注目され始めました。
私が個人的にそういった方面と少し関わったのもその頃でしたので、今でも「今なお長時間労働の日本」という固定化したイメージが頭に残っています。

しかし、上記グラフで見ると、その後の90年代は日本でも時短が進んだようです。
(いろいろ問題は含んでいるのでしょうが、それらは今回は割愛します。)
88年に、法定労働週を48時間から40時間へ短縮する改正労働基準法が制定されたことが流れを決定付けたようです。
しかし、まだ西欧諸国との間には大きな差も残存しています。

日本の年間実労働時間は、現在では1800時間にまで減少して、横ばいで推移してきたアメリカと同水準になっています。
なお、日・米より100時間あまり少ないのがイギリス(1600時間台後半)、そこから更に100時間ほど少ないのがフランス・スウェーデン(1500時間台後半)といった関係になっています。
ドイツ・オランダは1400時間前後です。
総じて、ここ数年は各国とも時短の流れは停滞しているようです。

労働政策研究・研修機構のサイトには製造業での国際比較データがあります。
http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/06/197_6-1.pdf
この資料によれば、日本とアメリカは1900時間半ば~2000時間弱というあたりで、ほぼ同水準にあります。
イギリスがこれより若干少なく、フランス・ドイツは1500時間あまりといったところです。

休日数も同様の傾向で、年次有給休暇日数で見ると、日本が8.3日、アメリカが13.1日に対し、英・独・仏は25日~30日といったレベルです。
無理やり休暇をとって“弾丸トラベル”の海外旅行をすると、ヨーロッパの旅行者とこの差はまさに実感します。

【変化する現実 GDP】
少なくとも、日本一国が突出していた時代から、アメリカ並みへの改善はあったようです。
他にも、数字を見ていると「ふーん、そうなんだ・・・」と思うものがあります。
GDPに関するウィキペディアのデータ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E3%81%AE%E5%9B%BD%E5%86%85%E7%B7%8F%E7%94%9F%E7%94%A3%E9%A0%86%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88
80年代、90年代の「日本=経済大国」というイメージが頭にこびりついていますが、購買力平価(PPP)でみると、IMFがまとめた2007年の“一人当たりGDP”は、シンガポール(世界6位 49,713ドル)、香港(10位 41,994ドル)に対し、日本は(24位 33,576ドル)。
まあ、シンガポール、香港は規模の小さい国で比較は難しいから・・・というところもありますが、台湾(28位 30,126ドル)韓国(34位、24,782ドル)も日本とそう大差ないレベルです。

英・独・仏各国もPPPによる一人当たりGDBでは日本とほぼ同水準ですから、こうした数字には直接には反映されない、労働時間や休暇日数に見られるような“格差”も存在する訳で、それは日本と台湾・韓国の間でも言える・・・ということでしょうか。
いずれにしても、十数年前の古びたイメージは捨てないと現実を見誤る危険があります。

コメント
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