孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ジンバブエ  居座るムガベ大統領

2008-07-02 16:18:54 | 国際情勢

(小指の先のインクは二重投票防止のために投票後に付けられる目印。今回“決選投票”では「ムガベ派の暴漢が各戸に押しかけて目印をチェックし、まだ投票していない者を連れ出して、棍棒で殴っていた」とか。 “flickr”より By frontlineblogger
http://www.flickr.com/photos/12086274@N05/2379103031/)

【強行された決戦投票】
ジンバブエのムガベ大統領は周知のとおり27日の決選投票を強行。
選管発表で投票率は約42%。ムガベ大統領の得票は約215万票で、最大野党「民主変革運動」のツァンギライ議長は約23万票と大差の「勝利」となりました。
ツァンギライ議長は大統領派による暴力を理由に決選投票からの撤退を表明しましたが、大統領は撤退を認めず、2候補による決選投票を形式的に実施しました。

選挙戦では野党発表で90人前後が殺害され、20万人の国内避難民を生みましたが、「(選挙が終わり)ほっとした。圧政が続き、経済環境は厳しくなるが、殺し合いのない平和はそれ以上に尊い」(野党支持者の女性)というのが国内の雰囲気のようです。
一方で国内には、「西側諸国と対等に渡りあえるのはムガベ氏しかいない」(50代男性)などと、大統領に対する根強い人気もあるそうです。【6月30日 毎日】

【欧米各国の批判】
国際社会はムガベ批判を強めていますが、権力の座に居座るムガベ大統領に対し、有効な手立てがないのも実情のようです。
国連安保理議長国のアメリカは今週中にもジンバブエへの制裁決議案を提出する方向で各国と調整しています。
決議案には武器禁輸が盛り込まれており、また、決議案は「暴力と脅迫が自由・公正な選挙を不可能にした」と指摘し、「ムガベ大統領の当選を認めない」としているそうです。
安保理での協議では中国が制裁に難色を示していますが、ペリーノ米大統領報道官は、国連安保理による制裁がまとまらなかった場合、米国が単独でも制裁を実施する意向を示しています。

欧州連合(EU)議長国・フランスのクシュネル外相は1日、「EUはツァンギライ議長による政権以外認めない」と厳しい方針を示しました。
仏外務省は「決選投票は恥ずべきもので、ムガベ氏と家族に対する個人的制裁(資産凍結やビザ発給停止を含む)を検討している」としています。

ミリバンド英外相は「一方的な暴力や選挙活動、偏向した選管組織による『投票』に正当性はない」と、国連による制裁に支持を表明。
また、ブラウン英首相はTVインタビューで、「この数カ月間で根本的に変わったのは、アフリカの指導者にはもはや、弾圧的な政権を受け入れる用意がないということだ。この政権は野党を脅し、公正で自由な選挙の実施を認めていない」と語っています。
ドイツ経済協力開発省は27日、ミュンヘンに拠点を置く大手印刷会社に対し、ジンバブエに紙幣用紙の供給を停止するよう要請。
イタリア外務省は駐ジンバブエ大使を召還したと発表。

一方、中国の楊外相は「ジンバブエの状況は安定に向かっている」と制裁強化に消極姿勢を示し、大統領と野党との対話による解決を求めています。

欧米社会がこのように批判を強めても、恐らくムガベ大統領にとっては、いまさらの感もあるのでは。
すでにムガベ大統領は、2000年に白人(旧宗主国イギリス)所有大農場を強制収用したことの制裁措置としてEU諸国への渡航を禁じられているように、欧米社会とは明確な対立関係にあります。
イギリス首相の批判などは“勲章”のひとつにすぎないでしょう。

ただ、大統領の旧宗主国イギリスへの思いは愛憎が表裏一体となっているとか。
****ムガベ大統領 行動原理「恥辱には復讐」****
白人経営者の優良農地を買い上げて黒人に配分する農地改革で、英国からの援助金がムガベ氏とその周辺に浪費されたとして、ブレア前英政権が援助を打ち切った。これを「拒絶と恥辱」と受け止めたようだ。ムガベ氏の「復讐」の対象は国連でも米国でもなく、英国なのだ。
だが、昨年会ったときムガベ氏は、英王室の話になると泣きそうになった。数年前、チャールズ皇太子に、ジンバブエは今でも英王室を敬愛していると伝えたそうだ。英国への敵意は愛情の裏返しなのだ。 【7月2日 産経】
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【国連の対応】
ツァンギライ議長は、危機回避のため国連やアフリカ連合を念頭に「平和維持部隊の投入」を求めていましたが、来日中の潘基文国連事務総長は、ジンバブエ大統領選の決選投票は不正だとの見解を表明しました。
「(ジンバブエ国民は)真の自由を享受し、脅迫されることなく自らの意志で指導者を選ぶことができるようになるべき」だとして、「全力で解決に臨む」「ジンバブエ情勢は、同国の国民だけでなくアフリカ全土における民主主義の信頼維持に重要な意味合いを持っている」と語っています。
ただ、記者から「どのように圧力をかけるのか」と問われると、「主権国家に対し国連がどのように圧力をかけられるのか・・・」と言葉を濁していました。

【ムガベの恫喝にアフリカ諸国は・・・】
アフリカ諸国の対応ですが、アフリカ域内でも選挙結果への批判が強まってはいますが、今一歩踏み込めないところがあります。
アフリカ連合(AU)が派遣していた全アフリカ会議の選挙監視団代表は「自由も公正さもない」と言明。
南アフリカのツツ元大主教やケニアのオディンガ首相は、ジンバブエへのAUや国連部隊派遣を提案しています。
さすがにケニアのオディンガ首相は、自分自身がジンバブエ同様の選挙後の混乱で大量の犠牲者を出したばかりですので、権力に居座るムガベ大統領に対しては厳しい見方になっています。「ジンバブエのAU資格停止」も主張しています。

しかし、多くのアフリカ首脳は公に批判することを避け、ムガベ大統領の就任を事実上追認しています。
ムガベ大統領は「アフリカにはもっと状況が悪い中で選挙を行う国もあるが、私は一度も干渉したことはない」「(私を批判する)首脳が私より潔白なのか(アフリカ連合首脳会議で)直接確認してやろう」と、恫喝にも近い強気の発言をしていました。

エジプト・シャルムエルシェイクで開かれていたアフリカ連合(AU)首脳会議は1日、ジンバブエのムガベ大統領が野党不在のまま大統領選決選投票を強行した問題について協議。
ムガベ大統領に対し、最大野党「民主変革運動」と対話するよう求める決議を採択しましたが、大統領への直接批判は避けて閉幕しました。
決議は「(ジンバブエの状況を)深く懸念する」としていますが、ムガベ大統領は非公開協議の場で批判への反論を約30分に渡って展開するなど、聞く耳を持たない状況だったそうです。
AUは決議とは別に、与野党での権力分担の呼びかけを支持することも確認しました。
しかし、民主変革運動のツァンギライ議長は、この提案を拒否したそうです。

影響力が期待される“地域大国”南アフリカのムベキ大統領も及び腰です。
南アフリカには現在でも多数の難民がジンバブエから流入して、南ア国内で貧困層との就業機会をめぐる競合が激化し、激しい外人排斥暴動を引きおこしています。
ジンバブエで決定的に国家崩壊状態となって更に難民が押し寄せる事態は、南アとしては考えたくないところでしょう。
どんな政権であれ、とにもかくも決定的破滅に至らなければそれでいい・・・というのは北朝鮮に対する中国や韓国も同じです。

【“アフリカの文化”】
アフリカにおけるムガベ大統領の評価について、元少年兵だった国際的ヒップホップ・スターの発言が「なるほど・・・」という感じです。

****元スーダン少年兵のラップ歌手ジャル、ムガベ大統領に物申せない「アフリカの文化」を語る***
【7月1日 AFP】ロンドンでのネルソン・マンデラ南アフリカ前大統領90歳の誕生日記念コンサートに出演したスーダン人ラップ歌手、エマニュエル・ジャルさん(28)は27日、アフリカ各国の指導者は「アフリカの文化的価値観」が邪魔をしてジンバブエのムガベ政権をいさめられずにいると語った。
 元少年兵で国際的ヒップホップ・スターのジャルさんは、AFPに対し、ムガベ大統領は84歳という年齢に加えて大統領の在任期間がアフリカのどの指導者よりも長いこともあり、指導者たちはおしなべて彼に対しては控えめな態度をとると語った。
「難しいよ。ムガベは英雄扱いされているんだから。国を独立に導いたし、20年以上国を率いてきたし、ほかのアフリカ諸国の指導者の多くも助けてきた。南アフリカの反アパルトヘイト闘争も、アンゴラも。尊敬を勝ち取ったんだ。『恩をあだで返す』ということわざがあるだろ。だからいくらムガベが間違っていても、ほかの指導者たちは何も言うことができない」
 マンデラ氏は、ロンドンで開催された誕生日を祝う夕食会で、「(南アの)隣国ジンバブエの指導者らによる悲劇的な失敗」を非難した。これについては、「マンデラは年長者の1人だから、そういう発言をする権利がある。そしてムガベは、(自分よりも年長である)マンデラの話に耳を傾ける必要がある」と語った。
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いまだに“独立の英雄”のイメージは強固なようです。
ムガベ大統領及びその支持者がツァンギライ議長に示す抵抗のひとつの理由は“独立闘争を経験していない連中に国を任せられるか”との思いがあるように聞きます。
同様の思いは他のアフリカ諸国首脳に対してもあるのかも。
マンデラ前南ア大統領でも仲介に立てば、ムガベ大統領も少しは聞く耳があるのでしょうか。


コメント
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