孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン・アメリカ  対話開始で破滅への秒読みは・・・?

2008-07-17 14:57:43 | 国際情勢

(アフマディネジャド大統領は昨年9月、国連総会出席に先立ち、コロンビア大学を訪問しました。写真はその際の、イスラエル支持者とパレスチナ支持者間のいがみ合いのようです。 “flickr”より By jsgraphicdesign
http://www.flickr.com/photos/jsgraphicdesign/1434960716/in/set-72157602140546632/)

危ない対立が続いているイラン問題については、つい3日前の14日ブログで取り上げたばかりですが、若干の動きが報じられています。
(7月14日「囁かれるイラン核施設爆撃、ホルムズ海峡有事」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080714

****イラン・米国:修復模索 互いに前向きシグナル*****
イランと米国が、イランの核開発問題で激しく対立する一方で、関係修復への道を模索するような動きを見せている。イラク治安情勢を巡る責任の押し付け合いは影を潜め、前向きなシグナルを送り始めている。
 イランのアフマディネジャド大統領は14日、国営テレビで「米国との直接対話の実現に向け、前向きに取り組みたい」と表明した。最高指導者ハメネイ師は今年1月、「いつか米国と関係を再開する時はイランの国民や国家にとって有益なものになる」と発言。「米国との対立はイランの政治、経済的な利益を損ねている」との認識が広がり、公に言及すること自体タブーだった対米関係の修復を求める声が、保守派の間にも急速に浸透している。
 米紙ワシントン・ポストは先月、ライス米国務長官がテヘランに利益代表部の開設を検討することを承認したと報じた。今回、大統領は「正式な要請があれば前向きに検討する」と歓迎する意向を示した。米国は80年に国交を断絶して以来、利益代表部の業務をテヘランのスイス大使館に委ねており、一段階格上げする動きだ。
【7月17日 毎日】
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一方、イラン核問題をめぐり19日にジュネーブで開かれるEUとイランとの交渉に、アメリカのバーンズ国務次官が参加することになりました。
米国務省ナンバー3のバーンズ次官の協議への参加は、国連安全保障理事会の常任理事国5か国とドイツが6月にまとめた、イランがウラン濃縮活動を停止した場合に経済・通商上の見返りを与えるとした新提案に対する「イラン側の回答を得るため」だとされています。

アメリカはイランとの間に外交関係はなく、イラン政府がまずウラン濃縮活動を停止するべきだとして、これまでイラン政府関係者との予備的交渉への参加さえも拒否していましたので、今回のバーンズ次官派遣は、これまでの姿勢を転換し対話に乗り出したものと受け止められています。

もっとも、“バーンズ次官は交渉の席に同席するが、イラン側との個別会談は行わない。”【7月17日 毎日】とか。
また、米政府は、実質的交渉参加はイランのウラン濃縮活動停止が前提との立場を変えていないそうです。
イラン側も、最高指導者ハメネイ師がEUや米国との協議の趣旨については全面的な支持を表明していますが、ウラン濃縮活動は継続するとの従来の姿勢は崩していません。
お互いガードはまだ固いようです。

イラン政権内部の雰囲気を伝える記事で興味深かったのが以下の記事

****イラン:核開発巡り指導部に危機感 イスラエル脅威受け*****
【テヘラン春日孝之】イランの核開発を巡り、イスラエルによるイラン軍事攻撃論が再燃する中、イランでは「攻撃されれば報復する」との要人発言が相次ぐ。背景には体制指導部の危機感があり、イスラエルの自制を促すものだ。だが、最強硬派のアフマディネジャド大統領は挑発を繰り返しており、指導部の大勢はイスラエルの「脅威」と同時に大統領の「独走」にも危機意識を募らせている。
 イラン革命防衛隊幹部は12日、「(攻撃されれば)イスラエルの心臓部と中東の米軍基地を攻撃する」と警告した。米紙が先月半ば、イスラエルがイラン攻撃を想定した軍事演習を実施したと報じて以来、こうした発言が相次ぐ。イランが先に弾道ミサイル発射実験を行ったのも、軍事力を誇示してイスラエルの先制攻撃の自制を狙ったものだ。
 だが、アフマディネジャド大統領は対イラン軍事攻撃を「(イスラエルや米国の)政治的自殺で、あり得ない」と主張。中東の大混乱と原油価格暴騰を招き、国際社会が容認しないとの現状認識に立ち、「イスラエルの存在を認めない」と過激発言を繰り返す。
 最高指導者ハメネイ師の外交顧問、ベラヤティ元外相は「挑発的発言は控えるべきだ」と異例の警告をしたが、大統領は13日、「イランの軍隊は敵が引き金に触れる前にその腕を切る」と発言。14日には「イランのミサイル実験は準備運動に過ぎない」と述べた。
 イラン改革派の著名なジャーナリスト、ザイディアバディ氏(42)、アッバス・アブディ氏(55)は取材に「イラン指導部の危機感は深刻だ」と指摘する。ザイディアバディ氏は「イスラエルのイラン核開発に対する脅威認識が臨界点に達すれば、イランの核施設を攻撃する可能性はあり得ると考えているからだ」と説明する。イスラエルは81年にイラクのオシラク原子炉、昨年9月にはシリアの核施設を攻撃した。
 一方、アブディ氏は「イスラエルが本気で攻撃するなら事前に(軍事演習など)悟られる動きはしないと思う」と述べ、今は警告段階だと見る。ただ「ウラン濃縮活動について指導部に問えば、記名だと100%『継続』、無記名だと90%は『停止』と答えるだろう。それが体制内の空気だ」と指摘する【7月15日 毎日】
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【イラン体制内の空気】
イスラエルのイラン攻撃を「ありえない」として、“チキン・レース”を引っ張るアフマディネジャド大統領。
その暴走をハラハラして眺めながら、そろそろレースから降りたくなっている他のメンバー。
アフマディネジャド大統領の強硬路線に対し、ハメネイ師に近い保守派内部に“やり過ぎ”との反発があることは以前から伝えられており、保守派を二分する勢力争いになっています。

上記記事でとりわけ面白かったのは「ウラン濃縮活動について指導部に問えば、記名だと100%『継続』、無記名だと90%は『停止』と答えるだろう。それが体制内の空気だ」という指摘。
今回のイラン及びアメリカの間での交渉の機運は、こうしたイラン体制内の空気を反映したものでしょう。

それにしても、イランに限らず、“記名だと100%『継続』、無記名だと90%は『停止』”といったことは良く見られる現象です。
強硬論が叫ばれているとき、それに意義を申し立てることは“弱腰”、ときに“非国民”“愛国精神に欠ける”等の批判をあびることにもなり、なかなか声があげられない・・・日本でもよくある話です。
国の方向を大きく過たせるのは、こうした政界の空気、突き上げる“世論”という名の気まぐれ、扇動するオピニオン・リーダー・・・のようにも思えます。

【破滅への秒読みは・・・】
原油価格は、アメリカ国内の予想外の在庫増加、および、米景気減速で先行きの需要が伸び悩むとの見方が広がったことを受けて、大幅に下落して1バレル=133.70ドル。
アメリカ経済を揺るがしかねない、ということは日本を含めた世界経済を揺るがしかねない米連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)および米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の問題について、米連邦準備制度理事会のバーナンキ議長が16日、下院金融サービス委員会で証言し、経営難に陥っているファニーメイ、フレディマックは「破たんの危機はない」との見解を示しました。
これを受けて両社の株価は上昇、金融危機拡大の当面懸念が緩和されたようです。

イランにしても、原油にしても、アメリカ経済にしても、“さしあたり”の“一時的”な話に過ぎないことはもちろんですが、なんにしても破滅への秒読みが少しでも緩和したことは、喜ばしい限りです。
いいニュースが少ないので、喜べるときに喜んでおかないと・・・。




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