診療していて、今でも時々仕舞ったと思うことがある。それは殆ど二人がかり三人がかりで起こす先送りによるものだ。
例えば、この一ヶ月で3kg痩せた。おかしい、食欲は?睡眠は?と聞いて行くと、毎晩何度も爺さんに起こされトイレに連れて行かねばならなくなったとか、職場が変わって気を遣うとか、ちょっとダイエットしているとか、色々もっともらしい理由が出てくる。
そのせいかなとも思うのだが、取り敢えず糖は出ていないかなと痛くない尿検査をする。尿に異常がない場合、更に胃の検査や採血までするかどうか迷うことも多い。実際にそうした精神的あるいは人為的な理由で一時的に痩せる患者さんは多いし、胃の検査など負担の掛かる検査は嫌がる患者さんも多いからだ。狡いようだが嫌がれば先送りにしてしまう。強く内臓疾患を疑う場合は粘り強く説得するのだが、念のための場合は次でもよいかと譲ってしまう。そして、実際それで何事もなく済むことが多い。
しかし年に一回くらいは、この前検査すれば良かったという症例がある。これも狡いと言われればそうかもしれないが、患者さんから責められることはないので、いくらか気が楽だ。「だから言ったでしょ」。と言う先輩が居たが私は言わないようにしている。言われた患者さんの目を憶えているからだ。そんなことを言っても、何一ついいことはない。
間違いや失敗は一人で歩いて来ない。殆ど必ず、複数の要因が絡んでいる。だから仕方がないのではなく、だから防ぐチャンスはいくつもあるという捉え方も出来る。