独りで患者を診療する仕事をしていると、年を取っても仕事量を減らすのが難しい。この頃は帰宅するとテレビを見ながらうたた寝してしまう。
三十年以上昔には最初の五六人の患者を診るとちょっと用がある後はやっといてくれと居なくなる院長や教授が居た。現在は市内でビルを建てて盛業中のK先生は会食の時、M院長の尻拭いで二十人ばかり患者を診させられたと今でもこぼす。懐かしさもあるせいかこぼすと言っても楽しそうに話すのでさほど嫌ではなかったようだ。院長とか教授というのは、それに生まれついたというか適性があるというか、部下を指導し鞭打つ才能に恵まれた人が居る。勿論、目に見えない頭の中の仕事がたくさんあったのかもしれないが、院長室でゆっくり新聞を読んでいたりしても、部下を厳しく指導して病院の経営をきちんと軌道に乗せることができるのだ。中には自ら額に汗して率先して実務をこなす院長も居るのだが、必ずしもうまくゆかない。
地位が人を育てるという場合もあるだろうが、生まれつき指導者首領に適性がある人が居る。そういう人は広い視野を持ち適切な決断を下すことができ、部下を震え上がらせる能力を持っている。M院長はまさにそういう人だったらしい。別に怒鳴るわけではなかった?ようだが、副院長や部長クラスに睨みが効いていた。在任十年で病院を一回り大きくし、医師数を倍増、医療レベルを近隣随一にして辞められた。市内で名誉職について悠々自適かと思いきや、関西に自宅を建てて引っ込まれたと聞いた。K君曰く、奥さんの意向ということで、M院長奥さんには弱いんだよ。成程。