駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

嬉しいけれど寂しいような

2013年10月04日 | 診療

                    

 ことさんは92歳、殆ど寝たきりだがベッド上では座れるし、大音声を張り上げれば聞こえる。月に一回往診に行く。

 「足の甲が腫れたけど、直ぐ死ぬだか?」。

 「い-や、そんなことはないよ」。ニッコリ頷くわけではなく、憮然として

 「長生きしすぎた」。と言われる。

 「そんなことはないよ」。とは言うものの、大声にはならない。

 「それじゃあ、お大事に」。と耳元で挨拶する。ニッコリして

 「先生が来るのを楽しみにしてるだよ」。と返事をされる。帰る道すがら看護師が

 「可愛いお婆さんですね」と言う。

 確かに可愛い心根のお婆さんだ。そう云っていただけるのは有難く嬉しいのだが、心のどこかで若く可愛いお嬢さんにそう云って貰えることはもうないんだとちょっと寂しい気もしていた。


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2 コメント

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「先生が来るのを楽しみにしてるだよ」 (柳居子)
2013-10-04 09:33:14
 糸脈先生は、九十二歳の一ヶ月を刻む人ですね。「長生きしすぎた」とは言っても 「楽しみにしてるだよ」 生きている事を実感する数少ない証の様な 重い言葉ですね。
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有難いことです (arz2bee)
2013-10-04 15:27:23
  時を刻む往診なんでしょう。正直にいえば行くのが気が重い患家もありますが、このお婆さんのような患者さんは穏やかに往診できます。
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