医療、特に外科系では技術力が大きな部分を占める。そのせいか外科医には手術の上手い伝説の人が居る。手術が下手というと、言い過ぎで本当に下手な人は淘汰されるから、名人、上手に並と分けられよう。誰でも努力研鑽で上手には成れるが、名人は生まれるものらしい。私の故郷に半世紀前M先生という外科医が居た。手術が上手いと評判だった。子供で医者ではない私には何がどう上手いのかは分からなかったが、秘かに尊敬していた。
医者になって十年くらいしてから、東京生まれ東京育ちのK先生とタクシーに同乗した時私の田舎を聞かれた。ああ、あそこ、M先生が居るねとM先生の話になった。K先生がMGH(マサチューセッツジェネラルホスピタル)に居た時、日本から来ていた麻酔科医が地方に凄い外科医が居るとM先生のこと話していたと言う。「切っても血が出ない、あんな凄い外科医は見たことがない」と。大学紛争の時代で、大学に居てもしょうがないと麻酔をかけながら全国を渡り歩いていたその麻酔医にM先生は強烈な印象を与えたのだ。
手術の上手下手などと言うことは一般の人にはなかなか分からない。麻酔科医や看護婦が感心して漏らした言葉が広がって伝説の名人は世に知られるようだ。