今日はどんよりとまではいかないが、鉛色の雲が空の八割方を占めており、冬の気配が漂っていた。幸い風がないので体感温度はさほど低くはなく歩きやすかった。途中で横道から現れた五歳ばかり若そうな、背広姿のおじさんに抜かれたのは遺憾であった。
H氏は83歳、お頭の方はしっかりしておられるのだが瘦身で体力というか余力がない。一週間ほど前、発熱と咳痰で受診された。診察して肺炎までは行ってないようだが、単純な風邪にしては食欲がなく倦怠感が強いのでペニシリン系の抗生剤と鎮咳去痰剤を出し、二日間で軽快傾向がなければ再受診してくださいと返した。金曜日に良くならないと再受診された。肺の雑音ははっきりしないが呼吸音に左右差があるので胸部写真を撮影したところ、右中肺野に淡い浸潤影を認めた。白血球数は9800、CRPは11.0だった。重症感はないので、キノロン系の薬に変えて補液をすれば外来での診療も可能かなとも思ったが、奥さんは80歳と言っても似たもの夫婦で痩せて体力のない方で家で世話をする自信がない様子、入院はどうかと聞くとほっとしたように是非と希望された。
入院をお願いしますと言うと、それはこちらが決めることとけんもほろろのこともあるので、ご高齢の肺炎で入院が望ましいと思いますがいかがでしょうとS病院にお願いした。午後ファックスの返事が来て、意識清明、自立歩行可能で脱水もなく、炎症反応も中程度なので、レバフロキサシン(私が投与しようとした抗菌剤)を投与し、外来で診ますと返事が来た。これも根拠に基づいた理詰め返事で、確かにそうですねと引き下がらざるを得ないのだが、私はHご夫妻を十年来診ており、家庭の事情も存じ上げているので、それを考慮していただきたかったなと心の片隅で思った。
返事をくれたF先生、総合病院の外来を担当していると言ってもまだ十年選手、四十手前だろう。ベットの空き具合もあるだろうが、家庭の事情までは考慮されない様子だ。勿論、九分九厘外来通院で軽快すると思うが、負担不安の軽減と言うこともあるのだがと思った。しかし、まあこれがこれからの時代の主流となる診療方針なのだろうと思った。
奥の手としては、上司に頼む方法もありますが、余程のことが無いと使いません。