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『夢幻紳士 迷宮篇』(※ネタバレあり)

2007年05月26日 | 高橋葉介『夢幻紳士』
『夢幻紳士 迷宮篇』 高橋葉介/早川書房


本日(あ、もう昨日か)のドラマ『星ひとつの夜』を
つい先に見てしまい、読むのを後回しにしてしまいました。
(ドラマ、素敵でしたよー。なんか玉木宏さんって色気ありすぎ)


古くは万葉の時代、
名前を問いそれに答える、ということは
求婚とそれに応じると言う意味を持っていたそうです。
そうでなくても、「名前を知られる」ことによって魔力を封じられる
という民話は、「大工の鬼六」や「ルンペルシュティルツヒェン」など
洋の東西を問わず存在しているんですよね。
だから、名乗りを上げるということは、すごく意味が重いのです。


ということを踏まえての本編。
早川書房版『夢幻紳士』三部作の完結編でもあります。
いやもう、1年間我慢して読まずにいた甲斐がありました!
この『迷宮篇』、一気読み推奨の作品だと思います。
いまのご時世で発売して大丈夫だったのか、というくらい、
人は死ぬし、血は流れるし、身体は引き裂かれるのですが、
何なんでしょう、この幸福感(誤解を招く表現ですな)。
大丈夫です、スプラッタなのは悪夢の中ですから。
(でも、実際に死んでいる人も数人いますね?)
何と言いますか、手の目も姫さまも好きだけれど、
やっぱり私は『幻想篇』の<僕>が好きなんだわ! と思いました。
魔実也さんにとっても<僕>は何だか特別のような気がするのです。
魔実也さんの中には<僕>の守護天使であるところの<彼>が
確かに生き続けており、そして<彼>とともに<僕>を愛しているように
思えてしまいました。そのせいか、今回の魔実也さんは、
<人の悪い黒い天使>という印象です。
(黒い小悪魔だの死に神だのとも呼ばれていましたけど)


『夢幻紳士』シリーズ初の長編は、ムンクの作品の引用が多く、
特に「思春期」は少女を少年に置き換えていてにやりとさせられます。
そういえば、この子のお母様は結局どうなったんだ? なんてのは
野暮な詮索ですね。それを言ったら手の目はどうしたのよ、だし。


最愛のカットは、銀座の街角にすらりと立つ魔実也さん!
最も笑ったのは、またしても「あとがき」の
「沼で釣りをしていたが、何だかとりこみ中だった」のくだり。
『怪奇篇』の「おまけ」を読んでいなかったら意味わかりません(笑)
それと、2話までの「ぐにゃっ」っていうのが結構好きでした。


帯にずらりと並んだ『幻想篇』『逢魔篇』『冒険活劇篇』『怪奇篇』が圧巻。
気まぐれで労働が嫌いで女たらしのあの人は、
いつかまた帰ってきてくれるのでしょうか。
…たぶん、10年後くらいにまた会えそうな気がするんですよ。
だって私たちは、彼の名前を知っているのですもの。なんてな。
 

コメント
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