脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

知的な障害があると・・・

2010年02月10日 | これって認知症?特殊なタイプ

エイジングライフ研究所の二段階方式を用いると、知的な障害を持った高齢者も見つけることができます。

実務研修会を受講してまだ間もないM市U田保健師さんからの質問です。このケースが何例目かを聞き忘れましたが、まだ初心であることは間違いありません。でもよく記録されていましたよ。

近所に咲いている椿の数々2010_0127_115500p1000374 
質問は以下の通りでした。

1.わからない・やれないと感じた問題は、テスターが励ましてもやろうともしない。計算・文を書く・模写・前頭葉テストに関しては
「そういうのはわからん」
「難しいからやれません」
「わからんよう」
を多発されて、A4版白紙には名前だけしか書かれない。
MMS得点は17/30点

2.説明が伝わりにくく「理解できているのかな」と感じることが多かった。

以上の2点が特に気になったとのことでした。2010_0127_115000p1000367

また同行の娘さんの話として
「母は小さいころから奉公に行っていたため ほとんど学校にも行っていなかった。学歴も小学校のみ。読み書きができないから結婚後は父がすべてやっていた。だからできなくて当たり前」と記載されていました。

2010_0127_115400p1000372 さらに、
「母は農業と自動車部品の組み立ての内職もやってきた。今でも、調理などの家事はやれており、家族も困ってはいない。
平成14年に父が脳梗塞で要介護状態になり母が介護してきた。
平成18年に父が亡くなったら外出もせず閉じ込もり状態になっていて、楽しみがない。
こういう生活を続けることはよくないと思うので、どこかに通所をさせたい」という希望があっての面接だったのです。

     本題から外れますが、書かずにはいられません。
     一般の人たちは、認知症の本質を知っていて、
     「これだけ何もしないとボケてしまうかも」と思うのです。
     実に正しいことですよ!

U田保健師さんは、
「勉強をしてこなかったためにMMSが低いと判断していいのでしょうか」と書きながら、どこかでひっかかるものがあったと思います。だから質問してこられたのですね。2010_0127_115300p1000370                               

6年生は、「100-7」ができないでしょうか? 
文が書けないでしょうか?
図形の模写ができないでしょうか?

ちょっと考えればわかることです。
相手(今回は娘さん)の言われたことを大切にそのままに受け取り過ぎると、「勉強をしなかったから」脳機能検査がができなかったことになってしまいます。
今日の日本に住んでいれば、基本的に文盲の方はいないと考えていいのです。
「開拓時代に小学校2年までしか行ってない」人でも、その後の生活の中で、ふつうの読み書きには問題がなくなるものです。
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脳機能検査で正答にならない時に考えるべきことについては
「テストができないということは…」にまとめましたね。

①テスターのやり方が悪い
②被検査者が集中できていない
③被検査者の脳機能に問題がある
例外的に被検査者がふまじめだったり拒否的だったりする場合もあります。

今回は①②③のどれでしょうか?

6年まで学校に行ったのに「できない」のです。「わからない」のです。「難しい」のです。
③ですよね。2010_0127_115400p1000373

私たちは③脳機能に問題があるというときには、「脳に器質的な変化が最近起きた」と考えがちですが、このように生来的に知的な問題があることもあります。
とくに自分の身辺のことはできても社会的な場では、だれかの指示や庇護のもとでないと行動できないレベルのごく軽い知的障害の方は、面談だけではなかなかわかりませんがテストをすれば一目瞭然です。

もっと確実に「生来的」を確認するには、幼い時から学習面での問題があったことや職業歴や家庭生活の状態などを聞きとって、大人になってから前頭葉機能障害があることが分かれば、十分です。

知的な障害がある時の特徴は、「見当識」や「想起」がいいのに、より簡単な下位項目での失敗が目立つと言い換えてもいいのです。
下位項目の低下順が違うときには、脳の老化が加速したとはとらえません。

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この人の場合 、時の見当識は
「平成?・・・わからんよう・・・」でしたが他は満点。
A4版白紙には書けませんが。

想起は2/3。

まさに典型例といえます!

「今後は生きがいディサービスなど定期通所できるように支援していきたい」とU田保健師さんは方向性を示してくれました。
そうですね。関係者にこの方の特徴をよく理解してもらうことが、適切な支援に繋がる必要条件になります。