脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

「側頭葉性健忘」情報がつぎつぎと。

2023年03月13日 | 側頭葉性健忘症
私が講演会場で
「顔はわかってるのに、名前がどうしても思い出せない」
「花の名前を覚えたはずなのに、後で出てこない」
「冷蔵庫を開けて、何をとるのか忘れちゃう」
「二階に上がって、さて何をとりに来たのか?」
「町に出かけて、三つ用事をするつもりが一つは忘れてしまう」
「忘れては困るとメモをしても、そのメモを見ることを忘れてしまう」
「鍋を火にかけて、洗濯物を干しに行く。つい目についた草を抜き始めてしまい、結果鍋を焦がしてしまう」
「たまには、洗濯の済んだ洗濯物が洗濯機の中」
「雨が上がった時の傘ならたびたび」などといいたてた後で
「当てはまる人?」というと、ほとんどの人が笑いながら挙手します。
稲取つるしびな人形館

みんなが知っている「物忘れはボケの始まり」ということばはいつごろから使われだしたのでしょうね。

上にあげたような失敗はだいたい「物忘れ」といわれますが、記憶の問題というよりも「注意分配力」の方が大きく影響していると思います。この「注意分配力」は前頭葉機能の中核をなすものです。
あまりにも思い当たる読者のために解説を少々。
このブログで何度も繰り返しているように「注意分配力」は20代をピークに、加齢ともに直線的に低下していくものです。つまり歳を重ねた人は「注意分配力」は、自分が若かった時のように発揮できないことを知るべきです。
「知るべき」と書きましたが、「知りたくもないけど実感してる」という声が聞こえそうですね。だからこそ上にあげた例がすべて自分にも当てはまるという苦笑につながる…
このような事件が起きた時に「あ、注意分配力が足りなかった。でも注意分配力は歳とともに低下するんだから、まあ普通かな。たしかに、気になることがあったから、ちょっと集中が足りなかったかな?」などと客観的に自分を見てください。そして反省したり、工夫をしたりできれば、年齢相応の現象だと安心すればいいのです。
つまり「物忘れはボケの始まり」ではなく「物忘れ 反省と工夫が効けば歳のせい」
富戸港そばの城ケ崎桜(3/7)

認知症で問題になる物忘れとは本質的に違います。
本などの解説だと「食事をしたことは覚えているが、何を食べたのかわからないのは歳のせい」という言い方が多いですね。でも、あまりにも忙しく時間を過ごした日、「あれ?お昼ご飯を食べたかしら?」と思うことはありませんか?
脳機能から説明してみましょう。
まず最初にチェックすべきは、年齢相当(つまり若いころのようではなくて正常)の前頭葉機能は維持できているかどうかです。前頭葉機能は、その人らしさの源ですから、状況判断の仕方、興味好奇心、たたずまい、おしゃれな様子、会話など何の変化も感じません。表情はあるし動作も機敏です。

いっぽう、アルツハイマー型認知症になりかけた時に、最初に低下する脳機能は前頭葉機能です。一番最初の段階では、まだ認知機能のうちの記憶障害は出ていません!
世のなかでは「記憶障害」こそ認知症の必須症状とされていますから、認知症の最早期に、記憶障害がみられないということはだれも考えてもいないと思います。それは症状しか見ないからで、二段階方式では脳機能を調べますから、明らかに前頭葉機能低下から始まると断言できるのです。
前頭葉機能低下が始まると、状況判断の仕方、興味好奇心、たたずまい、おしゃれな様子、会話など何かちょっと違う。表情がないし動作もモタモタしています。
家族は「何でもできるんですけど、もちろんいうことも変じゃあありません。でも、なんというかお母さんらしくないorおじいさんらしくないetc」
記憶の問題が起きる前に、前頭葉機能低下が起きるということは、認知症の早期発見には必須のことなのですが…
庭のパンジー(年末1株90円で投げ売りされていた苗)

記憶は、記銘(覚える)保持(覚えておく)想起(思い出す)の三段階がありますが、歳を取ると「覚えられない!」「思い出せない!」ことが増えてきますよね。実は記憶力もピークの20代から比べると60代後半ではだいたい半分になるといわれています。
つまり、物の名前が覚えられなかったり、人の名前が思い出せなかったりするのは仕方がないのです。もちろん年齢相応の前頭葉機能が発揮できていることが大前提です。

前々回に書いた「側頭葉性健忘」は、前頭葉機能が年齢相応や、人によってはそれ以上の働きを維持していながら、記憶力だけがスポンと抜けてしまっている状態です。新しい記憶が入っていかないのです。
脳機能からみると認知症とは全く別のことが起きているのですが「記憶障害があれば認知症」という現在の定義でいうと「認知症」になってしまいます。
ただ、周りの人はその不思議さに気づいています。
「記憶障害はひどいけど、状況判断の仕方、興味好奇心、たたずまい、おしゃれな様子、会話など何の変化も感じません。表情はあるし動作も機敏です」
「認知症なんでしょうけど、不思議な認知症です」

東京で久しぶりの友人二人に会いました。二人は同じ先生にフラダンスを習っているのですが、意を決したように話し始めました。
「先生が変なの。フラダンスは変わらずお上手だけど、前のと違う指示を出されるし、お話が始まると、同じ話をグルグルなさって聞く方は疲れてしまう。これってボケかしら?
そうそう、今だって車を運転なさって、遠くの教室にも行かれてるんだけど。運転はお上手よ」
そこで私は「おしゃれの具合は?表情は?フラダンスが以前と同じようになさるんだったら大丈夫でしょうけど動作はきびきびしていらっしゃるの?」と尋ねました。
「ボケた人って顔つきが変わるでしょ?目が死んでるというか。そんなことは全くないし、以前と同じようにオシャレでおきれいよ。とにかく前と違うことを言われるのが困るのよ。厳しい先生だから」

脳機能から考えると、すぐに答えが出ますよね。
前頭葉機能は正常。記憶障害が先に出てきている。つまりアルツハイマー型認知症のパタンではなく側頭葉性健忘のパタンですね。
近所のパンジー(きれいです)

小布施から帰宅してFBを見ていたら「なかまある」というところで「手術を終えた、わたしへ」という記事を発見しました。4年前に若年性アルツハイマー型認知症と診断されたまだ40歳代(?)の女性の方の記事でした。
4年前に何の症状で受診されたのかも、現在困っていることも何もわかりませんが、これだけの文章が書けるということが、アルツハイマー型認知症でないことを証明していると思いました。前頭葉機能が健在です。

この若年性認知症についても、誤解が蔓延していますがこの記事をお読みください。
若年性認知症の定義を調べてビックリポン
若年性認知症と診断された方のほとんどは、側頭葉性健忘ではないかと私は思っています。
テレビ番組などこのような視点で見てください。アルツハイマー型認知症の方の介護にあたられた方は、専門家といわれる方々の解説に大きな疑問符が付くと思います。

by 高槻絹子

認知症に関して理論的に詳しく知りたい方は、以下のブログもお読みください。

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