脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

30年前の「天竜市熊」での調査報告ー始まりは1987年

2019年09月22日 | エイジングライフ研究所から

調査の報告をしましょう。
浜松医療センター脳精密検査外来で臨床データが蓄積されるにつれて、それ以前の浜松市での老人クラブに対するフィールドワークとともにいくつかの仮説(というよりも確信)ができてきました。

1987年(昭和62年)ご縁を得て、これらを立証するために「天竜市熊地区」へ入っていったのでした。限られてはいても一地区全体に対する実態調査は、病院外来や老人クラブでの調査とは比較にならない「疫学的事実」がつかめるはずです。この時には静岡県立大学看護学科の水谷信子先生もご一緒しました。
調査は、65歳以上の方々に脳機能検査を行って地域高齢者の脳機能分布がどうなっているのか調べます。もちろん、必要であるならば脳外科的な精密検査も行います。
その後、従来の認知症とされるレベル以前(二段階方式でいうところの小ボケ・中ボケ)で見つけることができた方々には、脳リハビリの指導とともに天竜市保健婦さん(と、私)による健康教室や家庭訪問を継続して行います。
そして5年後には、同様に全地域に対する脳機能検査を再実施して、早期発見された方々の脳機能の推移とともに、地域に対する働きかけが効を奏するものかどうかを追跡調査するという大きな目的を持った試みでした。
一次検診として、集団的にかなひろいテストを実施しました。その実施率は高齢者人口276人中212人、76.8%でした。

一次検診としての集団かなひろいテストは段階的に実施しました。
まず「ボケ予防講演会」の広報をして、中央公民館に集まった方たちに集団で実施しました。
次に、講演会に参加しなかった方たちに対しては各地区の「健康教室」を利用しました。毎月というほど定期的ではなかったのですが、天竜市保健婦さんが地道に続けてきた健康教室が各地区にあったことは幸いでした。世話役の方に積極的に声掛けをしていただいて、講演会に参加されてなかった方々になるべく集まっていただきました。
それでも、脳機能検査が実施できなかった方たちに対しては、戸別訪問までして、実施率は76.8%に到達できたのです。
この三段階の検診では、中央部での講演会→地区の健康教室→戸別訪問と、かなひろいテストの得点が低下していきます。前頭葉機能は社会生活と密接な関連がありますから当然といえば当然ですが。

そこで、各年代ごとの基準値(60代10以下、70代9以下、80代8以下が不合格。当時は正答数をそのまま成績にしていました)により合否を決めました。
合格群に対しては、脳リハビリの説明や健康教室参加を勧めました。
不合格群はボケの可能性があるということで、1988年から二次検診として個別にMMSと前頭葉テストを実施しましたが、二次検診の対象者は60歳代10名、70歳代28名、80歳代21名計59名になりました。

二次検診はすべて個別検査になります。
前頭葉機能をかなひろいテストで測定し、その不合格群に対しMMSを行います。MMSが30-24点の範囲を小ボケ、23-16(現在は15点)を中ボケ、15点以下(現在は14点以下)を大ボケと分類しました。その分布は以下の表のとおりでした。

この小ボケと中ボケの方たちに対しては、個別に生活指導をしました。いわゆる運動領域と右脳刺激をもとにした「脳のリハビリ」を具体的に検討していきました。
山間部のことですから散歩ということはあまり指導しませんでしたが、畑に行くことも脳刺激になることはよく話しました。
家族も近隣とも人間関係が密でしたから、その意味をよく説明し一人ぼっちにさせないように、声を掛け合うように、対人交流こそ脳リハビリの要と話しました。
手芸や歌、絵、家事の手伝い、ゲームや体操など。
健康教室参加も勧めて、ゲームや体操、もの作りもより楽しみになることを体験してもらいました。
保健婦さんの異動があったりもして、訪問は少なくなった時期もありましたが、とにかく当初の、こちら側から言えば計画、熊地区の皆さんから言えば約束を守り、5年間の「天竜市熊」通いが続いたのです。健康教室で検査をしたり、一緒に遊んだり(右脳訓練!)講話もしました。もちろん戸別訪問をしたこともあります。
目に見えてよくなる方もいらっしゃいました。四季を楽しみ、山の味覚も楽しみながらの幸せな5年間でした。そして5年後1992年を迎えるのです。
その結果は二つ前の記事にあげてありますが、もう少し詳しい経過報告は次回に。

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