脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

脳卒中後遺症ー脳は場所で働きが違う

2020年06月12日 | エイジングライフ研究所から
友人からメールがきました。
その友人の友人のことが書かれていました。
「(彼女は)数年前に脳卒中にかかって相当リハビリしましたが、方向音痴とか感情のコントロールが上手くできないとか、悩みがあるんですって」
ヤマボウシ

私も短く返信しました。ほかにも言い足したいことはありましたが、そのためにはいくつかの質問が必須になるので控えました。
「その方が右利きの方だと言う前提で、病気は右脳に起こったのですよね」
たったこれだけの返信に対して
「さすが絹子さん。そうです。頭蓋骨の右前頭部に穴を開けて手術した様です。指さしてましたから 」
まあまあ、褒められてしまった!
キンシバイ

脳は、病気やケガが起きてしまったときに、それまで黙々と働いていてくれたことを、それができなくなってしまうという形で初めて私たちに伝えます。
考えたら脳は、文句を言わないどころか、私たちを困らせてしまうような自己主張もしません。大切な自らの責務を淡々とこなし続けてくれる、頼もしいというか、いじらしいかけがえのないものなのです。
先の短いメールから、脳卒中で障害された場所をどうして特定できたかを整理してみましょう。
その前に脳の機能を考えるときには、どうしても三頭建馬車の図が必要になってきます。

場所を確認するとこうなります。これだと、左脳と右脳と前頭葉の働きが並列的に見えますね。実は前頭葉の働きは上図の方が正確で、左脳や右脳の働きとは次元が異なることには注意が必要です。

それでは、左脳の働きを列挙しましょう。

次は右脳です。

それでは推理の筋道を話さなかったことまで含めて解説します。
数年前の脳卒中
ということは現在の後遺症は確定的で、これ以上の改善はほとんど期待できないのです。患者さんや家族はリハビリをすれば、病前のように回復すると考えているのですが、実際はそんなに簡単なものではありません。どこにどれだけの障害を負ってしまったかということが、予後を決める大きな要因です。
発病後の短い期間(3か月といわれることが多い)、いわゆる神経可塑性が働いて、障害を負ったところが元の働きを取り戻すこともありますが、多くの場合は障害された部分の機能回復はないまま、周りがその働きを代償するという方法で回復していきます。脳に障害を負った時のリハビリは、早いほど効果的で私の印象では最初の半年が一番の勝負どころだと思います。
もちろん、長い間リハビリを続けることで回復することもありますが、あくまでもそれは病気直後に比べたら微々たるもので、リハビリの目的は機能を低下させないためと考えた方がいいと思います。
脳細胞が再生するというようなニュースがセンセーショナルに報道され、変な期待が生まれてしまうのですが、脳の実質が壊れることは、生半可なことではありません。
サラサウツギ(もう少しピンクがかっていました)

だから、この方に身体マヒがあったら、それはその状態のままで受け入れなくてはいけません。そのマヒの状態でどのように生活を組み立てていくか考えるべきです。
方向音痴
世の中には方向音痴といわれる人は多いです。この方はわざわざ病後の後遺症として挙げていますから、普通の方向音痴とは違うと考えた方がいいでしょう。
方向音痴というのは、結局は自分の位置と目的地とそれを結ぶ道からできあがる形というか図形がうまく成立しない問題です。つまりアナログ情報の処理ですから右脳の機能がうまく働いてないということですね。
特に右脳後遺症のうちの「左半側無視」というものが起きていると、左側の空間認識が欠けますから、家の中でも思い通りのところに行けないというようなことが起きてきます。
感情のコントロールができない
右脳障害に「感情失禁」というものがあります。「感情失禁」をチェックすると「些細なことで泣いたり笑ったりする」というような解説が多いのですが、右脳障害に付属する感情失禁の特徴としては、「些細なことで泣くまたは泣き崩れる」ということが主だと思います。喜びすぎたり、過度に楽しがったりはほとんど経験にありません。
右脳障害だけだと、「コントロールができなくなった」と実感しているのがちょっと気になります。右脳障害から生じた「感情失禁」は本人が自覚している印象はあまりないのです。
ここはやはり前頭葉機能にも影響が出ていると考える方がいいかと思いました。
そうすると、発病後数年たっているということは、この時の脳卒中の後遺症とは別に、廃用性の機能低下が起きていてもおかしくはない。その時は「抑制」という前頭葉機能がうまく働かないことがあってもおかしくはありません。つまり小ボケのレベル。
年齢や、発病後の生活もよく聞く必要があります。
原種アリストロメリア

脳卒中の後遺症を理解するための道筋を書いておきましょう。
体のマヒがあるかどうかは、必ず聞かなくてはいけませんし、脳卒中と聞くと皆さんはすぐにマヒの有無を気にすると思います。左右どちら側か、上肢か下肢かも確認します。上肢か下肢を確認するのは、上肢だと中大脳動脈、下肢だと後大脳動脈が養っている箇所に病気が起こったことを知ることができるからです。
マヒは一番わかりやすい後遺症です。
左脳の後遺症である「失語症」は、話せないタイプはわかってもらいやすいのですが、言われていることが理解しにくいタイプは見落とされがちです。実は非常に大雑把にいってしまうと、中大脳動脈が養っている場所が障害を受けた場合は話せないタイプ、後大脳動脈の場合は理解困難なタイプになります(興味ある人はカテゴリーの「左脳の働き・失語症」を読んでみてください)。

右脳だけが障害された場合は、何しろ言葉に障害がないということで後遺症なしと思われ、場合によっては後遺症なしと診断されることすらあります。ところが生活上では多くの困難が出来しますから、退院後の家族は困り果ててしまいます。本当に多彩な、思いもつかないような後遺症が起きてしまうのです。
『妻を帽子とまちがえた男』オリバーサックスがベストセラーになったのはいつだったでしょうか。この本を読んだときに、「そうそう、こういう人がい」と興奮したのを思い出しました。妻と帽子を間違えるのは相貌失認ということです。
右脳が壊れるということ―相貌失認続けて4記事書いています。
地図が読めない女?
そのつもりで患者さんを見て、訴えに耳を傾けていれば後遺症がわかり、後遺症を理解することは同時に右脳機能を知ることでもあります。興味ある人はカテゴリーの「右脳の働き」を読んでみてください。

いまだブラックボックスにとどまっているのが前頭葉の機能障害。脳の働きについての記事を読んでみても、前頭葉機能に触れていることはほとんどありません。
エイジングライフ研究所は前頭葉機能こそ、その人の脳機能の中で最重要でその人らしさの源ということを主張し続けてきました。
三頭建馬車の御者!
認知症早期発見のカギ!
前頭葉機能についても、ぜひカテゴリー「前頭葉の働き」を読んでください。

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