脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

例外ですが、左脳=デジタル・右脳=アナログに当てはまらないこともあります

2017年03月17日 | 右脳の働き

今日のブログはお勉強!興味がない人はスルーしてください。
保健師さんから質問というかSOSが来ました。「何が何だかわかりません」
ゆっくり話を聞いてみました。
 
「継続的に脳機能も計っているし 、何よりも長いお付き合いがある方です。穏やかで、グループの良いまとめ役だった方なんです」
資料として、平成19年の結果が送られてきました。(平成19年8月の立方体透視図模写)

「それが・・・。平成28年12月にはこうなってたんです」

「五角形相貫図も描けません。『気に入らないなあ』と描きなおした結果ですが」

「もっと変なんです。名前が書けなくなってる!『松』一字ですけど」

そこで私。「形が不得手になっていらっしゃるのだから、アナログ情報担当の右脳障害でしょ」
城ケ崎サクラ。伊豆大島を臨む海沿いにみごとに咲いています。3/11撮影

「MMSの結果なのですが…」と言いよどむ声が続きます。
「12月21日はどうにかいえたのですが、『年』を聞くと『平成16年・・・2016・・・平成18年・・・』みたいになるんです。それから季節は『秋』でした。所を聞いてみたら『えーと何?。えーと』というばかりで県名以下出てこないんです」
そこで私「失語症でしょう。しかも入力障害タイプ、感覚性失語症ね。話してる時には失語って気が付かなかったのでしょう?。しゃべれないとかしゃべりにくい出力障害タイプ、運動性失語症は見落とされないけど、感覚性失語症は軽いとよく見落とされるのよ」
「感覚性失語症は、発話量は多いし、滑らかに話せます。注意して聞くと、軽症の場合でも『なんだか持ってまわったような表現が多くて発話量の割には話がよくわからない』ことに気づくはずです」
「そんなことになるのは、感覚性失語症には『キーワードが出て来ない』という特徴があるからです。別の時には滑らかにすっといえるのですが、言いたいときにはその単語がどうしても出て来ないということがよく起こります。だから持って回った言い方になるのですけどね」

私「感覚性失語症のときのMMSチェック項目は、記銘・命名・復唱・口頭命令・書字命令でしょ。その結果はどうだったの?」
「口頭命令が2点だったほかは全部できました。時の得点が3点だったのに想起は2点もありました」
私「ちょっと待って。時の得点は3点って言ったけど、低下順が違ってたんでしょ。それに季節は『秋』だし。その結果が実力だとしたらそれだけでもう失語症といえるくらいですよ。下位項目の低下順はとても大切な情報なので、できるはずの項目ができない時にはそれが確実な実力であることを自分が納得できるまで確認しておかないといけません。失語症のチェック項目が全部クリアできたのは、軽症だからです」

電話の向こうの保健師さんの声はまだ怪訝そう。
そうですよね。右脳障害と失語症(左脳障害)が両方起きているのですから!
初めてお会いした方だったら「脳卒中はなさいませんでしたか?」と尋ねることになります。ところがこの方のことを保健師さんは「お元気だった」とよく知っています。
半年前の平成28年6月3日の脳いきいきチェックの時の立方体透視図模写の結果です。

少なくとも、このときは脳いきいきチェックが合格しています。つまりまだ左脳にも右脳にも脳卒中はおきていないのです。
それから、たかだか6か月で通常の「老化の加速」では説明しきれないような大きな機能低下が起きています。
エイジングライフ研究所では、このような時、つまり脳の機能低下の原因が廃用性の機能低下といえない時には「専門医受診」というふうに指導しています。私たちはお医者さんではありませんから、できることは生活改善指導だけです。

保健師さんを納得させてあげなくてはね(笑)
「今回の結果を説明できることは、『この方の言語領域が右脳にもある』場合だけです。左利きの方の中には言語領域が右脳にもあることが多く、失語症は軽度で済むといわれています。家族に左利きがいる場合でも、失語症になりにくいといわれています。
右利きの人の大多数は言語野が左脳にあり、構成能力は右脳にあります。左利きの人の場合は言語野が逆転するのではなく、左脳にも右脳にもあると考えられているのです。このことは『脳の側性化』というのですが、まだはっきりと数値では確定されていません。左利きの度合いもいろいろあるわけだし、この先も右脳に何%言語野があるというのは難しいでしょう」
今度ご本人に会った時の時の確認事項を言います。
去年いただいたシクラメン、先ほど写しました。元気でしょ!

質問1.「左利きですか」(指示が足りませんでした。細かくどの程度の左利きかも聞いてみたほうがよかったと思います)
質問2.「左足の動きが悪いとかつまずくとかありませんか」(感覚性失語症の時は足の動きが悪くなることが多いのです)
質問3.「物を10個並べて名前を言ってもらう」
質問4.「人の絵を描いてください」 

結論。
質問1の回答「はい。左利きです」
質問2の回答「そうなんです。どうも左足がうまく動かない感じがあります」感覚性失語症がありますからそばによって、こちらの足と確認したそうです。
命名に関しては、保健師さんもびっくりしていましたが、2個では異常がすくい上げられなかったということです。
時計ー〇
100円玉ー〇
1000円札ー〇
カギー〇
くしー〇
口紅ー「これはね、こうやって」とジェスチャーした後で〇
ハンドタオルーマークに目を止めてかわいいといったり時間をかけて、ハンカチ
ボールペンー✖(サインペン)
湯のみー✖急須じゃなくお茶の茶碗
茶たくー✖ 
あめー✖
ティッシュー✖
「だから『冬』と言えなくて『秋』って言っちゃたんですね。『何時ですか?』って尋ねたら『さあ何度か・・・割合に温度が高くて』って答えられました。これも感覚性失語症のせいですね」

人物画は下の通りです。「ひげずらの男性」という説明だったそうです。上手下手というのではない、まさに右脳の障害があることがよくわかりますね。

今日のケースは、確かにわかりにくいかと思いますが、ゆっくり考えてみていくと答えはあるのです。
①構成能力に問題がある
②感覚性の失語症がある
以上の2点が、二段階方式の脳機能検査でわかりました。(急激に来ていれば、考える間もなく即刻、脳外科受診)
もちろん左右の脳に同時に支障が起きたことも100%否定はできませんが、このような場合の原因で一番多いのは血流の低下です。血流の低下が左右同時に同じように起きるというのは、あまりありません。
図形の模写ができないのですから、右脳障害は必ずある。そうすると残りは、言語野が右脳にもあると考えれば説明は付きます。そのときの必要条件が左利きの方ということなのです。 






 


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