くだんの娘さんの話が続きます。
娘「東北大震災から1年たったということで、またテレビで取り上げられることが多かったでしょ。その時にテレビを見ながらこんなことを言うんですよ」
母「そりゃあ気の毒とは思うけど、私たちだって戦後すごく苦労したんだよ。なんの援助もなくてね。
食べ物だってお金だけでは手に入らないんだから、ほんとに大変だった。
それに比べたら、寝るところもあるし、食べるものもだってあるし・・・」
娘「こんな言葉を聞かされると、びっくりするやら悲しいやら。そしてしまいには腹が立ってくるんです」
それはそうでしょうとも。でもね。ちょっと待ってあげてください。
正常な老化を超えて前頭葉機能が衰えてしまっている、エイジングライフ研究所が言う軽度認知症(小ボケ)の人たちの解説をもう一度しましょう。
前頭葉は、ほんとにたくさんの働きをしますが、その中でも注意集中と分配力は、中核的な働き(新しいブログで詳しく解説していますのでこの上をクリックしてください)です。
人と会話をしている時にも、テレビを見ている時にも、前頭葉はいつもその状態を見張っています。
目まぐるしく変わっていく情報に追いついて、理解して、自分の態度や発言を決めるのです。
前頭葉機能が万全でないと、ちょうど「心ここにあらず」といわれるような状態になります。
聞いているのに、聞こえていない。
見ているのに、見えていない。
さっき自分で言ったことですら、曖昧模糊となってしまう。
認知症のごく初期に、家族がよく訴える一つに
「同じことを何度も繰り返す」ということがありますが、この症状も前頭葉がうまく働いていないと考えるとよくわかりますよね。
このお母さんにとって、テレビのニュースをどこまで自分のものとして理解しているのかをまず調べてみなくてはいけません。
私には病院勤務時代の忘れられないエピソードがあります。
阪神淡路大震災直後にお会いした方(軽度認知症=前頭葉機能が低下)の話です。
この方は、神戸の方で、大変な思いをして来院されました。
私「大変だったことでしょう・・・」
彼「はい。それはもう」そばから同行してきた妻が、いかに大変な思いをしたかを話します。
彼「昨夜もホテルで、ずっとテレビを見ていました。気の毒なことで・・・」
私「それで、神戸は何が起きたのですか?」
彼「台風です」
言葉のやり取りはどこもおかしくない。
でも、本質的な理解は大きく外れてしまっています。このようなことは軽度認知症の方にはよくおこることです。
この「理解のずれ」に気付かないまま、
「しゃべらせたら普通」と思い込んでいる家族の方々がどんなに多いでしょうか。
そうそう、私がなぜ「神戸で何が起きているか」と尋ねたかというと、テレビの話をするときの無表情さ、感情のこもっていない言い方からでした。