脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

左手だけのピアニスト

2005年10月05日 | 前頭葉の働き

文藝春秋10月号、舘野泉さんの「奇跡の音 左手だけのピアニスト」という手記を読みました。以下に概略を書きましょう。青字は文中より抜粋・・・は省略

65歳の時、演奏会の最中に脳溢血
(ママ)。右半身マヒ
になり、口をきくことも容易ではない状態となった。1年以上リハビリに励んでも、右手では満足に演奏できない。プロなので左手だけで演奏することは、考えてもいなかった。ところが、右腕を失った人に捧げられた譜面に出会い、演奏してみた。
「その瞬間、目の前に大海原が広がった。氷河が溶け出したように心の奥底から流れ出るものがあった。・・・左手だけでの演奏であるが・・・ただただ生き返るようであった。そこには間違いなく私の音があった。・・・理屈ではなく、身体で悟っていった。」

左手だけで演奏することの意味を、文字通り身体で実感した舘野さんは、世界中に多くの左手用の名曲があること、またその曲はすべて「戦争や交通事故、脳や神経になんらかのダメージを受け、右手の自由を失った人のため書かれたもの」だということを知った。

小品が主だったために、懇意な作曲家に新曲の書下ろしを依頼して、約2時間もの「左手での正式の復帰演奏会」を行った。大好評の後、さらにレコーディングや出版など多方面の活躍が続いている。

「これまで以上に音楽の喜びを感じている・・・左手だけで演奏することに不自由は覚えない・・・充足した音楽表現ができている・・・」
 
TVのニュースでもとりあげられていましたが、「右手が主旋律、左手は伴奏なのに、左手だけでその人の音楽が完成させられる」ということに注目が集まっていました。

脳機能を学ぶ私たちは、もう少し違った方面から理解しなくてはいけません。
自分の喜び、他者の感動を生む左手の演奏を可能にしているのはそう、右脳。(もちろん前頭葉なくしては演奏は不可能ですが、ここは簡単に右脳と左脳で考えましょう)
舘野さんのように左脳が損なわれて、右手が利かなくても言葉が上手に繰れなくても、右脳さえ健全であれば、その人の訓練され研ぎ澄まされた音楽性は何一つ損なわれていないのです。

伴奏の左手が不自由になった人のための「右手だけによる名曲」は、ないはずです。私は音楽に関しては門外漢ですが、脳機能からいけばそうなります!
左手が不自由ということは、右脳にダメージを受けていることを意味します。右脳を損傷すると舘野さんがいうような自己の音楽性そのものが揺らいでしまいます。そこからこの手記のようなことは起こりえません。

「音楽性の源は、左脳ではなく右脳にある」ということを、この手記は感動的に語ってくれています。いつでも、その行為を理解するために脳機能という物差しを当てる習慣を持ってください。

 

 


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