創作日記

 青磁作品を中心に創作しています。
  陶芸作品が出来るまでの過程を、
   日常の暮らしを通して紹介しています。

九谷ロクロ師 K氏の場合

2007年05月08日 | 日記
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ホームページ 「ごあいさつ」 の欄にもあるように、
私の住んでいる地域には、九谷焼きの窯元がたくさんあります。
しかし時代の流れに乗り切れず何件かの窯元は姿を消し、需要も減りつつあるのが現状。

その中の窯元に若い時からの知り合い、ロクロ仲間のK氏が働いている。
彼は還暦も過ぎ、今年61歳を迎える。
私より数年遅れてこの道に入り、今では押しも押されぬ大切なロクロ職人である。
数年前まで腕の良い九谷ロクロ師は何人かいたが、それもずい分と少なくなってきた。

連休最終日、K氏と会って話を聴いた。 いや、いつもの話を再びしたという方が正しい。
5/3~5、九谷茶碗祭りが盛大に行われた翌日のことであった。
「わしら、いつまでこんな下仕事ばっかりせないかんのやろ、いくら良いものを作っても名前も出んし」
K氏は日常の品、そして作家からの注文を受けた作品のボディー(素地)を作っているのです。

九谷は過去も今も分業制が続いているのが現状。 ロクロ師はひたすら粘土から形を作り上げ、
窯元はそれを焼き、焼きあがった白い素地を九谷作家などが買って行き、絵付けをして世に出す。
つい先日も作家と言い争いをした、とK氏。 あまりにも無理な注文を言われ腹が立ったから、
「お前、いっぺんでいいから盃の一つでも粘土で作ってみいや」と言ったと。

現在、20~30代の若い九谷作家の幾人かは少しロクロをまわせるが、それ以上の年代の作家の
95パーセント以上はロクロ師に素地を作ってもらっているのが現状。
私は35年前にとことん批判を頂いたので、どのような事があっても作家の為に素地を作ることは無い。
自分の作品を土の調合から完成品にするまで、自信とこだわりを持って創り上げている。

それでも思い出したように、なんの事情も知らない九谷作家から素地を作ってもらえないか、と
電話がかかることもある。 もちろん丁寧にお断りしている。 
私もその方には盃の一つ、湯のみの一つでもいいから粘土から作って欲しいと願っている。

時代も変わり、すべてが本物志向へと移ってきている。
農産物でも生産者が自信を持って顔写真入りで売っている。
これからの時代、責任を持って仕事を進めるべきだと、K氏の話に同調し、話しを聴いた。

能登地震の被害が取り上げられ、輪島塗の工房が壊れたとの報道が続いていた。
被害にあわれた方々にはぜひとも再復帰していただきたいと強く願っている。
輪島塗も九谷と同じく、やはり分業制である。 作家のため木地を作り、その木地に漆を塗る、
その職人達の被害の様子が流れなかったことは残念であった。
そのような方々が居てこそ成り立つ輪島塗であり、九谷焼きでもある。

土台がしっかりしていなければ、いつの日にか朽ちてしまう。
K氏のような職人は今後育つのだろうか、とても今の現状ではそれは無理な話である。

「堂前ちゃん、堂前ちゃんしかワシの話をわかってくれんのや」
K氏はそう言ってタバコの煙の先を目で追っていた。

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