噎(む)せ返るような暑さの夏に、身の毛もよ立(だ)つゾクッ! とする怖い話などを聞けば、暑さも多少は遠退き、助かるというものだ。ただ、冬場には余計に寒くなって身体が凍てつくから、お勧(すす)めは出来ない。^^
夏の真っ只中、公民館の一室で暑さを紛(まぎ)らす納涼講談会が開かれている。主催者は地元の講談同好会で、会員がその練習成果を発表するといった、いわば学習発表会のような催(もよお)しである。午前の部がひと通り終わり、幕間(まくあい)の昼食休憩に入っていた。見物の老人二人が出された弁当を食べながら話し合っている。
「いやぁ~、ここの講談会の怪談は、ゾクッ! とさせてくれますから、暑さが和(やわ)らいで助かりますなぁ~、ほんとにっ!」
「はいっ! プロ級ですかいのぉ~。私も倍、助かっとるがですっ!」
「と、言われますと?」
「暑さも、ですがのう…」
話す老人は急に声を小さくした。
「私ね、この幕内弁当で助かりよるんですわ」
「ほう! さよで…」
「ええええ。…まあ、お聞きくださいましな。うちの息子の嫁(よめ)、なんと申しますか、たいそう酷(ひど)い嫁でございましてのう。食わしてくれよりましぇん。今日は食えるんかいっ? 明日は食えるんかいっ? てな、ゾクッ! とする日々が続きよります」
「それはまあ、なんともお気の毒な…。それで倍、助かると?」
「ええ、まあ…」
「講談でゾクッ! として、で、食べれてですか?」
「ええ、そげぇ~なりますかいのう」
二人の話は尽きない。ゾクッ! とする気分は、いろいろと助かるようだ。^^
完
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