水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

短編小説集(33)完璧[かんぺき] <再掲>

2024年09月14日 00時00分00秒 | #小説

「それはmade in chinaだっ! 完璧(かんぺき)な日本製は、ないのかっ!」
 課長の木崎は怒りを部下の藤原にぶちまけた。
「これなんか日本製だと思うんですが…」
 恐る恐る藤原は単一の乾電池を手にとって示した。
「馬鹿野郎! それは消耗品じゃないかっ! 私の言っとるのは製品だ、製品!!」
 益々、木崎の怒りは激しさを増し、顔を真っ赤にしだした。こうなっては手がつけられない…と藤原には分かる。
「それは、そのとおりです…」
 藤原は、ともかく木崎に従うことにした。そこへ言わなくてもいいのに藤原の横に座る田向(たむかい)が茶々をいれた。
「旋盤や微細部品なんかの技術はピカ一なんですけどねぇ~」
「ああ…それはそうだ。微細部品や金属圧延、精密機器部品とかは世界トップ技術だがな」
 田向とは馬が合うのか、木崎は怒りをやや鎮めた。話は、いつの間にか枝葉末節な世間話に変化していた。
「昔は小さな製品でもすべて国内生産でしたが…」
「そうそう。人件費が安い海外での現地生産になって久しいが、完璧に国力は落ちている」
「根を伸ばし過ぎて根腐れを起しかけた鉢ものみたいですね!」
「上手い! そのとおりだ。現地人の生産力に頼ってる訳だ。今、語られるのはGNP[国民総生産]じゃないからな」
「はい、GDP[国内総生産]ですよね」
 二人の会話は進み、話を挟めない藤原は面白くない。渋面(しぶづら)を作ると、二人の会話を無視して机上のパソコンキーを叩き始めた。
『完璧な日本? …そういや、今の日本には希少だ…』
 キーを叩きながら藤原は思った。ふと、木崎の話す姿に目がいった。
『いや、課長の頭のかつらは完璧な日本製だっ!』
 そう気づいた藤原は、ニンマリして木崎を垣間見た。
「藤原! なにが可笑しい!」
 木崎がまた落雷した。そのとき、ふと藤原は気づいた。
『課長の雷にも、もう馴れたな。まてよ! 雷は電圧[V]が数千万V~2億V、電流[A]が数万A~数十万Aらしいが、まだ蓄電技術は出来てないらしい。この技術開発や発見、発明が国力の起死回生になるかも知れん。この発想は完璧だ!』
 藤原は笑いを押し殺した。

               THE END


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