水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

めげないユーモア短編集 (52)やってしまおう…

2022年11月23日 00時00分00秒 | #小説

 夏の猛暑の中、それでも桑岡(くわおか)は、めげないでやってしまおう…と蚕(かいこ)のように焼きソバを食べながら思った。めげないで思ったのはいいが、焼きソバを食べ終えると、昨夜の睡眠不足も手伝って、俄(にわ)かに眠気(ねむけ)に襲われた。いやいやいや、やってしまおう…と、桑岡は眠気に負けてはいけない…と思いながら必死に眠気を堪(こら)えた。対する眠気も負けてはいない。いやいやいや…ここは何がなんでも眠らせてしまおう…と、大内刈りをしかけた。ウトウトし始めた桑岡は、危ういところで大内刈りを凌(しの)いだ。そして逆に、袖(そで)釣り込み腰(ごし)を眠気に掛けた。眠気は、おっと、危ねぇ~! と凌(しの)いだ。そして、裾払(すそばら)いにいった桑岡の一瞬の隙(すき)をついて内股(うちまた)を、エイッ! とばかりに掛け、桑岡を跳ね上げた。見事に眠気の大技(おおわざ)は決まり、桑岡は心地よくスヤスヤと投げ飛ばされ、眠ってしまった。
「もうお昼よっ!」
 母親の大声で、桑岡は、しまった! と目覚めたが、昼の時計チャイムが、審判が眠気に片手を上げて勝利宣言をするかのように鳴った。
「ああ…」
 桑岡は、項垂(うなだ)れて眠気に頭を下げ、一本負けを認めた。
 めげないでやろうとしても、生理的要求には耐えられないのが人です。無理に、やってしまおう…と思う独断は、返ってやってしまえなくなりますから、やってしまえるかどうかは十分、考えて判断しましょう。^^

                   完


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