水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユーモア時代小説 月影兵馬事件帖 [スペシャル]  (19)枉神{まがかみ} <再掲>

2022年11月15日 00時00分00秒 | #小説

「さよでございますねぇ~、何分よろしゅうお願い致しやすっ!」
「おお! まあ、ゆっくりしていけっ!」
「いや、そうもしてられねぇ~んでっ! 家(うち)のかかぁ~に、どやされちまいまさぁ~」
「ははは…そりゃ~大変(てえへん)だっ!」
 兵馬が納得すると、喜助は残った冷めた茶を慌(あわ)て気味(ぎみ)に飲み干すと、スクッ! と立ち上がった。
「探りは、そのまま続けてくれ…」
「へいっ! そいじゃあ~」
 喜助が立ち去ると、兵馬はお駒が待つ奥の間へと取って返した。
「なんだったんで、ございます?」
「いやぁ~、大(てえ)したこともねぇ野暮用よっ!」
「さよでしたか…。まあ、お口直しに…」
「ああ…」
 兵馬は、お駒が差し出す地炉利の酒を杯(さかずき)に受けると、グビッ! と飲み干した。
「今日は、お泊りなんでございましょ?」
 少し色めいた目つきでお蔦が兵馬を窺(うかが)う。兵馬としては少し疲れもあってか、あんなことやこんなことを…と思う気分は失せていた。
「んっ!? いや、それがな…。ちと、急ぎの用があってのう」
「さい、ざんすか? ひと月ばかりお見限りでございますのに…」
「そうだったか? まあ、いいではないか。この前、銀の簪(かんざし)を買ってやったではないか」
「ソレとコレとは別の話でござんしょ?」
 少し膨(ふく)れっ面(つら)でお駒は兵馬を可愛く睨(にら)んだ。

             続


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めげないユーモア短編集 (44)ゴキブリ

2022年11月15日 00時00分00秒 | #小説

 ああ、またかっ! と起きたあと洗顔をしていると、ゴキブリがチョチョチョチョ・・と現れて、消え去る。その途端、いい気分のテンションはガタ落ちとなる。めげないで朝の諸事をしていると、また、チョチョチョ・・である。もうっ!! と気分がいささか険悪になってくる。ゴキブリには申し訳ないが、家の中繁殖していただいては困る。なぜ困るのか? は、衛生上、不潔だから害虫と世間で評価されているからだろう。ゴキブリもめげないで現れるのだろうが、コチラだってめげないで現れなくしようとする。そこに気分の葛藤が生じる訳だ。ああ、嫌だ嫌だっ!^^
 とある家庭である。
「お父さんっ! また、ゴキブリよっ!!」
「おお、そうか…。まだいたんだな。この家も、まだ住みよいようだ…」
「なに言ってんのよっ! ゴキブリよっ、ゴキブリっ!!」
「んっ!? ゴキブリだろっ?」
「そうよ、ゴキブリっ!!」
「よかったじゃないか…」
「どういうことっ!!」
「虫が住まなくなったら、家が終わるらしいぞ…」
「そうなの?」
「ああ。よくは分からないが、どうも、そうらしい…」
「ふぅ~ん。でも、ゴキブリよっ!」
「ああ、ゴキブリだろ…」
 旦那さんは何もなかったように意識しなかったが、奥さんは鋭く意識していた。
 ゴキブリは認識が鋭いと、めげない心が芽生え、めげない手段が施される傾向がある。^^

                   完


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