「さよでございますねぇ~、何分よろしゅうお願い致しやすっ!」
「おお! まあ、ゆっくりしていけっ!」
「いや、そうもしてられねぇ~んでっ! 家(うち)のかかぁ~に、どやされちまいまさぁ~」
「ははは…そりゃ~大変(てえへん)だっ!」
兵馬が納得すると、喜助は残った冷めた茶を慌(あわ)て気味(ぎみ)に飲み干すと、スクッ! と立ち上がった。
「探りは、そのまま続けてくれ…」
「へいっ! そいじゃあ~」
喜助が立ち去ると、兵馬はお駒が待つ奥の間へと取って返した。
「なんだったんで、ございます?」
「いやぁ~、大(てえ)したこともねぇ野暮用よっ!」
「さよでしたか…。まあ、お口直しに…」
「ああ…」
兵馬は、お駒が差し出す地炉利の酒を杯(さかずき)に受けると、グビッ! と飲み干した。
「今日は、お泊りなんでございましょ?」
少し色めいた目つきでお蔦が兵馬を窺(うかが)う。兵馬としては少し疲れもあってか、あんなことやこんなことを…と思う気分は失せていた。
「んっ!? いや、それがな…。ちと、急ぎの用があってのう」
「さい、ざんすか? ひと月ばかりお見限りでございますのに…」
「そうだったか? まあ、いいではないか。この前、銀の簪(かんざし)を買ってやったではないか」
「ソレとコレとは別の話でござんしょ?」
少し膨(ふく)れっ面(つら)でお駒は兵馬を可愛く睨(にら)んだ。
続