水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユーモア時代小説 月影兵馬事件帖 [スペシャル]  (21)枉神{まがかみ} <再掲>

2022年11月17日 00時00分00秒 | #小説

「その徳利坂がどうかしたかっ!?」
「へいっ! どうも、あっしが調べた諸々(もろもろ)を繋(つな)ぎ合わせてみますとね。その得体(えてぇ~)の知れねぇ~者(もん)の仕業(しわざ)じゃねぇ~かと…」
「お前は、そう思うんだな?」
「へえ、そう思いやす…」
「そうか…喜助がそう思うのならば、恐らくはそうであろう。身共(みども)も暇(ひま)な折りに、それとなく調べてみよう」
「へえ…」 
 次の日は兵馬の休み番だった。
「おはようございます、旦那様っ!」
 寝所でぐっすり眠っている兵馬を叩き起こしたのは、女中頭お粂に見込まれた代理の女中頭、お里だった。お里は寝所の襖(ふすま)越しに大声を出した。
「ったくっ! 困った子だねぇ~! 旦那様はお疲れなんだから、起こす馬鹿があるかいっ!」
 お熊はお里を女中頭とは、いっこう思っていない様子で叱りつけた。これでは、どちらが女中頭なのか知れたものではない。ただ、お里は若かったから、さほども気にしていない様子だった。兵馬は、朝から賑(にぎ)やかなことだ…と思いながら、また四半時ほど寝床でウトウトと微睡(まどろ)んだ。
 その日の午後、兵馬は油問屋の伊豆屋の店先にいた。
「お前が人変わりした番頭の与之助か?」
「はあ、さようでございますが、人変わりしたとは?」
「いや…なんでもない」
 人変わりしたことを当の本人が分かる筈(はず)がない…と瞬時、兵馬は思え、話を暈(ぼか)した。
「あの…月影様、今日はどういったご用向きで?」
「いや、まあな…。ははは…気にするなっ!」
 取り分けて用があって店へ入った兵馬ではなかった。奉行所の取り調べではなく、与之助の人変わりの一件を調べているのである。事件でもない調べを、大っぴらに言える訳がない。
「そうでございますか…。それじゃ私はこれで…。帳簿の整理がございますもので…」
「おっ! そうか…。ではのう!」
 そう言われては、兵馬は店を立ち去るしかなかった。

             続


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めげないユーモア短編集 (46)ファイト

2022年11月17日 00時00分00秒 | #小説

 めげないためにはファイトが欠かせない。
 とある田舎の町である。梅雨が明け、俄(にわ)かにムッ! とする暑気が辺(あた)りを覆(おお)い尽くしている。炎天下の路地で、知り合いの老人二人が話をしている。
「暑いですなぁ~」
「さようで…。梅雨が明ければ、このザマですわっ!」
「ここでの立ち話もなんです。そこの小屋の軒下(のきした)で…」
「ははは…お互い、熱中症で病院搬送は嫌ですからなっ!」
「私も昔人間ですから、これくらいの暑さには、めげんのですが…」
「私も、めったなことで暑さにはめげません。しかし、年々、暑いですなっ!」
「確かに…。では、そういうことで、めげないで一局をっ!」
「今日は、お宅で、でしたかな?」
「はい、そうでしたな…。冷たいものと鰻重、白焼きは準備しておりますので…」
「ははは…それが楽しみでしてなっ! 楽しみがあれば、めげませんなっ!」
「ははは…確かに…」
 二人は笑いながら対局場となっている家の方へと歩き出した。
 楽しみがあればファイトが出て、めげないようである。^^

                   完


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