水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユーモア時代小説 月影兵馬事件帖 [スペシャル]  (22)枉神{まがかみ} <再掲>

2022年11月18日 00時00分00秒 | #小説

 伊豆屋から去った兵馬の足は、いつも寄るお芳の置屋の方へと向かっていた。道すがら思うことといえば、徳利坂の怪だった。随分と前になるが、そのようなこともあったな…と思い返すが、そのときの妖怪のことまでは分からなかった。はっきり言えば、忘れてしまっていたのである。
 歩く速度を落とし、ついには立ち止まって腕を組みながら兵馬は考えた。しばらくすると、徳利坂…徳利…徳利の精…と考え巡る中で、身体が浮いたことがあったことを思い出した。しかし今回は人変わりである。人の性格が一変するこの珍事と身体が浮くことの脈絡(みゃくらく)がない。それでも喜助の話だと徳利坂の怪に似通っているという。兵馬にはどこが似通っているのかが分からなかった。
 油問屋の伊豆屋から一町ばかり歩いた頃、一匹の白い猫が兵馬の前に現れた。猫にしてはトップリと太り、尻尾も尋常でないほど太長く、それでいて地面に垂れるでなく直立している。兵馬は妙な猫だな…と、歩を止めた。すると突然、その猫は神隠しにでもあったように消え失せた。
『久しいのう、そこのお方…』
 猫が消え失せるのとほぼ同時に、どこからか荘厳(そうごん)な声が兵馬の耳に聞こえた。
「出たなっ! 物の怪っ!!」
 兵馬は刀の柄(つか)に手をかけ一瞬、身構えた。
『物の怪とは心外っ! 聞き捨てならんっ!』
 どこからか聞こえる声は少し怒りの感を増して響いた。そして、消えた猫が再び姿を現すと兵馬の前で動きを止めた。兵馬としては行く手を遮(さえぎ)られた格好だ。

             続


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めげないユーモア短編集 (47)社会

2022年11月18日 00時00分00秒 | #小説

 社会は日々、発展、変貌(へんぼう)を繰り返している。はっきりと、ああ、君がニューフェイスだなっ!? 僕はこういう者でカクカクシカジカだから、今後はよろしく頼むよっ! などと面と向かって挨拶できる存在ではない。なにせ、相手は見えないからである。^^ 社会の変化についていけなくても、普通の人の場合は、めげないで歩調を合わせる他はない。芸能関係の方は別で、ほうっ! そういうふうに変わったのっ!? ダサいねっ! で、済ませることが出来る。社会システムに迎合する必要がないからだ。いいですねぇ~。^^
 とある夏の茹(う)だるように暑い昼間である。どこにでもいるような若者、二人が、かき氷[正確にはレモン味、もう一人はイチゴ味]をシャリシャリ混ぜ食いしながら語り合っている。
「駅前のラーメン屋、なくなったぞっ!」
「ああ、豚屋(とんや)だろっ!? 薄塩(うすじお)の鳥ガラスープ、縮(ちぢ)れ麵(めん)、バター味・・もう一度食いたかったなっ!」
「そういや、豚屋のとなりの空き地、今、何やら建ててるなっ!?」
「ステーキの店・牛窪(うしくぼ)が隣町から引っ越してきたんだっ!」
「社会は変わるなっ! 豚が牛か…、俺達もめげないで食われんように働かんとなっ!」
「だなっ!」
 社会がどんどん変わっていく中、人々はその社会に食われないよう、めげないで必死に生き続けているのである。ああ、なんと哀れな世の中でしょう。レ・ミゼラブル!^^


                   完


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