「パティシエになりたーい!」ブログ。

元パティシエ・オペラのお菓子の話やらオタクっぽい話やらのごちゃ混ぜブログ。

「アフターダーク」感想文

2008-09-08 23:13:46 | 感想文
先日、図書館でこれを見つけたときも、
ずっと前…これが新刊として出たときも(当時書店員でした)、
中身をぱらぱらって読むことはしなかった。
読むなら、ちゃんと読もうと決めてた。読み始めたら最後までいくだろうってことがうすうすわかっていたから。「海辺のカフカ」上下巻を一晩で一気に読んでしまったという前例もあることだし。

そういうわけで…
案の定、一気に読み終わった私は、ふと思い出したことがあった。
ペン立てにしている缶を探ってみる…あった。
私は、こういうのは異常に物持ちがいい。特に紙媒体。

これは、発売当事に書店に配られた販促グッズの「しおり」。
確か5種類くらいあって、それぞれがこういう感じだった。どれも暗めの濃い色で、絵があって、小さな字でセリフが一言添えられている。私が一番好きなのが、これだった。
トロンボーンの絵。
「音楽を演奏するのは、空を飛ぶことの次に楽しい」の言葉。

他には「逃げられない。どこまで行っても逃げられない。」とか「これからしばらくの間眠る」とかだったと思う。どんな話なのか全然予想がつかなかった。あ、あと「ゆっくり歩け、たくさん水を飲め。」もあったな…。これはPOPに書いてあったのかもしれない。そういやあれももらったはず…どこいった?(絶対、この部屋のどこかにある。)

しおりをなにげなく裏返してみた。
「書き下ろし最新作 作家デビュー25年記念 9月7日発売」
…なんという偶然。図書館で借りてから、数日放置して…さあ読もう!と決意して、読みきったその日は、この本が出た日だったんだ。4年前の。
なんとなく、うれしい。


(以下、めっちゃネタバレあります。)


半分まで読んでも、「これがどんな話なのかわからない」というのは、ちょっとした恐怖だった。前情報をできるかぎりシャットアウトしてきたのは自分だけど…それにしたって。すでに半分読んでいるのに、誰の物語かすらわからない…。どうなっていくのか全然わからない…。

だから、4分の3ほど読んでやっとマリが高橋に向かって「エリは今、眠っているのよ。」と口に出してくれた時にはほっとした。やっとつながったって。2つの違う場所がやっとつながった。しかもエリのいる場所は、読んでて不安になるくらい不思議な場所だったから、「夢の世界なのかも」と思えることは…一種の救いだった。…エリにとってじゃなく、視点としての…私にとって。…文中の、エリを見つめる「視点」は、それはまた私のものとは違っていたから。


上のセリフから、とりあえず主人公はマリでいいんだろう…とより安心して読み進めることになった。高橋が大きな鍵を持ってそうだったけど、どうやらそうではなさそうだし。これで…安心できる。

安心…安心ってなんだろ?

小説を読むときにはイメージを頭の中に描きながら読む。…それは、ある程度展開の予測ができないと、とても困難な作業になる。…展開の予測、と言っても、結論が見たいわけじゃなくて…ただ、自然に、1分後の行動が想像できるだけでいい。会話が始まった…マリはあんまり積極的に会話を広げようとはしないだろうけど、このまましばらくはこののんびりした会話が続くのだろう、とか。そういう。1分刻みで舞台がガラガラ変わったり、しゃべる人がガンガン変わったりすると、もうイメージは描けない。イメージが描けなくなると、読むスピードがガクンと落ちる…。そうなると大抵、「読むのがしんどい」と思って、読むのをやめてしまう。
だから、(一応の)主人公は誰なのか…その人はどうしたいのか…がわからないと不安になるし、わかると安心して、読むスピードが加速していく。
「海辺のカフカ」の時は、二人の視点が章ごとに切り替わって進んでいく物語だった。視点が切り替わるたびにそれまでの加速度がゼロになってしまうのだけど、後半はその加速→急停止→再び加速という自分の脳の動きがちょっと快感になってきて、こういう読書の楽しみもあるんだなあ…と思ったものだ。それを少し思い出した。


マリと高橋の会話のシーンが好きだ。深夜のファミレスで出会って、話をする二人。初めは警戒している風のマリが、だんだんと心を開いていくのがかわいらしい(って書くと恋愛小説みたいだ…全然ちゃうけど)。こういう会話をしてみたいなと思う。小粋だなあと。


夜の街を舞台に、話と時間が進んでいく。
私自身は…夜の街なんて今のところ恐怖しか感じない。そこで過ごす人の気持ちなんて全然わかんないや~…と思う。舞台となるファミレスも、ラブホも、バーも、公園も、コンビニも…夜中であるということに魅力は感じない。
だけど、そこで生きてる人というのは確かにいるのだなあ、と思った。普段目をそらしている方面のことだし、今後もなるべく関わりたくはないと思うけど…私は。
マリも、夜の街に慣れているわけではないようだ。…彼女が一晩に出会った人たちと、そこでなされた会話のすべてを思い出すと…ちょっとだけ、いいなあとは思うけど。

…打ち明け話って、話せるほうがいいよね。聞かされるより。いや、聞かされるのもある意味いいことだけど。
この一晩の間になされた、いくつかの打ち明け話。
その中でも、私の心に一番残ったのはマリと「コオロギさん」とのもの。
後半のコオロギさんのセリフは、思わず手帳にメモってしまった(えー)。

「そやからね、マリちゃんもちゃんとええ人を見つけたら、そのときは今よりもっと自分に自信が持てるようになると思うよ。中途半端なことはしたらあかん。世の中にはね、一人でしかできんこともあるし、二人でしかできんこともあるんよ。それをうまいこと組み合わせていくのが大事なんや。」



…私の、小説の読み方はやっぱりおかしいんだろう。
いつも、自分にも当てはまる言葉を、それだけを探してる。励まされる言葉を、支える言葉を。
登場人物たちの心の動きも、自分もこうできたら…とくらいにしか思わない。

だけど、こんな出会いをしてみたいと思った。
一晩のうちに。打ち明け話ができる人と出会いたい。
ううん、そうじゃなくても…知ってる人とでも…こうやって意味のある会話をしたい。粋で、かつ、前に進めるような。





…変な感想文!
いっつもへたくそだとは思うけど、今回ほどわけわかんないのもないな!さすがのうちですら投稿ボタンを押すのがためらわれるぜよ!(←誰)
でも、読んで感じたのは確かに、こういうことなんですよね…困ったなあ。