ファラオと神官団vsゾークと闇の大神官の、最後の戦い。
力を合わせて戦うファラオ軍だが…ゾークの前では最強の攻撃でも全て、歯が立たない。さらに攻撃力も圧倒的。ファラオを守るため、今度はシャダが命を落とす。
「グフフフ…!これで神官も残るは二人…。ファラオも傷つき、神を召喚する力も残されておるまい…。ゾーク様の闇の力に歯向かう愚かさにまだ気付かぬか!セトよ!!」
その言葉で…「闇の大神官」、その仮面の男がアクナディンであるということを確信するセト様。衝撃を隠さないまま、叫ぶ。
「何故…!!我々を裏切り、闇との契約を!何故、そのような愚劣な行為を!!」
そんなセト様を見て、アクナディンは回想する。
「(セト…。私はその目を昔も見たことがある…。お前は記憶しておらぬだろうが…。)」
千年眼と契約した時、化け物を見たかのごとく怯えた表情を見せた「息子」…。
「(私は化け物などではない…。お前の父なのだ……!!)」
心の叫びは当然届かない。目の前にいるのが父だとは夢にも思わない彼の息子は、「恩師」に向かって刃を向ける。
「アクナディン!たとえ我が師であろうとも、邪神の手先に堕ちた者は我が敵なり!!
今…生涯に一度あなたの意に叛き…あなたを倒す!!」
剣をかまえた精霊デュオスが闇の大神官に襲い掛かる。が……すさまじい力で反撃される。叫び声を上げるセト様。
「セトよ…お前の苦しみは真に進むべき道を示す!まやかしの正義など、精霊と共に打ち砕かれよ!!」
膝をついたセト様のところに、ファラオ達がやってくる。その意志に従い、ブラックマジシャンとガールが守るように前へ出るが…闇の大神官は次に、大量の死霊の軍勢を土から呼び出し神官達を襲わせた。その数相手に、すでにかなりのダメージを負っているファラオ軍は苦戦…。
その混乱の中、立ち上がれないままのセト様のそばに、闇の大神官が近づく。
「(セトよ…お前に力を授けてやる…。私と共に来い……。)」
大事なものを扱うかのように、そっとセト様の前に膝をつき…
気がつけばそこは、崩壊していく王宮。
その光景にショックを受けるセト様。そして闇の大神官の言葉に…この城に隠したキサラの事を思い出し、傷だらけの体で走り出す。
その背中に呼びかけるアクナディン。
「セトよ!あの娘死す時…お前に大いなる力が宿る瞬間となる!
闇の世界の王となれ!息子よ……!!」
ゾークが復活して、王宮が、世界が滅びようとしている。
しかもその復活に関わったのが、尊敬する師であった。
それだけでも、セト様にとっては信じたくない事実であるはずなのに…ここに来て衝撃の告白。
父なんだと。
生きていたんだと。
今まではその事を語らず、それでもそばで見守ってくれていた。
…状況が違えば、感動の告白になったかもしれないのに。
今はセト様をより追い詰める言葉にしかならない。
父である、アクナディンは言う。先王アクナムカノンは自分の兄であり、セト様には正当なる王族の血が流れているんだと。
「ファラオと我らの運命は光と影。だが闇の力の目覚めによって世界は新たな時代を迎える!憎きファラオを抹殺し…我らがこの世を支配するのだ、セトよ!」
駆け出そうとしたまま動けず、背中でその言葉をずっと聞くことになったセト様の目に映る……いよいよ倒壊しそうな王宮。脳裏に浮かぶキサラの顔。それを見抜いたかのように、さらに背後の言葉は続く。
「あの娘は死ぬ運命なのだ…。お前が神を宿すためにな!
白き龍と共に王となれ!息子よ!!」
そこまで、振り向かず、反論もしなかったセト様だが、ここで意を決して振り向く、父で、師で、闇の手先である男に向かって叫ぶ!
「たとえ…あなたが父であっても…私は闇に魂は売らぬ!!」
走り出すセト様。無言でその、去り行く背中を見つめるアクナディン…。
兵士の制止の言葉もふりきり、建物内へと入るセト様。向かうはキサラのいる部屋。
「キサラ、無事か!」
「セト様…!!」
急いで入り口の鍵を開ける。
「この城はじきに崩れ落ちる…。」
「なぜこのような災いが…!」
「来い!!」
すぐに脱出するべくきびすを返した背中に、キサラは…不安げな顔で、持ち続けていたのであろう疑問をぶつける。
「もしや、私に宿るという魔物の仕業では…。」
その言葉に一瞬驚くが、すぐさま否定するセト様。
「いや違う。この災いは悪しき闇に捕われた人間の業がもたらしたもの…。人間という魔物のな…。」
まだ不安げなキサラに、こう続ける。
「安心しろ…。お前は魔物など宿してはおらぬ…。」
…そう。キサラが宿しているのは精霊、という意味だけでなく……闇へと捕われた人の心こそが、何よりも恐ろしいものなんだ。
ここのセト様の表情は、何かとても優しく見える…。
王宮から無事脱出。キサラに、早くこの城を離れるように言う。
「(キサラよ…。お前は闇に捕われず、光を求めろ!)」
…しかし、そこに、目の前にまた、現れる「父」…。
「何故だ…!息子よ…!何故…娘を逃がす…!お前の千年錫杖の力で、あの娘から神を抽出すれば王となれるのだぞ!」
セト様を揺さぶるのは、その迫力だけではない。…しかし、しっかりと彼を見返し、こう告げる…。
「…私の…誇り高き父は…遥か昔…戦場で、勇敢に命を散らせたのだ…!」
拒絶の言葉に、沈黙は一瞬。
「もうよい…。私が神を与えてやる…。」
背後にはキサラがいた。
逃がしてくれたセト様が心配になって戻ってきたのか、それともあまり進めないうちだったのか、…自分が狙われているなんて思いもしなかったのであろうその表情は、……次の瞬間に永遠に失われる。
闇の大神官の攻撃がキサラを襲う。
笑う大神官。絶叫するセト様……。
シモンが召喚した伝説の守護神「エクゾディア」の攻撃も…ゾークには敵わず、…それでも闇に屈せず、立ち向かうファラオ軍。
しかし圧倒的なゾークの攻撃力の前に今度こそファラオの魂も尽きようとした、その時!表遊戯達が!
ファラオを守るように4人、決闘盤を構えて立っている姿がめちゃくちゃかっこいい!!
「(もう一人のボク…!大丈夫!!君にはボクら、仲間がついている!!)」
決闘盤からドローしたカードでモンスターを呼び出し闘う表遊戯と城之内。しかしそれも効かず、強烈な反撃が返ってくる。前に飛び出したのは…仮面の男、ハサン。モンスターでゾークは倒せない、王墓で見つけた王の真の名前をファラオに伝えろって言って…消滅。最後に、割れた仮面から見えた顔は、あのシャーディーだった……。
真の名前は見つけた。しかし現代の表遊戯達には読めない古代文字で描かれていた。どうやってファラオに伝えるのか…。…杏子が気づく、ファラオの首のカルトゥーシュのペンダント。
表遊戯・城之内・杏子・本田の4人は手を出して重ね、記憶の中の古代文字を、ファラオのペンダントに刻む。闇様の心の迷宮の中で、真実の扉を見つけ出した時の様に。
"結束こそが勝利の鍵"
ハサンの…シャーディーの最後の言葉…。
カルトゥーシュに浮かび上がる、三千年の間…封印されていた真の名前。
「我が名は……アテム!!」
王の名は三幻神を呼び、束ねる。
三体の神の融合態…「光の創造神ホルアクティ」の放つ光が、ゾークを…闇を、一撃で葬る。ファラオ軍の、勝利……!
勝利を喜び合うのも束の間、大地の崩壊は未だ続いている。ファラオは、この世界の住人ではない4人に先に脱出するように言い、……自分は、走り出す。姿の見えないセト様と、アクナディンを探し出すために。
ゾーク・ネクロファデスは倒した。しかし、まだ、終わってはいない…。
何も描かれていない石版の前で、キサラの躯を抱き、うなだれる様にしているセト様。
二度と開かないその瞳。二度と動かないその口。死してなお美しいその顔を見つめる。
「(邪神滅びし光も、我が心には射し込まぬ…。胸を刺すのは、真の光を失った…哀しみ……。)」
「(キサラよ…許せ…。お前を閉じ込めていたのは、我が心の牢獄に他ならない…。闇に侵食されてゆく心に、一点の光を灯しておきたかったのだ…。
それはお前が宿す精霊ではない…。キサラ…お前自身の光を……。)」
独白を続けるセト様の心に、声が響く。
「(セト様…。せめて…精霊の光と共に、あなたをお守り致します…。)」
そこに、ゾークが倒されたことを知り、取り乱したアクナディンがやってくる。
セトに向かって叫ぶ。ファラオを殺して、後世を闇で染めろと。お前は選ばれし王なんだと。
その声に振り向くセト様。
ゾークが倒されたのにまだそんなことを言う男。腕の中のキサラを、一番大事な存在だったキサラを、殺した張本人。
「(今、我が心は憎しみの闇に支配されている…。父を名乗るこの者に…。
だが、たとえ…父であろうと…どんな姿であろうと…あなたは私が忠誠を誓い、恩義を忘れ得ぬアクナディンなのだ…。)」
怒りの矛先を、セト様はアクナディンには向けない。向けることができるはずもない。それだけ信じていたのだ。父だからではない。今までずっと信じていたのだ。
…胸の内に広がる憎しみの闇を抑え、冷静に言葉を返すセト様。
「この世界はやがて滅びゆく…。この期に及んで権力の座を賭してファラオを倒すことに何の意味が…。」
でもその言葉も、…セト様の内なる怒りも悲しみも、…混乱も逡巡も、もうアクナディンには伝わらない。仮面をはずして素顔を晒し、叫ぶ。
「我が息子よ!お前の力なら…私の…敗北者の血筋を塗り替えることができる!!」
「セト…お前の血と肉は我が分身…。最後に我が力と魂を授けてやる…。」
そう言いながら、大地の裂け目の淵に立つアクナディン。
「息子よ…。私は、お前を心から愛していた…。」
その言葉に、衝撃を受けるセト様。
「お前の体に流るる血よ!我が愛で湧き、王の憎しみに沸け!!」
叫んで…大地の裂け目に身を投げるアクナディン。
「(我が魂と一体となり、闇の王となれ!セトよ!)」
セト様は最後に
「(父上!!)」と叫んで……
ようやくセトを見つけ出したファラオだったが、仁王立ちしている彼の背後には、龍の描かれた石版。
「待っていたぞ、ファラオ…。
フフフフ…、無残にも王宮は崩れ堕ち、貴様も今や裸の王同然…。」
どこかで聞いたセリフ。しかしセト様は、すでにいつものセト様ではない…。
「ファラオよ…、この場で貴様を倒し、我こそが新たな王の証を手にしてやる!ワハハハハ!」
今、…セト様の中にはアクナディンの邪念が宿っている。本来のセト様の人格の意識は消えてはいないものの…跪いて地を見つめるのみで、完全に主導権が奪われてしまっている。
…何故、そうなってしまったのか。
きっと、あの飛び降りる直前の言葉が、セト様の自由を奪った。
「お前を心から愛していた」
本当の父親からの言葉。その秘めた想いを知らずにいた罪悪感、知った後も拒絶してしまったという罪悪感。
大地の裂け目の闇の中に身を投げ、目の前で命を絶った父親。
愛していたという言葉に縛られる。報いれなかった事実が自らを苛む。
"罪は人の心に「恐れ」を生む…。「恐れ」は人を果てなき闇に誘うのだ!"
「人」であった頃のアクナディンの言葉…。
彼はその後、言葉通りに闇に堕ち、息子も共にひきずりこんだ。
闇の中で…罪の大きさに、闇の濃さに…顔も上げられないほどになってしまっているのに、その姿を見ることはせず、息子の体と意識を操り、ファラオを倒そうとしてる。息子のために。息子であるセトを、王にするために…。
…アクナディンの、息子への愛は、確かに本物なのかもしれない。
だけど、だけど……これじゃ…セト様は…!!
ファラオは、セトの様子が尋常でないことに気づく。アクナディンに意識をのっとられているんだろうということも。
しかし言葉では止められない。石版から白き龍を召喚して、その神にも匹敵する力で、ファラオのブラックマジシャンを簡単に、石版ごと破壊してしまう。
「ククク…魔術師(しもべ)を失ったな…。まさに、裸の王にふさわしい姿よ!!ワハハハハ!!」
セト様の意識の中で、アクナディンも笑う。
「覚悟しろ…アクナムカノンの息子よ…。積年の思いをこの一撃に込め…貴様の息の根を止めてやる…。クハハハハ!!」
だが、ファラオの目の光は消えない。闇に捕われた「セト」に呼びかける。
「セト…。オレの声が聞こえるか…。」
わずかな反応。しかしまだ顔を上げ、立ち上がるには至らない。
ファラオは畳み掛けるように叫ぶ。
「オレが倒されても、闇に支配された貴様ごとき、真の王にはなれない!!
貴様にこの光が、受け止められるか!心の牢獄で、王として輝き、誇れるか!!」
さっきよりも確かな反応。しかし主導権を離さないアクナディンが、かまわず攻撃をしかける!
「白き龍よ!ファラオを抹殺せよ!!」
…ああ、ページをめくらなくても、手に取るようにわかった。
次に何が起こるのか。
「青眼の白龍」が、どういう行動を取るのか。
絶叫するアクナディン。
「何故攻撃しない!」
攻撃命令を拒否した白き龍は、消えていく。
石版からもその姿を消し……現れたのは、セト様の意識の中、だった。
まず、光が射し込む。
その光にセト様が顔を上げると…人影が見える。
キサラだった。
「セト様…。
闇に…捕われてはなりません……。」
その言葉に従うように、セト様の意識は闇から脱出。
そしてアクナディンに向けられる、白き龍の滅びの威光…。
叫び声を上げて、光に焼かれながら……最期に思うのは、愛する息子の事。
「(私は千年眼に祈ったのだ…。我が息子を…王に…して見せよ…。)」
最後に残ったのはその千年眼。
「(…セト…)」
光の中、…全てが燃やし尽くされる。
意識を取り戻すセト様。すぐさま気づき、駆け寄るファラオ。
ぼんやりと今の出来事を思い返すセト様。
「(そう…あの時…父上が自らの命を絶ち…我が心を道づれに、深き闇に堕ちた…。)」
光の中で見たキサラの顔を思い出す。
「(私を闇から救い出してくれたのか…キサラ。)」
闇は滅んだ。大地に光は射しているが…、くっきりと深い爪痕も残っている。
多くの仲間を、尊い命を失った。しかし、残った者達は力を合わせて生きていかなければならない…。決して今日のことを忘れずに、それでも未来に向かって。
「セト!お前にひとつだけ頼みたいことがある…。
オレの王位を継承し、新たなるファラオとなってくれ!」
驚き、狼狽するセト様。それならばと決闘を申し込もうとするが、もう時間がない、と…。
セト様はさらに驚く。隣にいるファラオの体が消えていっているのだ。
セト様とは対照的に、落ち着いているファラオ。全ての記憶を思い出したって。おそらく、この先は生きた記憶がないから消滅するんだって…。
でも「その時」とは違う。千年錘は砕かれていない!
「セト!王の証である、千年錘を託す!お前がファラオとなり、この国に平和をとり戻してくれ!!」
ファラオは消えた。
受け取った千年錘を見つめるセト様。
…顔を上げる。傷ついた大地を…傷ついた国を、元の平和な国に戻すという…決意を固めるかのように。
傍らには、白き龍の姿。
「(ファラオ…。)」
きっと、これからどんな時でも、この次なるファラオの側には、この龍が…守るように在り続けるのだろう。
現代の、…美術館のあの部屋に先に戻っていた表遊戯の中に、帰ってきたファラオ…いや、「アテム」。
カタストロフの影響か、ジオラマは砂に埋まりかけていた。
アクナディンのミイラは真っ二つになっていて、ゾークの邪念が滅び去ったことを示している。宿主も気を失っているが、無事。
…記憶を求める闘いは、終わった。
崩れた王宮のあたりを見やるアテム。
「(セト…そして、廃墟に残された者達…。彼らは新たな世界を築き、その魂の光は、次の世代の者達に受け継がれていくだろう…。
オレには見えるぜ、セト!燦然と輝く、栄光という名の光が!!」
新たな六神官を従え、新たなファラオとして民を導くセト様。
頭上には、あの、石版…。アテムと、セトの闘いの記憶であり、死者への祈りを記したあの石版……!
(「転」へつづく)