子供の頃に読んで、忘れられなかった本。
図書館で借りて、改めてこれは、手元に置いておきたい本だな、と思った。
絵本と言うには文字が多い。ほとんどのページに挿絵はあるけど。
その、しっかりめの「読み物」ってとこが好きだった。
大きくなってから誰に聞いても、この話の事を知らなかった。(ほぼ「『みにくいあひるのこ』じゃなくて?」って言われる)
その、有名すぎない「おはなし」ってとこが好きだった。
(有名すぎる「小公女」とかも大好きだったけど)
むかしある王国に、なに不自由なく暮らしていた王女がいました。
ただひとつのことをのぞけば世界一しあわせなおひめさまでした。
(表紙カバーの折り返し部分より)
王女エスメラルダがひとつだけ持っていなかったもの、それが「うつくしさ」でした。
「みにくいおひめさま」として国中に知られていた王女さま。
顔色や姿勢はすごくいいんです(教育は一流なので)。ただ、顔つきがどこかおかしい…。
鼻はつんと上を向いていて、口はへの字に曲がってて、目には輝きがない。
王様もこれには大変嘆いていて、名医を集めたりもしますが、どうしようもない。
一人の医者の提案で、「王女を美しく変えることができれば金貨一袋」というおふれを出すことにします。この国は大きいから、どこかにそんな魔法を知ってるものがいるかも、ということで。まさに藁をもすがる思いです。
失敗したら首をはねるとおふれに書いてあったためか、最初は誰も名乗り出てこなかったけれど、
そのうち一人の女性がお城を訪れます。魔女っぽくない、いかにも普通の女性が。
魔法の力の証明として彼女が見せたのは、5人の美しい娘の写真でした。
9か月の猶予があれば、王女を美しくできると。
そのためには王女に、自分の家で娘たちと一緒に暮らすのが条件だと、彼女は言います。
王様は最初はそんなことはできないと驚いて言いますが、最終的には彼女の「魔法」を試してみようという思いから、いやがる王女にその女性と一緒に行くように言うのでした。
王女はそこで、5人の娘と夫人と一緒に生活を始めます。夫人は王女を特別扱いせず、娘たちと同じように扱いました。
最初はお城に帰りたいと大泣きしたり、自分も家の仕事をしなければいけないということに怒っていた王女ですが、次第に、「自分は何もできない」ということを実感していきます。仕事はもちろんだけど、遊びだって5人の娘たちの方がずっとたくさん知ってたり。自分よりちいさい一番下の子が、上手に木登りしてたりね。
朝おきたとき、ベッドをきちんとととのえておかなかったら、夜はくしゃくしゃのシーツでねなければなりません。食事のテーブルにお皿をならべる手つだいをしなかったら、エスメラルダの席には、お皿がおいてもらえません。ぬいだ服をきちんと、かけておかなかったら、しわくちゃになっても、だれもアイロンをかけてくれません
ここ!ここの部分は、…この絵本を読むのはそれこそ数十年ぶりだというのに、ずっと忘れられない部分でした。シーツを伸ばす度に、思い出す部分でした。…まあ、私のはベッドじゃなく、布団なんですけどね。
娘たちは仕事をする時も実に楽しげで、その様子を見ながら王女はだんだん、いいつけられた仕事も嫌がらずやるようになっていきます。
ある時娘の一人がパンを上手に焼いて取り出すのを見ながら、うらやましそうに王女は言いました。
「フロリー、わたしもあなたみたいに器用だといいのに。」
その瞬間、不思議なことが起こります。王女が急いで鏡を覗きこむと…
みっともなく上を向いていた鼻が、下を向いていたのです!
王女は「魔法が効いた」と喜ぶのですが、夫人は静かに、王女が人に対して鼻高々ではなくなったからかもしれませんよ、と微笑んで言うのでした(決して、嫌味っぽくじゃなく)。
…そんな感じの出来事をいくつか経ながら、王女はうつくしく変化していく、そういうお話です。
子供の頃の私はこれを読んで、とても励まされる思いでした。その頃からお世辞にも「かわいいね!」って言われるような外見じゃなかった私ですので、本当の美しさとは、内面も大きく影響するのかもしれない…と、ぼんやりと思ったのでした。
それなら、自分でも目指せるかもしれないって。
じゃあせめてうちは「徳」のある人間になりたいと、子供心に真剣に願ったことも、よく覚えています。それで外見の分もポイントを少しでも稼げたらって…(何かこの書き方、嫌やな…)
まあ、大人になったら忘れてたんですけどね!!(…………)
一番好きなのは、王女がマフィンを作るシーン!
雨の日に、お城ではお盆にのって、あったかなマフィンが出てきたことをふと思い出した王女が自分で作ってみようって決めて、皆が休憩のお昼寝をしている中、一人で台所に向かうんですよね…!そして悪戦苦闘しながらも、マフィンを作ってオーブンへ入れるのです。
みんながおひるねからさめて、エスメラルダはどこかと、さがしにやってきたとき、とくいまんめんのエスメラルダは、ちょうどオーブンから、パリッときつね色に焼けたマフィンを、どっさりとりだしているところでした。
みんなが、どんなにおおさわぎをしたか、おわかりでしょう。エスメラルダのマフィンは、世界一じょうできとはいえなかったかもしれません。まんなかが、ちょっとなまやけだったし、よく見ると、はじっこがすこしひしゃげていましたが、エスメラルダは、このうえなくまんぞくしていました。
絵本や童話の中で、おいしそう!とか幸せそう!って思う食べ物のシーンはたくさんあると思いますが、私の中ではこのシーンはその、かなり上位にランクインします。
このシーンのおかげで、うちは「マフィン」ってちょっと特別やしね…!
鼻は上品に下を向き、唇の両端は微笑んで上がり、目はお星様のように輝いて。
美しくなった王女様に、迎えに来た王様も大喜び。国民も大喜びでお祭り騒ぎです。
でもエスメラルダは、その騒ぎの中心で一人、嬉しいながらも控えめにしていました。落ち着いた頃に、王宮の中の一つの家を作り替え、その家族が移り住めるようにしました。
そして王女はちょくちょくそこへ遊びに行って、クッキーを焼いたり、リンゴの木に登ったりしました。
自慢だったピカピカの自転車や、子馬や、ローラースケートを快く姉妹たちに貸してあげました。
9か月の「魔法」は、王女の心も大きく成長させたのです。
この物語も『いつまでもしあわせに暮らしましたとさ』みたいなフレーズでシメられるんですが、美しくなって隣の国の王子もメロメロで、国家も安泰!だけじゃなく、そういう…王女の内面の成長が最後まで描かれてるのがすごく好きな部分です。
王女様のマフィンはどんなのだったかな、と思いながら久々にマフィンを焼いてみた。
ふくらみはイメージ通りですね!
あともっと…黄色い感じで…ほら、パン屋さんに置いてあるみたいな、めちゃしっとりなマフィンにできたらなあ!
色々試してみようと思います。そんで、ぴったりなの見つけたら、「王女様のマフィン」って名前つけるんだ…。
それで「これってどういう意味ですか?」って聞かれたら、意気揚々と「みにくいおひめさま」の話をするんだ……(うぜえ)(私、「ハイジの白パン」も、どういう意味かわかんない人にはめっちゃ説明したいし、します!)。
そして、焼く度に思い出したい。
「作る喜び」を初めて知ったエスメラルダの、微笑みをたたえたくちびるを。
図書館で借りて、改めてこれは、手元に置いておきたい本だな、と思った。
みにくいおひめさま | |
クリエーター情報なし | |
瑞雲舎 |
絵本と言うには文字が多い。ほとんどのページに挿絵はあるけど。
その、しっかりめの「読み物」ってとこが好きだった。
大きくなってから誰に聞いても、この話の事を知らなかった。(ほぼ「『みにくいあひるのこ』じゃなくて?」って言われる)
その、有名すぎない「おはなし」ってとこが好きだった。
(有名すぎる「小公女」とかも大好きだったけど)
むかしある王国に、なに不自由なく暮らしていた王女がいました。
ただひとつのことをのぞけば世界一しあわせなおひめさまでした。
(表紙カバーの折り返し部分より)
王女エスメラルダがひとつだけ持っていなかったもの、それが「うつくしさ」でした。
「みにくいおひめさま」として国中に知られていた王女さま。
顔色や姿勢はすごくいいんです(教育は一流なので)。ただ、顔つきがどこかおかしい…。
鼻はつんと上を向いていて、口はへの字に曲がってて、目には輝きがない。
王様もこれには大変嘆いていて、名医を集めたりもしますが、どうしようもない。
一人の医者の提案で、「王女を美しく変えることができれば金貨一袋」というおふれを出すことにします。この国は大きいから、どこかにそんな魔法を知ってるものがいるかも、ということで。まさに藁をもすがる思いです。
失敗したら首をはねるとおふれに書いてあったためか、最初は誰も名乗り出てこなかったけれど、
そのうち一人の女性がお城を訪れます。魔女っぽくない、いかにも普通の女性が。
魔法の力の証明として彼女が見せたのは、5人の美しい娘の写真でした。
9か月の猶予があれば、王女を美しくできると。
そのためには王女に、自分の家で娘たちと一緒に暮らすのが条件だと、彼女は言います。
王様は最初はそんなことはできないと驚いて言いますが、最終的には彼女の「魔法」を試してみようという思いから、いやがる王女にその女性と一緒に行くように言うのでした。
王女はそこで、5人の娘と夫人と一緒に生活を始めます。夫人は王女を特別扱いせず、娘たちと同じように扱いました。
最初はお城に帰りたいと大泣きしたり、自分も家の仕事をしなければいけないということに怒っていた王女ですが、次第に、「自分は何もできない」ということを実感していきます。仕事はもちろんだけど、遊びだって5人の娘たちの方がずっとたくさん知ってたり。自分よりちいさい一番下の子が、上手に木登りしてたりね。
朝おきたとき、ベッドをきちんとととのえておかなかったら、夜はくしゃくしゃのシーツでねなければなりません。食事のテーブルにお皿をならべる手つだいをしなかったら、エスメラルダの席には、お皿がおいてもらえません。ぬいだ服をきちんと、かけておかなかったら、しわくちゃになっても、だれもアイロンをかけてくれません
ここ!ここの部分は、…この絵本を読むのはそれこそ数十年ぶりだというのに、ずっと忘れられない部分でした。シーツを伸ばす度に、思い出す部分でした。…まあ、私のはベッドじゃなく、布団なんですけどね。
娘たちは仕事をする時も実に楽しげで、その様子を見ながら王女はだんだん、いいつけられた仕事も嫌がらずやるようになっていきます。
ある時娘の一人がパンを上手に焼いて取り出すのを見ながら、うらやましそうに王女は言いました。
「フロリー、わたしもあなたみたいに器用だといいのに。」
その瞬間、不思議なことが起こります。王女が急いで鏡を覗きこむと…
みっともなく上を向いていた鼻が、下を向いていたのです!
王女は「魔法が効いた」と喜ぶのですが、夫人は静かに、王女が人に対して鼻高々ではなくなったからかもしれませんよ、と微笑んで言うのでした(決して、嫌味っぽくじゃなく)。
…そんな感じの出来事をいくつか経ながら、王女はうつくしく変化していく、そういうお話です。
子供の頃の私はこれを読んで、とても励まされる思いでした。その頃からお世辞にも「かわいいね!」って言われるような外見じゃなかった私ですので、本当の美しさとは、内面も大きく影響するのかもしれない…と、ぼんやりと思ったのでした。
それなら、自分でも目指せるかもしれないって。
じゃあせめてうちは「徳」のある人間になりたいと、子供心に真剣に願ったことも、よく覚えています。それで外見の分もポイントを少しでも稼げたらって…(何かこの書き方、嫌やな…)
まあ、大人になったら忘れてたんですけどね!!(…………)
一番好きなのは、王女がマフィンを作るシーン!
雨の日に、お城ではお盆にのって、あったかなマフィンが出てきたことをふと思い出した王女が自分で作ってみようって決めて、皆が休憩のお昼寝をしている中、一人で台所に向かうんですよね…!そして悪戦苦闘しながらも、マフィンを作ってオーブンへ入れるのです。
みんながおひるねからさめて、エスメラルダはどこかと、さがしにやってきたとき、とくいまんめんのエスメラルダは、ちょうどオーブンから、パリッときつね色に焼けたマフィンを、どっさりとりだしているところでした。
みんなが、どんなにおおさわぎをしたか、おわかりでしょう。エスメラルダのマフィンは、世界一じょうできとはいえなかったかもしれません。まんなかが、ちょっとなまやけだったし、よく見ると、はじっこがすこしひしゃげていましたが、エスメラルダは、このうえなくまんぞくしていました。
絵本や童話の中で、おいしそう!とか幸せそう!って思う食べ物のシーンはたくさんあると思いますが、私の中ではこのシーンはその、かなり上位にランクインします。
このシーンのおかげで、うちは「マフィン」ってちょっと特別やしね…!
鼻は上品に下を向き、唇の両端は微笑んで上がり、目はお星様のように輝いて。
美しくなった王女様に、迎えに来た王様も大喜び。国民も大喜びでお祭り騒ぎです。
でもエスメラルダは、その騒ぎの中心で一人、嬉しいながらも控えめにしていました。落ち着いた頃に、王宮の中の一つの家を作り替え、その家族が移り住めるようにしました。
そして王女はちょくちょくそこへ遊びに行って、クッキーを焼いたり、リンゴの木に登ったりしました。
自慢だったピカピカの自転車や、子馬や、ローラースケートを快く姉妹たちに貸してあげました。
9か月の「魔法」は、王女の心も大きく成長させたのです。
この物語も『いつまでもしあわせに暮らしましたとさ』みたいなフレーズでシメられるんですが、美しくなって隣の国の王子もメロメロで、国家も安泰!だけじゃなく、そういう…王女の内面の成長が最後まで描かれてるのがすごく好きな部分です。
王女様のマフィンはどんなのだったかな、と思いながら久々にマフィンを焼いてみた。
ふくらみはイメージ通りですね!
あともっと…黄色い感じで…ほら、パン屋さんに置いてあるみたいな、めちゃしっとりなマフィンにできたらなあ!
色々試してみようと思います。そんで、ぴったりなの見つけたら、「王女様のマフィン」って名前つけるんだ…。
それで「これってどういう意味ですか?」って聞かれたら、意気揚々と「みにくいおひめさま」の話をするんだ……(うぜえ)(私、「ハイジの白パン」も、どういう意味かわかんない人にはめっちゃ説明したいし、します!)。
そして、焼く度に思い出したい。
「作る喜び」を初めて知ったエスメラルダの、微笑みをたたえたくちびるを。