真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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大事なことから目を逸らす報道

2024年06月08日 | 国際・政治

 先日、メキシコ市の市長だったクラウディア・シェインバウム氏が、メキシコ初の女性大統領になることが確実となったと、日本のメディアは報じました。でも、初の女性大統領であることが強調され、シェインバウム氏が、自身の師である左派ロペス・オブラドール大統領の後継者であることには、あまり突っ込んだ報道はなかったように思います。

 それは、大事なことから目を逸らす報道だと思います。なぜなら、アメリカと長い国境を接している隣国のメキシコが、アメとムチのアメリカの強力な圧力に負けず、中国との関係を深めている左派のロペス・オブラドール大統領の後継者を大統領に選んだということは重大なことだと思うからです。  

 選挙結果は、クラウディア・シェインバウム氏の圧倒的な勝利だったといいます。

 そのことを、ロシアのEnglish.pravdaは、アメリカはソロスの手下たちの努力にもかかわらず、惨めに敗北した、と伝えました。下記です。

Strong Mexican woman beats feeble US protege

The United States has "lost” the Mexico elections miserably, despite all the efforts of the Soros minions to return "democracy” to Mexico

 メディアは、クラウディア・シェインバウム氏の圧倒的な勝利について、その理由を考え、日本の国民に示す必要があるのではないかと、私は思いました。

 Twitterには、ロペス・オブラドール大統領の痛烈なアメリカ批判がたくさん投稿されています。どれも重大な内容だと思います。

 

 

 下記は、「現在メキシコを知るための60章」国本伊代(明石書店)から、「V 国際政治とメキシコ外交」の「30 対米外交」の「反米と依存と共存の関係」を抜萃しましたが、アメリカという国の「正体」ともいえるような対外関係の本質をつかむことができるのではないかと思います。

 メキシコのカルデロン大統領は、アメリカ連邦議会における演説の中で、

メキシコに流入する武器の80%はアメリカから違法に持ち込まれているもので、国境沿いに約7000軒の武器弾薬の販売店があることを指摘し、アメリカ側に武器流出に対する管理強化を要請した。

 などとあるのです。

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                   V 国際政治とメキシコ外交

                      30 対米外交

                    ★反米と依存と共存の関係★ 

 メキシコの外交政策は、第26章で取り上げた原則に基づき国際社会の中でメキシコが主権国家としての地位を保全することにある。しかしその対外政策の中で最も重要な課題は、常に約3200kmの国境線を共有するアメリカ合衆国との関係である。少なくとも北米自由貿易協定(NAFTA)が発効した1994年まで、メキシコは対米関係においても独自の外交路線を貫き、北方の巨人アメリカと対等であることが歴代政権に課された原則であった。この意味で、アメリカへの依存を強化したNAFTAの成立は、メキシコの外交政策を大きく転換させる分岐点となった。

 メキシコの対米関係には、19世紀前半のメキシコ・アメリカ戦争で現在のアメリカのテキサス州から以西のカリフォルニア州までを含む国土の半分以上を失ったこと、ポルフィリオ・ディアス時代、(18761911年)に資源開発を外国資本に依存した結果アメリカの経済支配を受けたこと、メキシコ革命の動乱期にメキシコ国内のアメリカ人の生命と財産を保護するという名目でアメリカ軍による武力干渉を受けたこと、アメリカ国内に合法的・非合法的に居住するメキシコ人に対するアメリカ側の仕打ちなどの歴史的な経緯があるため、メキシコの反米感情は根深い。その反米感情の中で1938年にカルデナス大統領が断行した石油の国有化は、アメリカに対するメキシコの確固たる姿勢を示したものとなった。しかし、第二次世界大戦中におけるメキシコの連合国側への参戦とアメリカ国内の労働力不足を補充するために締結したアメリカへの労働移民ブラセロの送り出し協定は、メキシコの対米政策の変化でもあり、その後のメキシコの対米外交は「反米・独立」と「すり寄り」との間でシーソーのように変化をし続けた。そして、1994年に発効したNAFTAによって、メキシコの対米関係は180度転換したといっても過言ではない。

 現代メキシコの対米関係で最大の問題は「移民」と「麻薬」である。合法・非合法を問わず、所得格差のある国家間を人々がより良い生活を求めて移動するのは自然の理である。さらにメキシコ人のアメリカ移住には、現在のアメリカの国土のほぼ半分がかつてメキシコ領であったという歴史と約3200キロメートルの長い国境を陸地で接しているという現実がある。メキシコ側はこの移住を自然の流れとして受け止め、対米外交政策としての移民問題を主としてアメリカ国内におけるメキシコ移民への差別・迫害・犯罪事件などにかかわる人権問題として対応してきた。しかし21世紀にはメキシコを経由してアメリカに不法入国しようとする国民の扱いが深刻化している。

 2010823日に発覚した72人の不法外国移民(非メキシコ人)の惨殺事件は、麻薬問題と国内の不法移民問題を明らかにし、メキシコ内外の注目を集めた。メキシコに不法入国した後にアメリカへさらに不法に越境しようとした72名の国籍は8カ国にのぼり、唯一生き残ったエクアドル人の証言でその詳細が明らかになったからである。メキシコの麻薬グループに入るか、15000ドルの越境料を払うかの要求を拒否したこのグループは殺害され、死体の下敷きとなった1人だけが助かった。メキシコ政府は自国の犯罪組織が殺害した人々(メキシコにとっては不法入国者)の出身国に謝罪すると同時に、麻薬密売組織の凶悪化の原因の一端がアメリカにあることも指摘した。

 

 2008年以降、両国間の緊急課題となっているのがこの「麻薬」である。麻薬をめぐる問題は古いが、2008年から2010年に麻薬カルテルは強大な組織犯罪者集団となっている。大麻を栽培する農民を巻き込み、麻薬精製と南米各国から送り込まれるコカインのアメリカ市場への密輸出のための人員を確保するために不法越境者を取り込み、メキシコの国境警備員および関係者の買収、地方警察官と政治家への賄賂、誘拐ビジネスなどで、アメリカとメキシコの間にある約3200キロメートルの国境をはさんだ地域は犯罪多発地帯と化してしまった。メキシコとアメリカ両国政府は「イニシアティブ・メリダ」を発足させ協調して麻薬カルテルの撲滅に乗り出したが、歩調は必ずしも一致してない。20105月に訪米したカルデロン大統領はアメリカ連邦議会における演説の中で、「イニシアティブ・メリダ」を通じた麻薬犯罪組織対策のためのアメリカの資金提供と国境警備の強化に感謝しながらも、メキシコに流入する武器の80%はアメリカから違法に持ち込まれているもので、国境沿いに約7000軒の武器弾薬の販売店があることを指摘し、アメリカ側に武器流出に対する管理強化を要請した。 

 そのほかの場面でも、カルデロン大統領はアメリカ側に強い抗議を続けている。20106月に起こったアメリカの国境警備隊員による不法越境者の殺害事件では、メキシコ政府はアメリカに強く抗議し、アメリカは即座に謝罪した。さらに9月にヒラリー・クリントン長官が「現在のメキシコは20年前のコロンビアの状態にあり、国土の一部が麻薬カルテルによって支配されている」と公式発言をしたときには、カルデロン大統領は直ちに猛反発して、オバマ米大統領は、謝罪ともとれる弁明をした。

 

 麻薬問題と対米関係は、カルデロン政権にとって神経をとがらせる問題である。国境に接する北部諸州では、メキシコの州警察および地方自治体警察の不備による無法地帯の出現と連邦軍の出動だけでなく、国境の税関へのアメリカの治安維持関係者の関与がメキシコの世論を逆なでしているからである。約3200キロメートルの米墨国境戦は世界で最も活発な物流前線で、メキシコの輸出の80%がこの国境を陸路でアメリカへ入っている。厳格な麻薬取締を求めるアメリカは2010年前半に9回にわたって税関業務に介入し、メキシコ側の税関職員に対して安全と業務に関する教育を行った。これらの活動は2007年に締結された米墨ニ国間税関戦略計画に基づくものであるが、国境地帯の無法状態を自力で解決できないメキシコにとってはアメリカに頼らざるを得ないのが現実である。(国本伊代)

 


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