大学時代、打楽器のトレーナーで着てくださっていた先生の書かれたエッセイ集を読んだ。先生は桐朋の一期生で、卒業後にウィーン音大で学び、そのままウィーン放送響で職を得て、帰国するまで30年近く現地で活躍された凄い人。男勝りの気っ風のよいしゃべり口調が、本のなかでも再現されていて、会話ではいったいどっちが男でどっちが先生なのかわからなくなることが多々あった。そんな先生でも、留学当初はアジア人ということで差別をされ、そのためドイツ語を必死で勉強したりと色々と苦労したそうだ。先生の師匠はウィーンフィルの首席奏者だったそうだが、その師匠は「叩くのではなく演奏しろ」と繰り返しいっていたという。なんとも含蓄にとんだ哲学的な言葉だと思う。驚きの逸話は、ウィーンフィルを振りに来た晩年のクレンペラーのもとで短期間ではあるが写譜(クレンペラーの作曲した作品の清書)のアルバイトをしたということ。クレンペラーは伝えられているとおり偏屈で風変わりな老人だったようだが、素朴な温かさに溢れており、先生とのコミカルな会話が非常に笑えた。クレンペラーは先生に「できるだけ多くの親切な人に出会え」と強調したらしい。これって良い人生かそうでないかの分かれ道みたいなところだよなあ・・・。