トシの読書日記

読書備忘録

小説という厄介なしろもの

2010-09-07 15:10:45 | あ行の作家
岡崎武志編「夕暮の緑の光――野呂邦暢随筆選」読了



1980年に42歳の若さで急逝した野呂邦暢の随筆を、書評家でライターの岡崎武志が選びぬいて1冊の本に仕上げたものです。


寡聞にしてこの作家のことは全く知らなかったのですが、いいですね、この人。堀江敏幸とテイストは少し似てるんですが、でもまたちょっと違う。うまく言葉で言い表すことがむずかしいです。


言葉の選びかたがすごいです。研ぎすまされてるというか…。例えばこんな文章。

東京で執筆活動をした方がなにかと便利なのに、何故生まれ育った諫早を離れないのか
という問いに対して…。


「…小説という厄介なしろものはその土地に数年間、根をおろして、土地の精霊のごときものと合体し、その加護によって産みだされるものと私は考えている。(中略)
 河口の湿地帯をぶらついて海を見るとき、私は『ここには何かがある』と思う。それが何であるかは即座にいえない。静かな空を映して流れる水の無垢そのものの光に私は惹かれる。灰褐色の干潟は太古からまったく変わらぬたたずまいだ。創世記を思わせる初源的な泥の輝きは朝な夕な眺めて飽きない。諫早を去るということは、この河口と別れることである。」


この言葉の選び方、漢字の使い方、あえて漢字を使わずにひらがなにするところ。そして句点の打ちかたひとつまで綿密に計算された美しい文章。もう、うっとりします。


素晴らしい作家を岡崎氏に教えてもらいました。以下に文中で野呂邦暢が愛読した本を書き並べてみます。アマゾンがブックオフあたりで探していきたいと思います。また、野呂本人の著作も読んでいくつもりです。




アラン・シリトー「漁船の絵」
        「土曜の夜と日曜の朝」
        「長距離走者の孤独」 

フィリップ   「小さき町にて」

永井荷風    「断腸亭日乗」

カロッサ    「医師ギオン」
        「ルーマニア日記」

コンスタン   「アドルフ」

ブレヴォー   「マノン・レスコオ」

カミュ     「結婚」(エッセイ集)

ボルヘス    「不死の人」

J・グリーン  「閉ざされた庭」


以下、野呂邦暢の作品

「草のつるぎ」(長編)            「とらわれの冬」
「砦の冬」(「草のつるぎ」の続編)      「伏す男」
「海辺の広い庭」(短編)           「回廊の夜」
「鳥たちの河口」(短編)           「愛についてのデッサン」(長編)
「壁の絵」(短編 デビュー作)        「落城記」(長編)
「ふたりの女」(短編)            「丘の火」(長編)
「一滴の夏」(短編)





いつも床屋へ行った帰りに寄る本屋で、何を思ったか、以下の本を購入。


小林信彦「昭和が遠くなって~本音を申せば③」
志賀直哉「暗夜行路」
古川日出男「ハル、ハル、ハル」
中島義道「エゴイスト入門」
山崎ナオコーラ「浮世でランチ」
車谷長吉「飆風(ひょうふう)」


普通の本屋で文庫を一度に6冊も買うなんて、自分としては非常に珍しいことであります。気持ちが「買いモード」になってたんでしょうね。

コメントを投稿