トシの読書日記

読書備忘録

オヤジのささやかな楽しみ

2009-06-26 17:46:49 | か行の作家
北尾トロ「ぶらぶらジンジン古書の旅」読了


ずっと重いのばっかり読んできたんで、ちょっと軽いものをと思って手に取ってみました。


「裁判長!」シリーズで一躍脚光を浴びてるトロさんですが、僕はこの人の本は、「怪しいお仕事」とか「君は他人に鼻毛が出ていますよと言えるか」とかなかなかゆるい本を書く人で、妙に憎めないんですねぇ。


ちょっと軽いどころか、相当に軽い内容で、2時間くらいで読めてしまいました(笑)しかし、古本を目的とした一人旅…いいですねぇ。この本では全国10箇所くらいの都市を紹介してるんですが、僕もこの中からよさげなところをピックアップして、いつか古本の旅に出たいと思います。


いつかって、ほんと、いつになるかわかんないんですがね(苦笑)

観念としてのパシヴァとレシヴァ

2009-06-26 17:04:12 | ま行の作家
村上春樹「1Q84」BOOK1 BOOK2読了


5月の末に発売されてから、4日後くらいにアマゾンに注文して、その時は1週間くらいで発送可能とのメールを受け取ったんですが、その後いつ発送できるか未定とのメールが来て、なんだかなぁと思っていたら、ある日、たまたま寄った近所の書店で平積みになっているのを発見し、即購入した次第です。その書店にはその時、各8冊くらい積んであったんですが、僕が1冊づつ確保して、そのあとほかの本を見ている小一時間の間に全てなくなっていたという、とんでもなく売れてる本です。


相変わらずの「春樹ワールド」であります。ただ、「海辺のカフカ」とか「アフター・ダーク」よりも難解さが軽減されてる感じで、かなり読みやすかったですねぇ。ハルキフリークにはそれが多分物足りなかったんじゃないでしょうか。


近未来小説というものはよく見かけますが、「近過去小説」という設定、さすがです。時代設定は1984年なんですが、その時の流行とか、社会現象なんかはほとんど触れてないというのも、著者らしい周到さです。


しかし、どうなんでしょうかねぇ…僕はこの作品が最高傑作とはどうしても思えないんです。カルト宗教とか、ヤマギシのようなコミューンとか、ちょっとモチーフが世俗にまみれている印象で、「カフカ」とか「世界の終わり」みたいなとてもこの世の話とは思えないような小説になってないというところが不満なんです。


しかし、最高ではないにしても読了後は、しばし茫然としてしまいました。ほかの小説家とは比べるべくもないというか、本作家は他の作家とフィールドが全く違うんですね。同等に比較できないんです。


細部のことを言いますと、主人公である、二人の男女、天吾と青豆。これがまたなかなか魅力的なキャラクターなんです。特に青豆!このきっぱりとした生き方の潔さはどうでしょう。読んでて気持ちよかったです。天吾は天吾で、一見ゆるーい感じなんですが、それでいて芯はしっかりしている。父親を療養所に訪ねるシーンは圧巻でした。


いつもの村上作品と同じように、この長編もかなりの余韻を残して終わります。続編が絶対出るとか出ないとか、巷ではかなり喧しい論議がなされているようですが、僕としては、これで終わりでいいのでは?という意見に与するものです。しかし、「ねじまき鳥クロニクル」の例もあるように、最初2巻で終わるはずが、も一つってこともあるんで、まぁなんとも言えないですがね。

BOOK3が出たらどうするかって?そりゃぁもちろん買って読みますよ(笑)

業曝しの精神史

2009-06-26 16:31:33 | か行の作家
車谷長吉「武蔵丸」読了


しつこくも車谷であります。

表題作を含む6編の短編集。ちなみに武蔵丸とは著者が飼っていたかぶと虫の名前です。

相変わらずの私小説です。半分以上は事実でしょう。ただ、晩年の志賀直哉のような、ただ身辺雑記のような文章で、随筆との境目がないようなものとは、かなり趣きを異にしています。自分の内に潜む暗いものを白日のもとに曝け出すことでしか自分を表現できない、哀しい男の情念を強く感じます。


表題作の「武蔵丸」(川端康成文学賞受賞作)もなかなか読ませる小説でしたが、逆木大三郎という、新左翼くずれの男とのつかずはなれずの交際を描いた「一番寒い場所」という作品が印象に残りました。昭和40年台前半の、まだ若者が右翼だの左翼だの革命だの、ニーチェだのマルクスだのと真剣に論じ合っていた熱い時代の空気が、車谷の筆で見事に活写されています。



「車谷長吉の心象風景の旅」シリーズ(勝手に名前つけてるし)、ここらでひとまず終了と致します。

ふぅ…つかれたぁ