たかはしけいのにっき

理系研究者の日記。

どうして世間は研究に厳しいのか

2021-09-23 01:43:22 | 自然科学の研究
 研究や大学院に対する社会の風当たりは非常に強いのが常なのだが、ここ最近のそれは異常なレベルにまで達している。それはなぜだろうか。

 そもそも日本人は「普通」であることを重要視する。そして、「普通」でないのであれば「スペシャル」でなければならない、という価値観が強い。
 「普通」とは、23-27歳であれば会社に出社し、働いていなければならない。そうでないなら、なんらかの「スペシャル」を要求するのが、大学院という特殊な環境以外に暮らす一般の環境にいる人達からの要請なのである。

 その「スペシャル」を、ある人は東京大学等の大学名に委ね、ある人は学振や論文などに委ねる。

 俺自身もそんなことは何度もあった。

 「え?今いくつ?」
 「25ですけど」
 「それで学生なわけ?」
 「はい」
 「ふーん。。それでどこの大学院行ってるの?」
 「東京大学です」
 「え、、、すみません」

 と、ここまでがテンプレートであり、博士課程の頃なんかは、こういったやりとりにすっかり慣れたもんだった。最後に謝ってしまうことで「私はあなたのことを、良い年齢になっているにも拘らず、ただの道楽で自分勝手に学生を続けている、ナメた人間だと思っており、完全にバカにしておりました」ということを伝えちゃってるんだけどね。
 それも、東京大学という言葉一つで「スペシャル」だと勝手に思ってくれて、謝ってくれて、下手したら尊敬してくれるのだから、ありがたいことこの上ない。と同時に、くだらないことこの上ない。

 学歴をはじめとした、自分の有能さを客観的に表すための「言葉」というのを得れば得るほど、自分よりも無能な人の指示を聴く必要がなくなる。
 特に”東京大学”という言葉は、自分の頭できちんと考え続けることを放棄してしまった人たちを、軽く一掃するだけの力を持っている。だからこそ、現所属であった場合に、この言葉を奪われることを、彼ら彼女らは必要以上に恐れるのである。
 論文があるかないか、それによって、職や奨学金が決まったりする。だからこそ、著者に入れるかどうか、著者に入ったとしても順番がどうか、という評価の問題が、常に各大学院生・各研究者の両肩にのしかかる。

 一般社会の「普通でなければスペシャルであれ」の要請は、アカデミックのみならず、社会で暮らす多くの理系研究者・技術者にとって、重くのしかかってしまう。
 「君たち理系は普通じゃないのだから、コミュニケーション能力が、きっと無いだろう。私たちが教えて差し上げよう」
 「研究をやっている人なんて普通じゃないのだから、資材をどこかに隠すかもしれない。普通の感覚を有している私たち社会人が、もっと徹底して管理しなければ」
 「どうせビジネスのことはわからないのだろうけど、儲かることをやるのが企業ですからね!」

 俺たちにとっては、お前らなんかスペシャルではないのだから、普通であれよ、という要求を柔和に伝えてくるのである。
 
 物事や内容を考えないまま、自分の思考力を高めようとしなくても理解できる事柄しか目に入らないようにして生きていけるように、少数派である理系社会に対して、多分に要請を課し、厳しく徹底的に管理する。すべては、無能なままに有能な人材をコントロールするためである。

 それらの強制力から守ってくれるバリアは、東京大学であり、学振であり、論文の数やIFであり、アカデミックポストであるのだ。

 ねえ、僕らは、そんなことのために、サイエンスを志したのだっけ?
 違うよね?もっと純粋な気持ちで、サイエンスを志したのではないの?

 勝つとか負けるとか、それを他者に使っている限り、絶対に本質的な事柄を掌握することはできない。小さいテーマをやっていても、大きいテーマをやっていても、勝敗を人間に委ねてはいけないし、委ねられたら弾き飛ばさなければならない。

 確かに僕らは、ファラデーやアインシュタインがやったことにくらべれば、クソくだらないことしかできないかもしれないし、「スペシャル」ではないかもしれない。
 けれど、たとえば、論文の著者の順番等で争っている暇が、果たして本当にあるのだろうか。ゴールに向かってシュートを打たなければ1点にならないのと同様に、きちんと自然現象が相手であると見定めて、やるべきことを淡々とやっていかないと。

 それが、理系として誇りがある、ということだと思うのです。理系よ、世間なんかに負けるな!
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