たかはしけいのにっき

理系研究者の日記。

「大学院に行くなら就活しちゃダメなの?」-相談メールの実際の例-

2020-01-16 22:38:21 | 自然科学の研究
 相談メールの実際の例を紹介しようと思います。今回は2016年夏頃に送っていただいたメールから、相談者の方のご厚意で公開したものです。相談メールのルールなどについては「相談メールの目標とルール」をご覧ください。

相談文
(プライバシー保護のため、少しだけ文面を変えています)

初めまして。いきなりのメール失礼します。
私は教育大学の農学系に所属している三年生です。

8月から研究室配属が始まり、本格的に研究室生活がスタートしました。私が所属している研究室は有機合成系であり、コアタイムが9時半~19時半です。
配属される前は大学院志望でありどんだけ長くてもやってやる、という気持ちでいっぱいでしたが、いざ研究室生活が始まると思ったよりきつく、自分は研究には向いていないのかな?と思うようになりました。

また、大学二年生のころまでは創薬に興味を持っており、今の研究室はほぼ薬学部のようなことをしている、と聞いていたため当時はここしかない!と思っていましたが、薬に限らず体に良い成分などの研究に興味があることに気づき、三年生に入ってからは創薬よりも食品開発の方に興味を持ち、今ではどのように作るか?というひたすらに実験をやっていく有機合成への興味が薄れてしまいました。大学院は食品系の研究室に行きたいと思っています。

今の研究室の先生が担当されている授業の成績も悪い方ではなく、前々から「創薬に興味を持っている」「院に行きたい」などと話していたため先生の中では印象に残っている方だと思っております。

ただ、院に行くにせよ就活は経験しておこうと思い、インターンに行く機会があったため先生に報告したところ、「研究者になるならインターンなんてするな」「今のうちからそんなことを考えるようだったら研究者には向いていない」などと長時間話をされてしまいました。ちょうどその日はインターンについての説明会を受講する予定だったのですが、キャンセルしろと言われてしまいました。また、創薬ではなく食品系の研究室に行きたいと話したところ、「食品はレベルが低い研究だ」と言われてしまい、ここに来たなら有機合成の道に進みなさいといった風に言われてしまいました。
この言葉がきっかけになったわけではありませんが、自分としては興味が変わったというよりは、実際に研究室に所属してみて元々持っていた創薬に対するイメージが変わってしまい、有機合成がしたいわけではない、と気がついたのです。

先生の言うことも一理あり、研究職につくなら今はひたすら研究をしなければならないとは思いますが、自分としてはインターンなども経験したく、先生との考え方が合わないと思ってしまいました。
また現在、四年生の先輩と留学生の論文を書いていまして、なかなか実験をすることができない状態で、朝から学校に来て論文の手伝いをし、時間が空いたら他の子がやっている実験を手伝い、夜は論文紹介のゼミに参加といった生活です。。
院には進学しようと思っていますが、先生はインターンなどにいくなら就活一本に切り替えなさいと言われてしまい、どうしたらいいのかわからなくなってしまいました。また、実験をろくにすることができないため、自分が本当に研究に向いていないのか、研究が始まったら苦痛でなくなるのかわからなくなってしまい、大学院も有機合成系の研究室でなければ先生の協力が得られないのでは?と思っています。

院進学というと就活などに反対されてしまうため、もう就活一本で対策をするか、有機合成系の院に進んで今のうちから成果を出すか、一番興味がある食品系の研究室(外部)を目指すか、どうしたら良いでしょうか。今は研究室生活が辛く、どうしたらいいか胸が押しつぶされそうです。

拙い文章で申し訳ありません。
よろしくお願いします。


回答文

相談者さまへ
ご相談ありがとうございます。

メールを読ませていただいて最初に気になった点なんですが、あなたが送ってくださったメールには「研究に向いているかどうか」という記述が3回ほど出てきます。よほど「研究に向いているかどうか」が気になるのだろうなと思いましたので、まずそれについて私からコメントをしたいと思います。

一般に「何かに向いているか」という疑問は、長い期間をかけないとなかなか答えは出てきません。ましてやそれを本格的に始めていない段階では何もわからないことのほうが普通でしょう。
しかし、です。私は、「研究活動そのものに関しては誰もが向いている」と考えています。なぜなら、研究の骨格とは「問題設定→解決」で、これは人間なら生きていれば誰もがやらなくてはいけない行為だからです。「自分は息をすることが向いているだろうか?」と悩む人はいませんよね?研究なんていうものは、それくらい基本的な行為だと私は考えています。
もちろん、呼吸を整えるのが上手な人がいるのと同様に、研究にも「できる」うえでの優劣は(呼吸の仕方と同程度くらいには)あるかもしれません。そういう意味では、あなたは研究をするのが得意なほうだと思いますよ。実際に研究室の生活で何かの問題が発生しても、ネットで検索もせずただただ悩む人、検索はしてみたけど私などの相談募集者にメールしてこれない人、というのは沢山います。あなたには解決に向けて一歩踏み出す能力があるわけで、これは研究では確実に必要な能力です。

さて、その上で、あなたは”次、何を選択すべきか?”ですが、とりあえずは自分のスタイル・生活状況を押し付けてくる研究室やそこの先生から離れようと、きちんと決心することだと思います。
今は食品系の分野に興味があるとのことですが、あなたはここ数年以内であらゆることに新しく興味を持って、その順位が激変してきているのではないでしょうか?だとすると、今は「食品開発が良さそう」と思っていても、5年後には変わってしまっているかもしれませんよね?だから、とにかく今の場所から抜け出すことを前提として、「自分が嫌じゃないところ」にはどんどん足を突っ込んでみるのがいいんじゃないかと思います。ちなみに、あらゆることに興味が持てることも、問題解決するうえで必要な能力ですから、その点でもあなたは研究に向いているほうだと思います。
私なら先生に「まだ自分がやりたいことがわからないので、いろいろなところに足を突っ込みたいと思います。もう少し自由時間をください」と言いますが、こう言えますか?もし言えないのなら、「就活に絞ります」と噓をついて、それなりに就職活動をしてみて自由時間を広げ、空いた時間で外部の院などを調査したり院試勉強したりするのがいいかと思います。

つまり簡潔に言えば、「行き先はまだ決めるな!ただし、その場所からは離れようとしろ!」です。

あなたのメールには「先生の言うことも一理あり」と書いていらっしゃいますが、「一理もない」と思えるかどうかだと思います。10時間のコアタイム設定で、同じような狭い分野内で「あの分野のレベルは低い」と言ってしまうような人の意見を真摯に訊ける態度は私も見習わなくてはいけないですが、あまりに考慮しすぎるのも大変ですから、気に病むくらいなら無視してかまわないかと思います。

どうでしょうか?逃げる決心はつきましたか?


 その後、この方とは何度かやり取りをさせていただいて、先日久しぶりに連絡をしていただき、「研究室を移るか迷っていたのですが、勇気を持って先生に相談しました。研究室の先生からはやはりダメ、とのことでしたが、日頃気にかけてくださっていた先生が助け舟を出してくださり、他の研究室に移ることができました。環境も変わり、実験や知識も目指していた食品系の研究室と近いところがあり、院試も合格することができました」とあったので、非常に安心しました。かなり嬉しい連絡でした。

 参考になれば幸いです。
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