マンマミーア・イタリアンーと来たもんだ! 13
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先日、読者の方から野生の猪肉が送られました。けっこうな量なので、こんど友だちを読んでぼたん鍋にしようと思ってます。
猪肉は味噌仕立てで食べると臭みはまったくなし。
ほぼ豚ですが、猪肉は煮込んでも固くなりません。
けっこうわたし、好きなんです♪
食べるのが楽しみ!
Hさん、ありがとうございます!
というワケで今回の「医食同源・マンマミーア・イタリアンーと来たもんだ!」はジビエ料理。 お楽しみいただけると嬉しいです!
マンマミーア・イタリアンーと来たもんだ!
野趣溢れるイノシシはいかが?
掲載日:2004年12月16日
まいど、まいど、イダテンのゲンさんです!
いやあ、お客さん。めっきり寒くなってきた・・・なんて言いてえとこだが、師走の時期だってえのに、暖かい日が多いこの頃だな~。こないだの日曜なあんざ、気温が26℃とか12月で夏日を記録しやがったんだから、気味がわりいくらいだよな。
年をとると冷え込みは禁物なもんで、この暖かさはかえって有難えくれえだが――あっしみてえな江戸っ子は、暖かい冬ってえのはどうにも収まりが良くねえ。夏はカーっと暑く、冬はブルブル震えるくらいの方が、体にも商売にも良いんだがなあ。
ただ、今年の異常気象で、野菜でも何でも高くなっちまったおかげか、反対にスイサンドンヤさんの売り上げは好調だ。あっしら商売――まわりの値段が上がると、お客さんも増えるって塩梅で・・・来年か再来年にゃあ、このスイサンドンヤ・ドットコムさんを大化けさせる野望も、この白髪アタマを掻きながら、ちょっくら算段している最中さね。
ともあれ、商売は地道な日銭が基本。野望も夢も日銭の中にあるってえのが、あっしの持論さ。ともあれ2004年も、どうにか年が越せそうで有難え話だが、現状維持だけじゃつまんねえ。今年も残り少なくなっちまったが、来年、再来年に向けて、もうひとふんばりってトコさね。
イタリアのジビエ料理
さて、今回のマンマミーア・イタリアン。前に引き続き、トスカーナ州、ウンブリア州、マルケ州の中部3州のお話だ。
前回も話した通り、イタリアの中部以南の都市国家は、マラリアから逃げるために小高い丘に町を築いた歴史がある。そんなロケーションのおかげで、冬の霧深い時期になると、雲の上にポッカリ浮かんだみたいな様子が何とも神秘的だ。
見た目は美しいが、霧に包まれると空中に浮かんだように見える――なんてところが便の良いハズはない。未だにトスカーナ、ウンブリア、マルケ3州の多くは、交通の便が良くない町が多いんだが、昔はなおさらのだった。内陸である上、城壁に囲まれていたおかげで、このあたりの料理は、昔ながらのまま残っているものが少なくない。
特にウンブリア州では、内陸の地であることから、豚や牛、鶏以外にもさまざまな種類の肉を食べる。イノシシやウサギ、シカ、そしてキジやハトなどの野鳥といった、いわば狩猟によって得た肉を素材にした料理だ。
なに、野生の動物ばかりじゃねえかって?
そうさね。これらはフランスではジビエ料理と呼ばれ、古来西洋では最も美味とされていた肉料理なんだ。日本人にとっては馴染みのない食材だが、あちらでは王侯貴族が領地で狩った獲物を召し抱えのシェフに調理させ、大切なお客さんにもてなしていた歴史がある。それだけにジビエはブランドとしての価値がある分野なのさ。
野趣溢れるイノシシはいかが?
ただ、ジビエ料理は上手に仕上げれば、野趣溢れる貴族好みの逸品になるが、味付けのバランスがわるいと、血の臭いのするケモノ料理になっちまう。
本格的な郷土料理ってえのは、慣れない人にとってキツいものが多いのが常だが、中部イタリアのジビエ料理なんざあ、肉の臭みが苦手な人には、ちょっと難かしいかもしれねえな。その上、本格的なトスカーナ、ウンブリア、マルケの郷土料理は塩味が非常に強く、薄味を好む日本人にはキビしいものが多いのも事実だ。
その中で「チンギアーレ」と呼ばれるイノシシ料理は、レシピ次第で日本人にも美味しく食べられる郷土のジビエ料理かもしれない。日本でもボタン鍋なんてえのは、なかなか旨いもんだが、あちらのイノシシは日本のものよりクセが強いから、鍋にするには適当ではない。
ただ、ボタン鍋を食べた人ならご存じだろうが、豚と違ってイノシシは煮込んでも堅くならない。そこで、イタリアのチンギアーレもじっくり煮込んだ炒め煮が中心だ(ウンブリア地方ではイノシシに限らず、肉の煮込み料理は多い)。
イノシシの臭みを消すために、マジョラムやローズマリー、タイム、セージなどといった香りの強い香草と一緒にタマネギやトマトと一緒に煮込んだミートソース。こいつを平たい手打ちパスタに和えて食べるってえと、なかなかイケるもんさね。
また、この地方にはイノシシ肉のチョコレート風味なんて、400年以上前からある郷土料理もある。あっしは食べたことないが、ルネサンス時代のイタリアでは、肉にチョコレートやフルーツソースを和えて食べるレシピは一般的なものだったからなあ。
ところで余談になるが、以前ある養豚業者が放牧状態で豚を飼っていたところ、なぜか毎晩のように野生のイノシシ君がやってきた。別段、エサを荒らすわけでもなし、ひどい悪さをするわけでもないので、大した対策も施さないでいたんだが――その数か月かのち、何とその養豚場では、瓜状の縞がある子ブタが山ほど生まれてきた。そう、それはイノシシの子供・・・ウリボウの姿とおんなじだったのさ。
「こ・・これは、いったい・・・」
びっくりしてアタマを抱えた業者さんだったけど、あとの祭り。混血のイノブタは肉が堅く、養豚業者さんの目指していたブタでは、もちろんなかったワケで・・・また、メスのブタちゃんも野生のイノシシの方が具合良かったのか、オスブタ君そっちのけで子作りに励んでいたらしい。ま、ブタちゃんもワイルドな男が良かったってことなんだろうな~♪
まあ、基本的にイノシシが家畜になったのがブタなんだから、調理次第では美味しくなるジビエ料理の貴重な素材ってワケさね。
巨牛キアニーナのTボーンステーキ
さて、この地方の肉料理でもっとも有名なものに、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ(フィレンツェ風ビフテキ)がある。通称「ラ・フィオレンティーナ」と呼べれる巨大ステーキは、ロースとフィレがT字型の骨と一緒にカットされている、いわゆるTボーンステーキだ(※1)。
肉好きの人にはたまらない、この大きな大きなステーキは、本来はキアニーナ牛という成長すると体重2トン、肩高が180センチにも達する白い巨牛を使う。このキアニーナ牛は世界最大級にデカく、育てるのに手間も金もかかるため、現地のトスカーナでもなかなか入手できない希少品だ。
この地方のステーキには、「大きな仔牛」を意味するヴィテッローネ――生後14~18か月という若い去勢されたオス牛が用いられる。オスの子牛は、そのまま育てると肉質が硬くて食べられないことが多い。そのため若いうちに去勢し、オス牛の特性を抑制するんだが、イタリアでは昔から去勢牛が大事にされ食べられてきたんだ。
こうした牛は、肉は明るい赤をしていて、通常の牛に比べて繊維質が少ない。また、スキヤキやしゃぶしゃぶに使う霜降り肉とは対照的で、サシと呼ばれるマーブル状の脂肪はほとんどない。
そのため、キアニーナ牛は大抵の牛より、低脂肪で低コレステロール――かつ消化にも良い健康食品だ。肉は体に良くないと思ってる人が多いかもしれないが、タンパク質の豊富な牛肉は、高齢者の方こそ召し上がっていただきてえ健康食なのさ。
スキヤキの霜降り肉のように舌の上でとろける濃厚な食感ではないが、キアニーナ牛のステーキは口当たりの良いやわらかな肉の風味は何とも味わい深いものがある。脂肪分が少なくて味わいが出るのは、おとしてから肉を柔らかく熟成させのに、肉屋によっては4週間近く吊るして熟成させておくからなんだ(通常は20日ほど)。
※1 イタリアでも2001年の春から2002年秋までの間、Tボーンステーキ全般はBSEの影響で禁止されていたが、現在は解禁になっている。
ステーキは燠火に限るぜ!
ステーキってえのは、肉を焼くだけの単純な料理だが、シンプルなものほど技術と経験がいる。せっかくのキアニーナ牛も、調理がマズかったら何にもならねえ。
なんせビステッカ・アッラ・フィオレンティーナの味付けは塩と胡椒だけ。仕上げに現地で採れた極上のエキストラ・バージン・オイルをまぶすといったシンプルなもの。おのずと焼き方にこだわりが出てくるのも当然といえるだろう。
使う炭は備長炭ならぬ、オーク(樫)かオリーブの枝を、あらかじめ炉で焼いた燠火(おきび)を使う。燠火ってえのは炎を上げず、くすぶるように赤く燃える火のことで、これは遠赤外線効果が高く、芯まで火が通るメリットがある。
同じ木材でも、サクラのように燻製に使う木は、余計な香りがついてしまうので使わないし、もちろん針葉樹のようなヤニの強い木は論外だ。
グリル(焼き網)の下に深紅の燠火を差し入れ、ステーキの表面を焦してクロスタと呼ばれる炭化した層を作り、肉汁を封じ込めて、じんわり火が通るようにするわけだ。
するってえと、外はカリカリ。中は赤くジューシーで、しかも芯まで熱が通っているアル・サングエという状態に仕上がるのさ。
こいつにはレモンもバターも必要ねえ。皿からハミ出るくらいに大きな、丸のままのTボーーステーキを、ナイフとフォークで好きなようにカットするってえと・・・むぐむぐむぐ。
おああああ、おううう! こ、こいつは、たまんねーや、コンチキショーめえ!
まったく牛肉ってえのは、人を幸福にする酵素が含まれてるなんて言うが、極上のステーキほど人間を幸せにするモンもないよな~。
いかにも極上のステーキといった、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナだが、一方、メスの仔牛を用いたものは、同じTボーンステーキでも、「ロンバティーナ」という別の呼び名になる。
これは、あっさりとしているのに、肉汁が口いっぱいに広がる味わいで、ステーキとして万人向きのラ・フィオレンティーナと違って、ちょっとした通好みの食感だ。フィレンツェなど、中部イタリアの都市を旅行する際は、どちらもぜひ試しておくんなせえ。
さて、時間が来やがった。たまにはサカナじゃなく、ステーキを赤ワインで流し込んでみるかな。
それじゃ、お客さん! 次回をお楽しみに!
マンマミーア・イタリアンーと来たもんだ!
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