漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

猫のゆりかご・・・序文(11)

2012年12月02日 | 猫のゆりかご

 「こんばんは、サートルさん」
 「どうもこんばんは、先生。うちの家内がですね、仔猫のことでちょっと行ってきてくれと言うんですよ」 
 「すぐに仔猫を一匹、つかまえてきてさしあげますよ」
 わたしは反論があると――さしあたっては、とりあえず――ちらつかせておいた。
 「ちょっと仔猫を捕まえるのを手伝ってくれないかな?」
 「いいわよ」
 わたしたちは離れ家と庭を行ったり来たりして、「あっちの仔猫を一匹、こっちの仔猫を一匹」という具合に集めていった。それから一ダースほどの暴れまわる仔猫たちを底の深いバスケットの中に入れて、ドアのそばに立っている男のところへと運んだ。
 「おまたせしました、サートルさん。ここから選んでください」
 その男は、仔猫たちの首筋を掴んで一匹ずつ順番に持ち上げながら、吟味した。
 「この子を連れてゆくことにするよ。ニポンド六シリングでしたね?」
 「ニポンド六シリングです。ありがとうございます、サートルさん。その子がすばらしいネズミ捕り名人になることを祈ってますよ。ところで、義理のお姉さんのために手に入れた、ゴールデン・サイプレス(訳注:糸杉の種類だが、ここでは猫の種類だろうか?)はどうしていますか?」
 「申し分ないね」
 その男は、仔猫を連れて帰っていった。取引を見ようとやって来ていた、さまざまな種類の年長の猫たちは、引き返していった。
 「ぼくはこうして仔猫を間引いているんだ。母猫の育児が終わってからにしているし、質素で良い家を選んではいるけれどね。本当にたくさんの猫たちが出ていったよ。幸い、たいていの人が欲しがっているのはオス猫だし、ぼくの目的のためにはメス猫がベストだ。値段はいつも同じだよ。ぼくは週に十二ポンド六シリング稼ぐのさ」
 話をしながら、彼はわたしを導きながら、方形の家庭菜園へと続く狭くて日陰になった小径を下っていったが、そこには壊れた温室があって、傾いた外観には蔓が巻き付き、数本の針金のアーチが、伸び放題の薔薇の重みに耐え切れず、痛々しくたわんでいた。
 「夕食用に、少しアスパラガスを摘んでゆこう」
 ひとりの若い男性のためとしては――そして明らかに彼はここで一人で生活していた――そこには尋常ではないほど広いアスパラガス畑が広がっていた。
 「アスパラガスをたらふく食べるってのはいいね。ぼく自身にとっても、猫たちにとっても、十分な量だ。そこにダイナがいるぞ。彼女は生のままが好きなんだ。……ダイナ、君の黒白の仔猫はミセス・アイザック・サートルと一緒に暮らすために行っちゃったよ」
 彼女は飛び降りてきて、彼の足にまとわりつき、自分は息子のためにできる限りのことをしてあげたし、これからは息子は世界の中で自分自身の道をみつけなければならないんだよと言おうとして、口いっぱいのアスパラガスの先っぽを飲み下した。わたしたちはかなりたくさんのアスパラガスを摘むと、それをキッチンへと運んだ。わたしがアスパラガスを整え、房にまとめているあいだに、彼は十九匹の魚の夕食を用意した。そして庭に立って、招集をかけた。
 「猫たち、猫たち!仔猫たち!」
 アスパラガスに加えて、そこには鳩の冷製パイが少し、それに皿いっぱいのシュガー・ビスケットがあった。それに、アンジュワインのボトルも。ダイニングルームには何匹もの猫たち座っていた。椅子の上にいる猫もいたし、窓の下枠の上にいるものも、広いローズウッドのテーブルの上に座っているものもいた。シュガー・ビスケットと、コーヒーとブランデーが用意されると、その中にいた赤茶色の大きな猫が起き上がり、幅の広いグラスからちびちびと上品に舐め始めた。

"The Cat's Cradle-Book"  
Written by Sylvia Townsend Warner
(シルヴィア・タウンゼンド・ウォーナー)
Translated by shigeyuki


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