漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

サイクロンの渦を抜けて・・・13

2010年09月21日 | W.H.ホジスンと異界としての海

 繰り返し繰り返し、小さな山のような巨大な波が船を襲いました。波はあらゆる方向から、一斉に持ち上がってくるように思えました――闇の中に聳え立つ、生ける海水のピラミッドが、耳を覆いたくなるようなうなりとともに、上方へと向かって投げつけられるのです。
 船尾の手すりから船首副肋材に至るまで、船はすっかりと波に洗われました。しばらくの間、船首から船尾に至るまで、メインデッキの上はほとんど水面下にあり、生物が生きることの出来ないような状態になっていました。実際、ともすると船の全体が混沌とした水面下に沈んでしまうように思われました。海水と泡沫が船に覆い被さってきては滝のように流れ落ちてゆき、その度に私たちはもう終わりだという気がしました。
 時々、船長や航海士のしわがれた声や暗がりの中で誰かが互いに呼び合う声、あるいはどこかにしがみついている水夫たちの声を聞いた気がしました。そしてそのときまた、激しい水の音がして、波が我々の頭上で炸裂しました。それはすべて、不自然な雷光の輝きが雲を切り裂く時と、そして我々を浮かべた三十マイルの大釜の輝きを除けば、ほとんど見通しさえ利かない闇の中での出来事でした。
 さらにはまた、そうした長い時間を通じて、船を取り巻いている水平線のあらゆる方向から巨大な音が響いてくるように思えましたが、それは遠く離れた場所からの怒声、あるいは金切り声のような音で、その神経に障る音の中には時折、辺りに聳える水丘が砕ける、溢れ出すような轟音が混じりました。音は今では左舷正横の上の方でより大きくなっているようでした。嵐が私たちの周りを旋回しているのです。
 しばらくして、船の上空の大気中に強烈な轟きが響き渡り、そして遥か彼方から甲高い音が聞こえてきたかと思うと、それは急速に大きな悲鳴にまで成長し、その直後にこれまでに最大の突風が船の左舷に打ち付け、右舷の方へと船を押し倒しました。船はそれから何分も、デッキがほとんどハッチの縁材の上まで水面下に沈んだままで、横倒しになっていました。やがて船は、重々しくゆっくりと元に戻りましたが、その際に、おそらくは五百トンもの水が船から流れ落ちていったと思います。
 ふたたび風には小休止が訪れ、それからもう一度突風が近づいてくる大きな音がしました。風は我々を襲いました。けれども今度は、船は追い風を受けることに成功し、再び横転することはありませんでした。

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