漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

この人を見よ

2017年01月26日 | 読書録
「この人を見よ」 マイケル・ムアコック著 峯岸久訳
ハヤカワ文庫SF 早川書房刊

を読む。

 現在、ムアコックといえば「エターナル・チャンピオン」サーガの作家だというのが普通の認識だろうし、実際新刊で手に入るものもそれだけのはず。けれども、80年台半ばに日本でエルリックが人気を博した頃、いやいやムアコックはそれだけの作家ではないんだとして、盛んに取り上げられていた作品がこの「この人を見よ」だった。だから、タイトルだけは強烈に刷り込まれていたが、実際に読もうとまで思ったことはなかった。それがこの前、ふと古書店の均一棚にこれが並んでいたのを目にして、なんだかちょっと懐かしくなって、一度読んでみるかと買ってきた。
 イエスの最後を見届けたいと考えた現代の若者が、タイムマシンに乗って過去に行ったところ、いつのまにかキリストとして崇められ、処刑されてしまうというストーリー自体はなんとなく知っていたから、特に感動したとか、そういいうことはなかったけれども、さすがに編集者としてニューウェーブ運動の中心にいた人物だけあって、思っていた以上に文学寄りの書き方をしているなと思った。もしかしたら、多少自伝的な要素もあるのかもしれない。あと、ぼくのようにクリスチャンでもなんでもない人にとってみればどうということもないけれども、経験なクリスチャンにしてみれば、かなりスキャンダラスで、抵抗のある作品なのかもしれないなとは、やはり思った。特に、聖母マリアの書き方には、結構抵抗のある人が多いのではないだろうか。