漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

「レッドスーツ」と「聖痕」

2015年08月19日 | 読書録
「レッドスーツ」 ジョン・スコルジー著 内田昌之訳
新ハヤカワ・SF・シリーズ 早川書房刊

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 タイトルとジャケットのパルプ絵からこの小説の内容を想像できる人もいないだろう。確かに導入部はコテコテのB級スペースオペラなのだが、まもなく物語はおかしな方向へ進み始める。夢の中で「これは夢だ」とハッと気づくような、そんな感じで。ここからは、古いSFドラマにツッコミを入れ続けるような感じで、メタ・フィクションと化してゆく。物語は次第にドタバタ劇となり、やがてさらにメタ化し、最後には思いがけずしんみりと感動させられてしまう。まるで全盛期の筒井康隆のようで、筒井作品が好きな人にはおすすめの一作だろう。



「聖痕」 筒井康隆著 新潮社刊

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 実は「レッドスーツ」を読む少し前に、たまたま筒井康隆の「聖痕」を読んでいた。朝日新聞に連載されていた作品である。
 幼い頃にペニスを切断されてしまった美少年の半生を描くクロニクルだが、性欲に煩わされないことが大きく作用し、一種の超人のようになってゆく。バブルからその崩壊、阪神淡路大震災、そして3.11まで、昭和から平成にかけての日本の移り変わりの中、狂騒に流されることもなく淡々と生き続ける主人公の姿は、ほとんど聖人のようでさえある。
 さすがに筒井康隆で、読ませるけれども、正直に言えば、ペニスがないくらいでそこまで透徹した眼差しを持つなんてことがあるはずないだろ、と思った。何もかもが上手く行き過ぎで、次第に現実感を欠いてゆくような印象を受けたのだ。だけどまあ、これは一種の寓話なのだろう。