漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

「絹の変容」と「ニライカナイの空で」

2014年05月13日 | 読書録

「絹の変容」 篠田節子著
集英社文庫 集英社刊

 バイオ・ハザードを描いた、篠田節子のデビュー作。パニックを生み出すものが、遺伝子操作された蚕の生み出す美しい絹に対するアレルギーであるというのは面白い。絹のタンパク質に対してアレルギー症状を起こす人だけが命に関わる発作を起こすのである。地味といえば地味な脅威だが、それだけに「こういったことは、あり得るかもしれない」という気にさせられる。物語の収束の仕方はややありがちだったけれども、それ以上広げようもなかったかもしれない。



「ニライカナイの空で」 上野哲也著
講談社文庫 講談社刊

 児童文学として、非常に完成度が高い小説だと思った。ただ、それはまだなんとかこの時代のことが想像できる年齢の自分だからそう思ったのかもしれず、今の子供たちがどう思うのかは分からない。「ニライカナイ」なんていう、沖縄の言葉が出てくる児童文学といえば、すぐに灰谷健次郎の名作「太陽の子」を思い出してしまうけれども(あとは、別役実の「黒い郵便船」を思い出してしまうけれども)、あれなんかも、今の子供たちの心に届くのだろうか。第二次世界大戦末期の、ひめゆりの塔で有名な沖縄戦の悲劇を背景にした「太陽の子」は、非常に偏った危険な思想のもと、誤った方向に向けて大きく舵をとろうとしている安倍政権下にある今の日本の子供たちにこそ、ぜひとも読んでほしい物語であるのだけれど。