本来、伝統階級とはいえないはずが、人材の豊富なクラスに挟まれて、必然的に豪華絢爛な顔ぶれが揃うことになった、という感じのスーパーウェルター級。
マガジンによるエントリー、一回戦の組み合わせは以下の通り。
トーマス・ハーンズvsフェルナンド・バルガス
ジュリアン・ジャクソンvsウィルフレッド・ベニテス
テリー・ノリスvsロナルド・ライト
輪島功一vsマイク・マッカラム
ハーンズをここに置くのか、と最初は思いましたが、まあ納得出来る話。
悪く言えば「ボロを出さずに」通り過ぎた、となりますが、減量苦から解放され、なおかつ後年のミドル級時代ほど、力入れて打たずともパンチが効いた、という印象が残り、体格やリーチ、スピードも生きていた。
端的に「良いとき」だったかもしれません。
戴冠戦は、史上最年少の三冠王、カリブの神童ベニテスとのビッグマッチ。
後述しますが、この頃のベニテスは三階級目ながら充実期にあって、ハーンズ以外で誰が行っても難しかっただろうと思います。
動画貼るまでもないけど、WBA王者デュランとの、事実上の統一戦。
ハーンズのとこだけ早送りしてるみたいやなあ、と当時思ったものです。
あと、画質はいまいちですがフレッド・ハッチングス戦。
ミドル級に転じる直前、減量はすでにきつかった模様ですが、まあ強い。
当時、対戦交渉があった元WBA王者、三原正がリングサイドで観戦していて、その強さに改めて唸った、という話もありましたね。
対するはヒスパニックのバッドボーイ、フェルナンド・バルガス。
出始めの頃の印象は鮮烈でしたが、段々分厚く、重く見えるようにもなって、その辺は気になるところでした。
ウィンキー・ライト、クォーティーに勝っていますが、トリニダード、デラホーヤ、モズリーには敗れています。
強敵と多く闘った、という見方で良いとは思いますが、ただ、史上ベスト8の選手かな、というと...微妙にも思いますね。
これはビッグネーム相手に勝った、上昇期の試合。ガーナのバズーカ砲、アイク・クォーティー戦です。
言うまでもなく強敵、それも洒落ならんレベルの相手ですが、堂々と打ち合っております。これは素晴らしいですね。
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続いては、みんな大好き、強打一本勝負のジュリアン・ジャクソン。
「ハンマーパンチ」なんて異名は今時じゃないですが、本当にそんなイメージです。
この人はミドル級で長くやった印象ですが、強敵相手との対戦はこちらが多かった、ということでしょう。納得です。
とりあえずハイライト動画。これ、数年前に見つけたやつですが、見たことなかった若手時代の試合も入ってました。
負けた試合、マッカラム戦、マクラーレン戦、クインシー・テイラー戦などは入っていません。
マッカラム戦は後ほど。白仁鉄戦、テリー・ノリス戦は入ってます。ノリス戦勝利の星は大きいですね。
...まあ、ご覧の通り、ということで(笑)。
ミドル級に転じたころ、すでに左目は視力が以下略だったそうで、しかしドン・キングと契約を結び直すと表明したとたん、世界王座決定戦(対ヘロール・グラハム戦)出場の許可がWBCから出た、という、もういかにもタコにもな経緯だった、と...まあそれを含めずとも、強い相手と闘った、という点で、このクラスでのエントリーは妥当でしょう。
ただ、対するのが、相手として最悪というか...カリブの神童ウィルフレッド・ベニテス。
17歳で強豪アントニオ・セルバンテスを攻略し(スーパーライト)、僅か一週間かそこらの練習でレナードと渡り合い(ウェルター)、このクラスではデュラン、ハーンズと熱戦を繰り広げた。
この、これぞ天才肌、という男が、実は一番落ち着いて、充実していたのが、このクラスにいた時だと思います。
これが戴冠戦、英国のモーリス・ホープ戦。三階級目でも平然、マイペースに運んだ挙げ句、一発で仕留めます。
続いて中南米のスター対決、ロベルト・デュラン戦。「ノー・マス」事件からの名誉回復を図るデュランを、見事に空転させます。
この試合ぶりは、まさにメイウェザーの先駆ではないか、と思うほど。
微妙な距離の調整、アングルの変化、相手の心理を読み切ったようなクリンチの駆使により、相手の攻撃を空転させ、小さいヒットを重ねていく。
時には敢えて、打てそうな位置に自分の顔を持っていき、打たせておいて外すような場面も。
これを他ならぬデュラン相手に15ラウンズやり抜いて、ご覧の通り、平然。この時、なんと弱冠23歳。
もちろん、キャリア全体の安定感では比較にもなりませんが、この一試合だけでいえば、その「天才度」はメイウェザー以上だ、と思います。
出来ればフルラウンド見て貰いたい試合ですね。
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90年代、P4P上位をチャベス、ウィテカーらと争ったのが「テリブル」テリー・ノリス。
スピード抜群、強打を連打して、鮮烈、豪快な勝利を何度も見せてくれました。
ジュリアン・ジャクソンに喫した逆転KO負けは痛かったですが、ジョン・ムガビを初回に沈め、復帰戦のレナードに圧勝、そして長期政権へ。
ただ、強敵相手との試合が多かったとはいえ、打たれたら打たれたぶん、きっちり効くし、時には倒されてしまう、という試合があったのも事実でした。
こちらは初の戴冠試合、ハグラーに善戦して名を上げた「野獣」ジョン・ムガビ戦。
結果知って「えー、ジュリアン・ジャクソンに倒された選手が、ムガビに勝ったんか」と驚きました。
この時は、そういう見方だったのです。
こちらはレナード戦。これはもう、皆さんよーくご存じの試合。
ただ、画質の良いのがあったんで、一応ご紹介。お時間あるときに、ゆっくりと。
そういえばこの試合、WOWOW開局間もない頃の放送で、解説は「二郎さん」だったなぁ...。
この後、チャベスとの激戦で名を上げたメルドリック・テイラーを一蹴したり、天才ドン・カリーに事実上「引導」を渡したりと、その強さは目覚ましいものがありました。
キャッチウェイトでチャベス戦、なんて話が一時持ち上がったときには「そんな無茶な。チャベスが壊されてしまう」と思うようになっていたくらいで。
その後、倒されたり変な負け方したり、ごちゃごちゃした後、キース・ムリングス戦で「限界」が来た、というところでしたが、ベストの時期は本当に、傑出して強かった。その印象はやはり強烈です。
対するはロナルド・ウィンキー・ライト。
ガードを掲げた防御は、堅牢さが全面に出たもので、闘い方も地味ながら実力は一級品のサウスポー。
ミドルに上げて以降も頑張ってましたが、このクラスではやはり、デラホーヤに連勝したシェーン・モズリーに連勝(ややこしい文章ですみません)した二試合が大きいですね。
地味なわりに、強敵相手と良いカードがどんどん組まれるなあ、という印象もありましたが、強打者ではない代わりに、闘い方自体が正直というか、右リードで突き放し、崩し、距離が詰まっても打ち合いを辞さず、という具合で、見ていて感情移入しやすい選手でしたね。
その上、レベルも高く、防御も堅実なので、強敵相手と多く闘えた。確かにベスト8に値すると思います。
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そして、遂に出ました、我らが「炎の男」輪島功一。
「マガジン、輪島さん入れちゃいましたよ」と、長年の輪島ファン、ワジマ原理主義者みたいな友人に笑いながら言ったら、ちょっと本気で怒られました(笑)。
まあ冗談はおいて、時代の違いもあり、見た目の印象だけで言えば、だいぶ見劣りするような気もします。
ただ、好調時の試合ぶりは、攻防の切り換えやフェイントの巧さなどが冴えていて、マット・ドノバン戦などは出色の出来。
アルバラード、柳済斗との再戦で見せた、多彩な左による崩しなども、体格面の不利を逆に利したとも言える、技巧派ファイターの本領発揮でした。
ことに柳済斗との再戦は、出来ればフルラウンドで見て貰いたいです。
この試合運びの巧さと、一度KO負けした相手を怖れぬ果敢さは、一見の価値あり、です。
CSフジでの放送は最近はないようですが、DVDソフトも出てますし、出来れば高画質で。
とりあえず動画。しかし、凄いハイライト作ってる方がいるんですね。
で、対するは人呼んで「カリブの鬼才」「ミスター年齢不詳」マイク・マッカラム。
80年代中量級黄金カルテットの4人と比べても、時期によっては強かったんじゃないか、という気もしたくらいの、底知れぬ存在感を持つ技巧派でした。
クロンク・ジムでトレーニングしていた頃の様子については、ハーンズ、マクローリーよりもマッカラムが一番強かった、という証言があるといいます。
実際の年齢がわからない(公表されているより5~6歳上?)とか、その試合ぶりも、強打ジャクソンを「技」で切り崩したり、ドン・カリーをスター選手の座から蹴落としたりと、鮮やかな勝利を重ね、いよいよ打倒ハグラーか、と思われた矢先、技巧派カランベイ戦で意外な敗北を喫したり、どうにもつかみ所のない印象がありました。
後年、ミドルやライトヘビーで、ジェームズ・トニーやロイ・ジョーンズを相手にしたときも、その辺の雰囲気、得体の知れ無さは生きていたように思います。
見た限りではこれが生涯ベストの試合でしょうか、ジュリアン・ジャクソン戦。
強打の挑戦者相手に引かず、巧さで押し返し、好機を得たら怒濤の猛攻。見事です。
出世試合といえばこれになるんでしょうね、ドン・カリー戦。
ウェルター級統一王座を失い、トップ戦線への再浮上を期したカリーと息詰まる攻防を繰り広げ、最後は奈落の底へ叩き落とす。
カリーのファンだった私は、この結果を知って、目の前が真っ暗になったものです。
2回終盤、マッカラム左アッパーの好打があり、しかしガードが甘くなったところを、カリーが右クロスで叩く。
この攻防ひとつとっても、世界のトップ同士とは凄いものだと、今更ながら感心します。
3回開始時、あのマッカラムの表情が青ざめています。
しかし3、4回、カリー優勢、マッカラムが食い下がり、という流れで迎えた5回、マッカラムの「死神の鎌」がカリーを捉えます。
カリーはこの後、WBCタイトルを一度は獲りますが、ほどなく陥落し、期待されたハグラー戦を闘うことなく、ノリス、マイケル・ナンらに敗れ、リングを去ります。
その「運命」を決めた男、マッカラムはこのクラスにおいて、単なる結果以上の濃密な記憶を残した存在だと思います。
しかしカリー、なんであのパンチ食ったかな、といまだに思いますね。
左ボディが来ると思って飛び退いたら上に来て、スウェイが間に合わなかったのでしょうが...巧い人が時々、早く物事を見切り過ぎることはあるものですが、それにしても、と悔やまれます。
お前が悔やんでもどうにもならんぞ、というツッコミが聞こえてきますが、そこはどうかご容赦を...。
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一応、対戦すれば、ということですが、ハーンズがバルガスを迎え撃ち、強烈なKO勝ち。
好調時のベニテスが、ジャクソンの強打をかわしきる。
ノリスとライトは打ち合いになり、ライトのプレスにノリスが耐えきって強打の効果で抜け出す。ノリス。
輪島さんとマッカラムは、残念ながら輪島さんの健闘及ばず、左のヒットが重なって、TKOでマッカラム。
準決勝、ハーンズとベニテスは実際の結果のとおり。
ノリス、マッカラムはノリスが先行、マッカラムがボディで追い上げ逆転、というところか。
決勝はハーンズ、マッカラム。難しいがクロンクでのスパーの内容は、けっこう一方的だったらしい、ということを加味して、マッカラムで。
もちろん試合となれば別ですし、充実期のハーンズ強打爆発、となる可能性もあるでしょうが...。