長らく、ヘビー級の下といえばライトヘビー級だったわけで、やはり伝統クラスならではの重みが感じられる顔ぶれが並ぶ、一回戦の組み合わせです。
ロイ・ジョーンズ・ジュニアvsアルツール・ベテルビエフ
バージル・ヒルvsマイケル・スピンクス
ボブ・フォスターvsドワイト・ムハマド・カウィ
ビクトル・ガリンデスvsアーチー・ムーア
かつて、P4P最強の名声を欲しいままにしたジョーンズの印象は、やはり強烈です。
この選手は誰にどうやって負けるんだろうか、そんなことが現実に起こるんだろうか、とまで思わせた頃がありました。
その試合ぶりは、ミドルから増量し、Sミドルを経てライトヘビー級に到達して以降、省エネ込みの自重...というに留まらぬ「遊び」も目に付き、正直言って好みではありませんでした。
当時、WOWOWは今ほど生中継の回数が多くなく、彼の試合も結果知った上で見ることがほとんどでしたので、余計に間延びした試合ぶりに見えた、という面もあったかもしれませんが。
ただし、その技量力量、才能はやはり圧倒的で、嫌う反面、仰ぎ見るような気持ちでもありました。
彼の映像では、後ろ手から右決めて倒したシーンがよく紹介されますが、個人的に「これ見れば、ジョーンズがわかる」と思う、そんな動画紹介。
ライトヘビー級転向初戦だったか、メルキ・ソーサ戦。ストップに猛抗議するソーサの気持ちもわかりますが、そこに至るジョーンズのパフォーマンスは、クラスを上げたばかりとは思えない、凄まじいものでした。
あと、技巧派サウスポーとして鳴らしたレジー・ジョンソン戦、3回のワンツーパンチによるダウンシーン。
当時、見ていて驚愕したのを覚えています。こんなパンチ、食うような選手やないのに!と。
ジョンソンが立ち上がって、その後試合が判定まで行ったこともまた、驚きでしたが。
対するチェチェンの鉄拳アルツール・ベテルビエフは現役最強の強打者と目されますし、ようやくプロモートも大手と契約して、充実期にあるのかもしれませんが、それでもベストのジョーンズと比較すると分が悪そうです。
とはいえ、ジョーンズに「遊び」の余地を与えない力量が彼にはある、とも思います。ジョーンズにとり、密度の濃い攻防が求められる試合になるでしょうね。
対象的なタイプの激突で、これこそ夢の対決なのかもしれません。
このカードこそ、事実上の決勝戦か、と思うくらいです。ここはベスト比較なら、ジョーンズの勝利で。ただし相当苦労した上で、と。
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バージル・ヒルは、当時ライトヘビー級屈指の好選手で、これから開花するかと目されていた王者レスリー・スチュワート戦での勝利が、振り返ってみれば一番印象的な試合だったように思います。
有利を予想された王者が、左の応酬で思うに任せず、少しフォームを乱したところを即座に「斬った」左フックはお見事の一語。
“Quicksilver”とは、よく名付けたものです。アメコミの有名キャラクターのことは、当時は全然知りませんでしたが。
スチュワートは「大成」せずに終わり、ヒルはこうして史上ベスト8の評を受ける王者となりました。両者の命運を分けた一戦ですね。
とりあえずKOラウンドから見られるように貼りますが、お時間あればフルでも是非。
対するは“Spinks Jinx”ことマイケル・スピンクス。後年のラリー・ホームズ攻略による“History Maker”としての評価は置いても、ライトヘビー級として、その実績は確かに、史上有数のものがあります。
当時、同級の王者クラスや上位陣を悉く打ち破り、王座統一を含めての10度防衛、まさしく「アルファベット要らず」の世界チャンピオンでした。
こちらの動画に、主要試合が網羅されています。有り難い。
しかし、タイソン戦はなく、ホームズ戦も打たれた場面がカットされています。実質10分弱。その先は同じ映像の繰り返しです。
今の目で見ると、世界戦でKO勝ちが多いわりに、強打者というより連打型、もっと言えば「忙しない」印象です。
当時の趨勢が、今より攻撃に傾いていたのも確かでしょう。
外して打って、好機には当てられる分だけは当てないと損、というような、実際的なボクシングだった、というところでしょうか。
しかし、このハイライトで見る印象よりも巧い選手でした。この辺はフルで数試合見ればわかることですが。
で、ヒル対スピンクスですが...ヒルはハーンズ、ミハエルゾウスキー、ジョーンズとの大一番に敗れているのが痛い。しかし10度防衛を二度(!)達成している。また、強敵相手の統一戦に二度も臨んでいるのも立派。ちなみに結果は一勝(ヘンリー・マスケ戦)一敗(ミハエルゾウスキー戦)。
しかし対するスピンクスも10度防衛を達成し、階級ベストの座にあった上、ヘビー級まで制した実績がある。
実績比較、ベストの比較、いずれも難しい。ほぼ互角か、勝負強さ、粘り強さでスピンクスか。
それこそヘビー級、しかもホームズ相手に、執拗に打って動いて、と粘り強くやり抜いた(判定は疑問もありましたが)ことも込みにして、ですが。
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長身、痩身の強打者といえば、トーマス・ハーンズと双璧を成すのがこの人、ボブ・フォスター。
ナイジェリアの英雄ディック・タイガーを倒した一撃は、シュガー・レイ・ロビンソンがジーン・フルマーを倒したパンチと並ぶ「史上最も有名な左フック」です。
こちらの動画はそのタイガー戦、ビセンテ・ロンドン戦、マイク・クォーリー戦のハイライト。「返しの左」の威力が存分に見られます。
対するは前の記事でも紹介したとおり、ホリフィールドとの再戦までは「不倒の男」として知られたドワイト・ムハマド・カウィ(旧名ドワイト・ブラクストン)。
小柄ながら、倒れたことがニュースになる、というタフネスで、数々の激戦、時には逆転劇を見せました。
負けた試合でも、スピンクスやホリーとの初戦では、相手をぎりぎりのところまで追い詰めるなど、その闘いぶりは誰にとっても脅威だったと思います。
上体を動かして外し、相手に迫って強打を決める。ニックネームはボルチモアの地名から「カムデンのバズソー(丸鋸)」。そのままの闘いぶりですね。
フォスター対カウィ、これも対象的な組み合わせですが...フォスターの強打を外し切れず、カウィ健闘するも惜敗、というところでしょうか。
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最後はビクトル・ガリンデスvsアーチー・ムーア。
ガリンデスについては、正直言ってちょっとだけしか見たことがありませんでした。今回、ちらほら見た感じ、アルゼンチン人の中ではかなりファイター寄りの印象。
10度防衛の実績を、攻撃優先の闘いぶりで成したのですから、南米では相当人気があったんでしょうね。
余談ですが、この人について知っていたのは、マイク・ロスマンとのリマッチにおける乱闘トラブル。
今見ても、なかなかの荒れ具合です。
4回終了後も手を出したガリンデスに怒り、突っかかったロスマン側の人間が、ロスマンの兄だったとのこと。
そのせいで、試合後の両陣営の様子など、もう礼儀も節度もあったもんやないですね。剥き出しの「闘い」そのものだ、という見方をするしかないんでしょう。
そういえば日本でもかつて、似たような事件がありましたっけか...。
そして最後に御大登場、という趣のアーチー・ムーア。
史上最多KO勝ちの記録保持者。39歳で戴冠した不遇の強豪。デュレル戦、伝説の逆転劇。
今更語るまでも無い、オールド・グレートの代表格。
動画はNHKの「KOパンチに賭けた男たち」から、生前のムーアを紹介した部分です。
率直に言って、時代が違いすぎて、スピードがどうと言い出したらムーア不利でしょうが、ガリンデスとの打ち合いなら、ムーアにもチャンスがあると思います。
ここはちょっと甘いかもですが、ムーア勝利で。
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準決勝、ジョーンズ対スピンクス。これも夢対決ながら、ジョーンズが引き離して勝つ、というところか。ジョーンズ。
フォスター対ムーア。さすがにムーアとて、ディック・タイガーの二の舞を避けられるとは思えず。フォスター。
決勝はジョーンズvsフォスター。ジョーンズの縦横無尽、フォスターの長槍という闘い。
勝って欲しいのはフォスターの方ですが、厳しくジョーンズ、というところ。
まあ、私が勝敗を決めていく必要も無いかな、と思い直したりもしていますが、とりあえず私見ということで。
もちろん異見ありでしょうから、色々とコメントしていただけたら嬉しいです。
同感です。というか、うっかり忘れてました。ライトヘビーのマイケル・モーラー、凄かったですね。左のハーンズか、という勢いで。
数年前にまとめた動画も見つけていて、やっぱり良いなと思ったのです。見たことない試合もありました。
なのに今回、書き漏らしました。不覚でした。別記事追加しようと思います。感謝です。