さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

必然の勝利のあとに

2011-02-11 22:45:14 | 井岡一翔
ワールド記念ホールから帰って参りました。

まさかまさかの内容と結果でした。
おとつい、暗いプレビューを書いてしまいましたが、今後についてはさておくとしても、
この試合に関してはもう、完全にごめんなさいです。
勝ったという結果だけではこうは書きません。
勝ちに至るまでの過程、内容がほぼ完璧だったことに、ただひたすら驚愕しております。
おとつい書いた「奇跡か無謀か」ではありませんでした。必然の勝利を見ました。


ご覧の通り、立ち上がりから井岡がガードで相手を威圧し続け、
王者オーレイドンがそれに圧された上での対応を繰り返す、という展開でした。
仮にも世界王者が、7戦目のボクサーにあれほどじっくり「見られ」てしまう試合を、
私は今まで見たことがありません。

時折伸びたオーレイドンの左も、井岡の前進に合わせた右フックも、全てはやむなく打たされたもので、
この試合が5Rに終わるまでのほぼ全ての時間を、オーレイドンは井岡に対する「対応」に費やしました。
それは角度で言えばほぼ正面に位置する井岡が、手を出せば当たる距離のほんの僅か外から
じりじりとかけてくる圧力であり、打ち終わりに迷い無く狙う右ボディであり、左フックであり、
そしてそれらを常に的確に、厳しいタイミングで仕掛けてくる井岡の「目利き」が、
世界戦の数だけで井岡のキャリアを上回る王者オーレイドンを、最初から最後まで後手に回らせていたのです。

帰宅して見たTV放送では、解説のひとりが愚かしくも「勢いで行って欲しいですね」と
寝言を言うて抜かしてけつかっておられましたが、あの試合展開をどう見たら
そんな寝惚けたことが言えるのか、一度尋ねてみたいです。
若さとか勢いとか、そんな根拠薄弱な言葉を蹴散らすほどの圧倒的な力でもって、
井岡一翔は最初から最後まで、ほとんど完璧に試合を支配していました。

5Rのフィニッシュは、オーレイドンがそれまでの展開を変えようと、自ら前に出て、
少し攻勢を取れたかと思った直後に訪れましたが、あの死角から悪いタイミングで食ってしまった
左のボディブローは、言ってみればいずれ来る必然の破局であった、と思います。



かくしてニューヒーロー誕生となりました。
今を去ること24年前ですか、叔父の井岡弘樹が初代王者として手にして、翌年失った
WBC105ポンドクラスのベルトを、叔父を上回る7戦目で獲得。
この劇的な側面も相まって、おそらく井岡一翔はしばしの間、マスコミの寵児となるやもしれません。

しかし何よりも、今日の試合で見た揺るぎなさ、デビュー7戦で迎えたあの大舞台において
予想以上に盛況だった場内を埋めた大観衆の前で、あのように闘えることの脅威こそ、まず語られるべきことでしょう。
かつて井岡弘樹が新設されたストロー級王者となったとき、その階級新設の是非や、
決定戦の相手の力量について、さまざまな批判がされましたが、私は当時、それらを全て含めても、
今とは社会的注目の度合いが違った時代に、仮にも世界戦と称する試合で闘い、勝ったこと自体が
まずは普通とは違うことだと見るべきではないのか、と感じていたものです。
実際、井岡弘樹は劇的な初防衛戦勝利と、柳明佑を攻略しての二階級制覇により、
後にその実力を認められるチャンピオンとなりました。
時を経て、それと同じような舞台を与えられた甥は、叔父を上回るような、結果に相応しい内容を
我々の前に見せた上で、見事な勝利を収めました。素直に脱帽し、心から拍手を送りたいと思います。


そしてなお、しつこく繰り言を書くことをお許しください。

井岡一翔は期待の逸材から、世界王者となりました。
ですが、過去にもこのように、キャリア初期に華々しい勝利を挙げてのち、苦闘を繰り返した王者を
私たちは幾人か知っているはずです。
その苦闘が現在進行形で続いているボクサーの試合を、つい先日見たばかりでもあります。

私は今日の試合に臨む井岡一翔を「八重樫東以上、名城信男以下」と見ていました。
名城信男の8戦目挑戦に至る過程を、ほぼ全て直に見てきた私は、最短記録挑戦への否定的見解を持ちつつ、
その圧倒的な内容と結果の前に「これならしゃあないな」という納得感も同時に抱いていたものです。
反して、八重樫東の挑戦前には、どうもそのような納得感が乏しく、心中において否定的見解が勝っていました。
そして井岡一翔は、八重樫より試合内容は上だが、名城の納得感にはほど遠い、という見方だったのです。

今日の試合内容は、繰り返しますが、私のそのような見方を木っ端微塵に打ち砕く、見事なものでした。
それを認めた上で、やはりこのようなキャリア構築が、彼の今後に与える歪な影響について、
周囲の人々には、大いに注意を払い、今後の試合を闘ってもらいたい、と切に願います。


試合後のインタビューにおいて、過剰なほど周囲への感謝を繰り返していた井岡一翔は
くどいほど繰り返される、ほぼ同じ意味合いの質問を経て、最後に心中にあった思いを吐き出すかのように
いささか唐突なことを言いました。

「次は、四階級制覇、とる(する)んで、応援お願いします!」

この言葉の意味するところが何なのか。我々ボクシングファンの心中には、揺るぎなき答えがあるはずです。
少なくとも私は、あえて今、この数字を持ち出した彼、井岡一翔に、強く共感しました。
そのような思いで闘い続ける井岡一翔を、今後がどうあろうと、応援したいです。

だからこそ、だからこそ...。
願わずにはいられません。願うことしか出来ない、ファンのひとりとして。



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12 コメント

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Unknown (Neo)
2011-02-12 01:04:31
井岡選手の最後のボディは,いいパンチでしたね.試合であれを打てるということは,想定通りの展開だったのでしょうね.
自分は,井岡選手の距離感の良さと頭の良さと性格の良さを感じました.まだまだ強くなると思います.
スターが誕生した試合ですが,試合内容に関しては,案外紙一重だったのではないかと思います.そこを勝ちきる,倒しきるというのはスターの証でもありますが,やはりキャリアが少し足りない印象を受けました(当たり前ですけど).
今後に関しては,アマキャリアが豊富で,環境が良くて頭が良い選手ですからあまり心配いらない気もしますが,試合数はもう少しこなした方が良いでしょうね.チャベスじゃないですけど,ノンタイトルでもどんどんやっていいんじゃないでしょうか.
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Unknown (motercitycobra)
2011-02-12 03:49:40
>帰宅して見たTV放送では、解説のひとりが愚かしくも「勢いで行って欲しいですね」と
>寝言を言うて抜かしてけつかっておられましたが、あの試合展開をどう見たら
>そんな寝惚けたことが言えるのか、一度尋ねてみたいです。
>若さとか勢いとか、そんな根拠薄弱な言葉を蹴散らすほどの圧倒的な力でもって、
>井岡一翔は最初から最後まで、ほとんど完璧に試合を支配していました。

同感でございまする!!!!(笑
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Unknown (motercitycobra)
2011-02-12 03:51:05
↑一個まちがえて多く送ったようなので、これとともに削除してくださいませなのでござる!!
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あの局の毒牙に注意 (アラサーファン)
2011-02-12 07:44:30
私も間抜けな予想を立てましたが井岡君には関係なかったですね。単に前に出るわけではなく、相手の左をしっかり防いでプレッシャーかけてボディストレート、距離詰めて左フック。王者がKOパンチなく、接近戦が上手くなく、身体流れる左だけ。それを差し引いても実に見事でした。
本人もサラストレーナー筆頭の陣営も実に用意周到で慌てず騒がず、冷静でしたね。
結果は見事ですが今後あの局は益々井岡君に食い付いて離れなくなるでしょう。井岡君を毒牙から守る事とあまり日陰にして宮崎君のやる気を削がない様に、難しいですが井岡陣営には細心の注意を払ってもらいたいです。
昨日の解説はここなん試合か見た中で一番酷かったですね。ゲストの香川さんが一番上手かったです。



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すげぇ (レノンバッファ)
2011-02-12 10:15:50
井岡一翔、お見事でした。
戦前のインタビューで、
「オーレドンには皆深追いして連打しようとしてやられてる。僕はそうはさせない」
というようなコメントをいろんなところで残してましたね。

たいしたもんです。見事にそのプランを実践して見せました。
井岡はステップワークとボディワークでプレッシャーをかけながらも、無駄な手数を控え、
常にオーレドンを動かせ、打たせ、
そうすることで生じる隙を狙っていた。

そして、グサリ!

衝撃の戴冠でした。
テレビの前でバンザイしちまいました。

あっぱれです。
それにしても、解説の○塚と佐○はいらんな、と強く思いました。
(しゃべりの内容が酷いことはもちろん、事前取材とかしてないのバレバレ)
香川さんがずっと解説やればいい!





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Unknown (さんちょう)
2011-02-12 12:02:23
本当にお見事でした。凄いボディでしたね!!僕は1R、井岡選手の表情を見てやる気というよりもものすごい殺気を感じました。なのでこれはもしかしたらいけるかもなんて思ってたらこの結末ですからね… これから真のスターへとなって欲しいです。僕も解説は香川さんがいいですね(笑) 僕も会場が近かったら見に行きたかったっす(笑)
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Unknown (とみー)
2011-02-12 13:43:12
 いつもいつも、最初のごあいさつが同じで申し訳ありません。
 と、いうことで、お久しぶりです!
相変わらず、お元気そうでなによりです。

 昨日の井岡は見事でしたね。生観戦、うらやましい限りです。

 今回は本来の階級から1階級下げての挑戦だったので、試合のスタイル、展開よりもまずコンディションがどうか?というところが最大の注目点でした。前日の計量時の写真を新聞で見たとき、やっぱり頬もかなりこけていたので厳しい減量だったことがわかりました。
 しかし、試合前の表情や体つきから、1日でうまく回復していたことがわかり、陣営の計画の緻密さを感じました。
 そして、試合が始まって、その構えから、さらに陣営の緻密な計画が読み取れました。
 対サウスポーの見本となるような、左ストレート、右フックに対してのがっちりした構え。
しかし、リードパンチや右ストレートもすぐに返すことができる構えだったと思います。
 試合も冷静に上下を打ち分け、常にプレッシャーをかけ続け、7戦で世界にいくだけの技量、度胸を見せてくれたと思います。

 ボディで仕留めたのも良かったですね。
つい最近、会長とボディで試合が決まることが少なくなったって話をしていたばかりだったんです。
 これで練習生達もボディ打ちの練習をするようになるでしょう!
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コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2011-02-12 13:50:29
>Neoさん

試合数の少なさは、この試合ではほとんど影響なかったように見えましたが、おそらく今後、かなり深刻な形でそれが露呈する日が来ると思います。105ポンドでかなり良いコンディションを作れたおかげで、体格面での利を得て、オーレイドンを最初から抑え込んでしまいましたが、少しでも動きが落ちれば通じない面も出てくることでしょう。経済的な面で、一度手にしたタイトルを負けないうちに手放すのは容易ではないにせよ、まずは転級のタイミングを間違えないでほしい、と思います。

>motercitycobraさん

コメントひとつ削除しておきました。
初回終了時にあのコメントを聞いたときはさすがに呆れましたね。どこをどう見たらそんな軽い表現になってしまうのかなぁ、と。こちら二階席から見ても、井岡の発する殺気、圧力のようなものを感じて息を呑んでいたというのに。

>アラサーファンさん

王者は自分から攻める形の選手ではなく、相手を誘って外し、ヒット数を稼いで勝つ選手ですから、その土俵に井岡が一切乗らなかったということで、王者が弱く見えた部分があると思います。とはいえ言うほどたやすいことではなく、そのためにギリギリの距離で圧力をかけ続け、一瞬も緩みが許されない高度な攻め方で勝った井岡には、心底驚かされました。

宮崎亮はセミでタイ人との無冠戦で、きっちりKO勝ちしましたが、試合後のインタビューで「一翔は高校からの友達で、ライバルとかいう気持ちはない。一翔が世界やるのに、くそーっていうような気持ちも全然無い。勝って欲しいし応援します。皆さんも応援してあげてください。そして、僕が世界やるときは、僕のことも見てください」と語っていました。取り方はそれぞれあるかもしれませんが、充分に老いたこの身には(←故・佐瀬稔氏風に)、なんと健気なエエ子や、と感動的でありました、ハイ(^^)
返信する
コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2011-02-12 14:07:58
>レノンバッファさん

仰るとおり、試合前から的を射たコメントをしていましたね。しかしそれを実現する技量が、というよりそれを発揮する裏付けとなるものが、今の井岡一翔に備わっているのだろうか、とそこを懐疑的に見ていました。試合始まったら即座に、その通りの展開を自分で作っていく姿に驚嘆し、ホンマかこれ、しかしどこまで続くんかね、中盤以降もこのまま行けるもんなんかな、と思っていたら、そこまで行かずに終わりました。歓喜というより「ええええ~!」でしたね。驚愕を伴った心地よい感動でした。

解説については、よそもちらほら見せていただいたのも含め、各方面から絶賛の嵐ですね(笑)でもまあ、実況も凄かったですけどね、佐藤修に「オサムさん」と呼びかけてたのはウケました(笑)オサム一雄がゲストに来てるんかと...全然思ってませんけど(笑)

>さんちょうさん

仰るとおり「殺気」ですよね、あれは。目からも殺気、ガードからも殺気、背中からも殺気を感じました。それはTVやリングサイドだけじゃなく、二階席にも伝わってくるものなんですよね。本物の戦闘能力を持つボクサーが、明白な戦略と、それを信じる強固な精神を持って闘うとき、見る者にひしひしと伝わってくる、言葉に出来ない脅威が、昨日の井岡一翔にはありました。

香川さんは香川さんで、いろいろ問題があることでしょうが(笑)少なくともあの解説陣よりよほど良いですよね。会場は聞いた話と違ってかなり盛況でした。負けても今後につながる何かが見られたらそれで良しとしようか、なんて思っていたら、嬉しい驚きをもらいました。

>とみーさん

井岡の減量からの回復は、若さ故という面もありましょうね。これがいつまでも続くわけではないことも事実で、そこらあたりの見切りをまずは間違えないでほしいと思います。目先の世界戦興行収益ひとつよりも、井岡一翔のような逸材に余計な消耗をさせないことを優先してもらいたい、と。

ボディについては、あのオーレイドンを自分から出ないと行けない展開に誘い込み、打ってきたあと、身体を戻す前に叩いたフィニッシュの左ボディはもちろん見事だったんですが、それまでの展開で頻繁に決めていた右のボディストレートも評価したいですね。時に被弾もいとわず強引に差し込むあのパンチは、オーレイドンに対するさまざまな意味での「嫌がらせ」効果が高かった、と思います。ボディブローは大事だと思います、ホントに(^^)
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Unknown (レノンバッファ)
2011-02-12 15:09:53
>>オサム一雄がゲストに来てるんかと..

やばい。ツボです(笑)!!

しっかし、テレビで見た限りですが客入ってましたね-。
大観衆の前で衝撃的KOで戴冠、
一翔、「持ってる」んですかね。

この若き才能を、なんとか余計な大人の思惑にまみれさせることなく
今後もしっかりと育てていって欲しいと切に望みます。

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