むつ政経文科新聞 第5号 昭和53年(1978年)2月25日発行
「ニュース」:原子炉衛星が墜落 人口密集地なら大惨事
1月24日、ソ連の原子炉衛星がカナダに墜落した。同じ日にベルギーで原子力発電所の事故があったが、原子炉衛星の大ニュースのため新聞での取り扱いも小さく、見落とされた方も多いであろう。
この原子炉衛星は、1カ月も前から墜落が予測されていて、大気圏に突入する際の角度によって日本に墜落する可能性もあった。しかし日・米・ソ・カナダなどの各政府は、いずれも「国民がパニック状態に陥ることを恐れて」事前に公表しなかった。わが国政府では国会の追及に答弁して、「対策の立てようもないので非常体制も取らなかった」ことを認めた。
ソ連では回収班の派遣を申し入れたが、カナダに拒否された。墜落と同時に米軍機がカナダに出動し大規模な捜索が開始された。カーター大統領は「人口密集地帯に墜落していれば、放射能汚染で住民に重大な影響が出たであろう」と異例の談話を発表し、米国防省では、「汚染地域を500年から1000年間、鉛で覆う必要があろう」と述べた。
26日にはカナダ国防相が「原子炉衛星とみられる強い放射能を検出した」と発表したが、翌27日にカナダ軍参謀長が「放射能探知は計測ミス」と訂正し、28日以降は報道管制が敷かれて、アメリカ、カナダ両国の首脳部の狼狽ぶりを軍部が押さえつけた形になった。その後次々と原子炉衛星の残骸が発見されて、「極めて危険な水準の放射能」を検出したものの無事に回収されたとして、この事件は闇に葬られようとしている。しかしこの事件勃発当時の各国首脳部の慌て振りと、軍部とCIAに操られた鮮やかな幕切れに、世界の人々は何とも割り切れぬ思いを抱いた。
ソ連の人工衛星は1970年にも爆発を起こして、テキサス州に金属片を降らせている。米国も過去2回、原子炉衛星の墜落を経験している。これらの事故は今回の事故があったために明らかになったことであり、その被害の程度は不明である。米国の消費者運動を推進しているラルフ・ネーダーのグループは「人口密集地に墜落した場合、40人が死亡、500人が負傷、500億円の損外と恐るべきパニック状態が出現したであろう」と語った。
墜落したソ連の人工衛星には60kgのウランが積まれていた。原子力船むつには2770kgのウランが積まれている。
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