豪州落人日記 (桝田礼三ブログ) : Down Under Nomad

1945年生れ。下北に12年→東京に15年→京都に1年→下北に5年→十和田に25年→シドニーに5年→ケアンズに15年…

石油と原子力に未来はあるか?

1979-01-22 12:03:17 | 下北

むつ政経文科新聞 第16号 昭和54年(1979年)125日発行

 

「科学」:石油と原子力に未来はあるか?

 

全ての生物に共通に言えることだが、人類は地球上の資源を使い尽くすか、産業廃棄物の増大によって死滅する。石油が30年で枯渇するという宣伝には全く根拠はないが、現在の消費文明のもとでは将来石油のみならず、あらゆる資源が枯渇することは明白である。100年後の私たちの子孫の生活は、冷静な科学の目から見れば、極めて悲惨なものにならざるを得ない。地球上には産業廃棄物が溢れ、陸上の大半は砂漠と化し、人類は慢性的な食糧危機に悩まされるであろう。

1960年から1970年の10年間に、資源の消費量は10倍に増えている。しかし商品の生産量はほとんど増えていない。消費文明という麻薬に犯された人類は、既に物を所有することに飽きて、エネルギーの浪費に喜びを感じている。現代文明を支えているものは、石油、セメント、鉄である。中でも石油がなくなれば、現代文明は急速に衰退する。石油の持つ優れた特性に代わる資源は何もない。

現在石油はその20%だけが電力に変えられているに過ぎない。現在実用化されている原子炉(核分裂炉)にしても、未来のエネルギーと見られている核融合炉・太陽炉にしても電気しか作りだせない。飛行機、船舶、自動車、鉱業機械などを全て電化することは困難だし、日用品の隅々まで行きわたっている高分子化合物や化学製品は石油が原材料である。すなわち、未来のエネルギーと呼ばれるものは、石油の20%しか代替えできない。

核分裂炉も核融合炉も太陽炉も、巨大なエネルギーと資材を要するプラントであり、石油なくして建造も運転もできない。潮力発電や地熱発電も同様で、いずれもが石油を食い潰して発電する構造である以上、石油をそのまま燃やした方がずっと効率的で経済的である。石炭の石油化や月や他の惑星から資源を取って来て、産業廃棄物は大気圏外に捨てるという構想も、エネルギー収支を無視した夢でしかない。化石燃料である石油は、生物の存在しない地球以外の太陽系惑星にはないのである。

人類は科学技術を過信してきた。現在の繁栄が永遠に続くことを願って、科学に過大な期待を寄せている。しかし、科学は無から有を作りだす技術ではない。エネルギー保存の法則、物質(質量)不滅の法則、エントロピー(廃熱・廃物)増大の法則など、自然界の掟に縛られている。人類は自然界に資源を求め、科学技術によって有用な部分を取り出し、不要な部分を再び自然界に捨てて生活している。資源は確実に減り、廃物は確実に増えていく。

私たち人類は子孫のために、現代文明の悪夢幻的な消費の拡大の構造と縁を切らなければならない。少なくともエネルギー消費量を1960年に戻さなければならない。1960年以降の10数年間で人類は物質的にはほとんど豊かになっていない。逆に「消費こそ豊かさの象徴」という商業情報に追い立てられ、精神的に貧しくなっている。資源の消費管理と、土・水・空気の保護管理は、人類に「資源の再生産」と「人間らしい文明」とを約束してくれよう。(日本核医学学会員 桝田礼三)

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核融合

1979-01-21 11:50:40 | 下北

むつ政経文科新聞 第16号 昭和54年(1979年)125日発行

 

原子力のABC⑥ 核融合 (日本核医学学会員 桝田礼三)

 

原子力発電には核分裂によるものと核融合によるものの2種類があり、現在実用化されているのは核分裂炉である。核分裂はウランの埋蔵量に限度があり、放射性廃棄物の安全な処理方法がないという致命的な欠陥があり、核融合技術が完成するまでのつなぎと考えられている。核融合の燃料である重水素は海水中に無限にあり、放射能も出さないと喧伝されているが…。

 

    核融合は重水素とリチウムを燃料とし、リチウムはウラン以上の希少資源である。また重水素も塩水から取り出すことは不可能。

    核融合炉は重量が約10万トンという巨大なもので、13兆円(分裂炉の10倍以上)の巨費を要し、効率も悪く、エネルギー収支から割に合わない。

    核融合炉にはニオブバナジウム、モリブデンなどの特殊な金属が必要だが、わが国にはそれらはなく、石油やウラン以上のエネルギー戦略物資として利用される。

    核融合炉の運転には高温レーザーを作りだす大電力と、中性子を作るための大量のトリチウムが必要。これらを得るために1基の融合炉につき10基の分裂炉が必要で、大量の放射能が吐き出される。

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半減期

1979-01-19 11:06:47 | 下北

むつ政経文科新聞 第15号 昭和54年(1979年)15日発行

 

原子力のABC⑤ 半減期 (日本核医学学会員 桝田礼三)

 

放射性物質は不安定な元素で絶えずエネルギー(放射線)を出しながら一定の速度で壊れていく。放射性元素の半分が壊れるのに要する時間を半減期という。この半減期は各元素について常に一定で、外界のあらゆる条件に左右されない。すなわち科学の力で崩壊を速めたり遅くすることは不可能だから厄介である。放射能は生物の遺伝子を狂わせて、癌や白血病や奇形児を生み出す。放射能が無毒化するためには、少なくとも半減期の10倍の期間が必要とされている。半減期が来るとエネルギーは2分の1になり、半減期の2倍だと4分の1になり、3倍だと8分の1になる。10倍でやっと1000分の1以下になる。原子炉からは色々の放射性元素が出るが、主な元素の半減期を次に掲げる。

ヨード1318日)、ヨード1291700万年)、コバルト605年)、ストロンチウム9028年)、炭素145800年)、プルトニウム2392万年)、プルトニウム24238万年)。

これらの中でもヨードは特に人体に取り込まれやすい物質であり、人類は今後少なくとも17000万年間、放射性廃棄物の管理を義務付けられることになる。

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