非国民通信

ノーモア・コイズミ

高所得者にとっての1%は重い負担のようです

2010-11-25 23:53:42 | ニュース

年収1300万円で年12万円増税 政府税調案から試算(朝日新聞)

 政府税制調査会が来年度税制改正で、配偶者控除と給与所得控除の見直しを検討している。こうした所得税の控除見直しが実現すると、年収が1300万円を超える世帯では、年収に応じ、税負担が年12万~40万円増えることがわかった。所得税とともに、地方自治体に納める住民税も見直しとなるため、高額所得者にとっては「大増税」となる。

 個人が納める所得税を計算するときには、まず年収から一定額を差し引く。これを所得控除と呼ぶ。差し引き後の課税所得に、所得水準に応じた税率(5~40%)をかけて納税額が決まる。このため控除額が少なくなれば、税負担は増える。

 この記事では「大増税」などと呼ばれていますけれど、年収1300万円の世帯にとって12万円という金額は「大増税」に相当するのでしょうか。そりゃ増税には違いないのかも知れませんが、平均的な給与所得の3倍近い収入がある世帯にとって、その1%に満たないレベルの課税を「大増税」と呼ぶのは、いささかヒステリックな反応と見なされてもしかたないものです。

 たとえば世間的には高給取りということになっている公務員ですが、この公務員給与が2%以上引き下げられたときに、世論並びに今回の記事を書いた記者はどう感じたのでしょうか。行政職の平均給与は15万円以上、下がることにもなったわけで、もし1%&12万円が「大増税」に相当するのなら、2%&15万円の給与引き下げは、さながらカタストロフと言ったところです。しかるに、どうも私の覚えている限り15万円の給与引き下げに関しては「もっと引き下げろ」という論調が圧倒的であった気がします。12万円は大きな額だが、15万円は微々たる額だと、そう感じた人も多いのではないかと。

消費税増税でどうなる モデル世帯で16・5万円の負担増(産経新聞)

 消費税の引き上げで暮らしや経済にどんな影響が出るか-。税率10%の場合は平均的世帯で年間16・5万円の負担増となることが第一生命経済研究所の試算で明らかになった。消費の冷え込みで景気が下押しされれば、目標の財政再建自体が遠のく恐れも指摘されており、消費税論議でも家計負担と財政再建のバランスが焦点となりそうだ。

 ■低所得者層ほど負担増

 消費税は税率1%の引き上げで約2兆5千億円の税収増が見込まれるが、試算では、1%引き上げで平均的な4人家族世帯で年間3万4千円の負担増となる。

 現行5%の税率を10%とすれば16万5千円の負担増で、年間の消費税支払総額は34万6千円まで膨らむ。

 低所得層ほど相対的な負担は大きく、年収250万円以下世帯の消費税支払額が年収に占める割合は8・1%。年収1500万円以上世帯の4・2%の約2倍となる見込みだ。

 できれば冒頭の引用と同じ朝日新聞の記事があると良かったのですが、ともあれ消費税増税による負担増の程度が伝えられています。モデル世帯では16万5千円の負担増、年収250万円以下世帯ともなるや12万円の負担増で、その年収に占める割合は8.1%(5%増税の影響はその半分の4%強)に相当するとのことです。もし本当に年収1300万円の世帯にとっての1%、12万円の増税が大増税であるとするのなら、年収250万円の世帯にとっての4%、12万円の増税はどう表現すればよいのしょう。大増税を超える大増税、何か新しい言葉が必要になりそうですね。

 しかし、消費税増税に関して朝日新聞はどういう態度を取っていたのでしょうか。高所得世帯にとっての1%を「大増税」と呼びながら、低所得世帯にとっての4%に関しては「財政再建のためには仕方ない」と説くとしたら、それこそ数値の大小すらも理解できていないと言わざるを得ません。まぁ、それこそ経済誌などを見れば数値の大小すらも比べられない人のご高説が居並ぶわけですけれど、弱者切り捨てや財界側の立場からものを言うにしても、もう少し矛盾のないように話を組み立てる努力をしたらどうかと思わないでもありません。

 給与所得者のうち、年収1千万円以上は5%程度の約220万人。この層に大きな負担増を求めると、個人消費に影響があるのではないかとの指摘や、配偶者控除は女性の働き方をめぐり意見がわかれていることもあり、見直しの基準や時期をめぐっては議論を呼びそうだ。

 で、再び朝日新聞からの引用に戻ります。「この層に大きな負担増を求めると、個人消費に影響があるのではないか」とのことです。それだって全所得層に影響を与える消費税に比べればマシなものですし、収入を消費に回す率が相対的に低い高所得層ともなれば、個人消費に及ぼす影響もまた相対的には軽微です。年収1千万の世帯が年収250万の世帯の4倍を消費に費やすわけではありませんから。個人消費への影響を最低限に止めつつ税収を確保するためには、貯蓄性向が高くて消費性向の低い高所得層に増税するのが合理的な判断となるのですが、おそらくこの記事は別の思惑に沿って書かれているのでしょう。

 さて年収1千万円以上は人数にして5%程度、巷では「高所得層は数が少ないので、そこに増税しても税収増は増えない」などと恥ずかしげもなく語る輩もいるわけです。そりゃ、高所得者に人頭税を課すのならそういう主張も成り立つのかも知れませんが、頭数は少なくとも収入は格段に多いのが高所得層というものです。収入に応じた課税であれば財源として大きな地位を占めることになります。しかるに、累進課税の話となると高所得層の頭数の少なさを強調するような連中ほど、逆に消費の話となると今回の朝日新聞のような立場を取る人が多いような気がします。せめてどちら片方の立場を貫いたらどうか、最低限の一貫性は持てと言いたくなります。

 高所得層への軽微な増税を大増税と呼びながら、低所得層をも対象にしたより大規模な増税を致し方ないこととして受け入れを迫るとしたら、自家撞着もいいところです。少なくとも同じメディアが同時に主張すべきことではないでしょう。それでも高所得層への増税は軽微なものでもNGで、低所得層への大増税は推進するとしたら、要するに累進制は嫌だ、もっと逆進的な課税に切替よと主張しているに過ぎません。

 

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9 コメント

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Unknown (nobu)
2010-11-26 09:47:34
「この層に大きな負担増を求めると・・・」って収入の全てを消費する低所得者では消費税の上昇分は確実に消費が減ることになるんですけどね。

年収1000万円以上の人が今の生活水準を年間12万円(毎月1万円)分下げるとは思えません。また、高額所得者の勤労意欲が下がるなんて脅し文句が聞かれることもありますが、高額所得をやめて所得税負担の少ない低額所得者になるかといえばそうはならないですよね。同じく海外に移住するなんてことも聞きますが、どれほどの人が日本の生活を捨てられるのか興味があります。
偉い人の自己都合には忠実と言う点であまりにも一貫していますね (L)
2010-11-26 21:34:29
 この記事を読んで、Apemanさんの所の
http://d.hatena.ne.jp/apesnotmonkeys/20101109
なにを飲み食いしたらこういうバカなことを口にできるようになるのだろうか?
のコメント欄の論議を思い出しました。

apesnotmonkeys 2010/11/13 11:58
skywave1493 さん

高額所得者は税金が増えて手取り収入が減るとインセンティヴを失うらしいですが、低賃金労働者には低賃金のままでインセンティヴを高めることを求めて当然、らしいですからね。経営学でも学べばこのロジックを理解できるようになるんだろうか。

mash_plus 2010/11/13 20:42
>高額所得者は税金が増えて手取り収入が減るとインセンティヴを失うらしいですが、
>低賃金労働者には低賃金のままでインセンティヴを高めることを求めて当然、らしいですからね
これなんかも、自分らに負担を背負いこませるのははイジメ、下々は負担して当然、というロジックのなせる業ですかね。
http://moneyzine.jp/article/detail/189602/

 ほんと、偉い人たちって、最低ですねえ。
Unknown (通りすがり)
2010-11-26 23:56:52
誤字の可能性の指摘です。
>収入を所得に回す率が相対的に低い高所得層
キーボードの打ち間違いではないでしょうか?「所得」ではなくて「消費」かな?と。後ろにある
>貯蓄性向が高くて消費性向の低い高所得層
から考えると、そうなるのではないかと思います。
土光臨調 (kodebuya)
2010-11-26 23:59:11
初めまして

中曽根政権時代、土光敏夫がめざしを食べているということで庶民の人気を得たことを思い出しました。
なんのかんの言いながら日本人は我慢するとか、節約するといった、自分をいじめることが好きなのでしょうね。

このご時世、金持ちのやるべきことは、金を抱え込むことではなく、それを(トリクルダウンというかどうかはともかくとして)使い、貨幣を循環させることが重大だと思うのですが、土光敏夫の感覚を是と思う日本人の感覚では、節制して余ったものは貯蓄するということが日本人の美徳ということになるのでしょうね。
今にして思えば訳もわからず散在していた麻生太郎は(本人がそんな認識は絶対無かったと思いますが)その意味では偉かったと思うのですが、それに同調しなかった金持ちが多かったのが今の日本の状態を作り出したのかもしれないと思う今日この頃です。
Unknown (元大阪府民からの伝言)
2010-11-27 00:34:45
これは対象が「給与所得者」というところがミソですね。
大新聞社の社員なんかには高給取りが多いですから。
対象が単なる「高所得者」であれば、報道のスタンスはまた変わっていたでしょう。
そういえば、最近は自営業者の所得の不透明性をあげつらう論調がすっかり消えましたね。
クロヨンとかトーゴーサンとか。
いまや自営業者より、超一流企業勤務の高給取りのサラリーマンのほうがうんとおいしい世の中になったということでしょう。
Unknown (非国民通信管理人)
2010-11-27 12:18:56
>nobuさん

 そもそも日本は累進課税の緩さと分離課税のおかげで、極端に富裕層に優しい税制ですからね。ちょっとやそっといじったところで、日本にいた方が富裕層にとっては税金が安くなることには変わらない、実際に海外に「逃げた」富裕層の話など脅し以外では聞いたことがないですし、むしろ問題なのは日本で働くことを諦めて海外に活路を求める人が増えていることの方でしょう。

>Lさん

 経営学を学んだり、コンサルタントに教えを請うたり、経済誌を鵜呑みにしたりしていると、そういう感覚が身についてしまうのでしょうね。ある意味、経営高所得者や経営層を免罪することを目的とした学問体系なんじゃないかという気がしてきます。その結果が日本の経済停滞にも繋がっているのでしょう。

>通りすがりさん(次回よりハンドルネームをご記入ください)

 ご指摘ありがとうございました。修正しました。

>kodebuyaさん

 今なお、庶民だけではなく経営層や富裕層に取ってさえ、豊かさとは金回りの良さではなく、貯め込んだ額の多さなのかも知れませんね。稼いだ金は、どんどん浪費してこそ低所得層にも回ってくると言うものですが、何故か挙って貯め込みを賛美する、金を貯め込んで吐き出さない企業経営や慎ましい富裕層が賛美されてしまうのですから話になりません。

>元大阪府民からの伝言さん

 朝日新聞にしたところで、年収1300万円以上ともなると少数派のはずなんですけれどね。とかく経営目線で物事を語る人がとりわけネット上では多いですけれど、朝日新聞社社員の間でも似たような傾向があって、だからこそ自分の給与より上の階層の目線で記事を書いているところもあるのではないでしょうか。
Unknown (トクメイ)
2010-11-27 20:06:29
高額所得者の税はイジメであるという論を高額所得者が流したがる心理はわかるんですが、笑

問題はこれに一般の庶民がどう反応ですかですが、庶民は経済を理解してないうえに間違った判断をしてしまう、単純に無知からくるものも大きいと思いますので。
Unknown (kurosuke)
2010-11-27 21:41:26
魚住昭さんだったか、森達也さんだったか...
誰が言ったのか、よく覚えてないんですが、以前、図書館で借りた本の中にあった、フリージャーナリスト同士の対談で「大手マスコミの記者の給料を今の半分にしなけりゃ」、「いや、三分の一にしなけりゃ、彼等に(庶民の立場に立った)まともな記事は書けないよ」っていうような意味のことを言っていたのを思い出しました。
Unknown (非国民通信管理人)
2010-11-27 23:15:55
>トクメイさん

 貧しくとも気分はエグゼプティヴな人が多いと言いますか、自分はそうでもないにも関わらず金持ち目線、経営者目線の人が多いんですよね。庶民の形成する世論も、しばしば高所得者に優しく貧困層に厳しいものだったりしますから。

>kurosukeさん

 人気のある政治家は、挙って似たようなことを言いますよね。「公務員(議員)の給料を今の半分にしなけりゃ~彼等に(庶民の立場に立った)まともな行政はできないよ」とか。そうやって本質から目を逸らせるような主張が垂れ流されているところにも、病巣はあるような気がします。

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