「派遣禁止なら正社員雇う」14% 100社アンケート(朝日新聞)
鳩山政権が打ち出す製造業派遣と登録型派遣の原則禁止について、朝日新聞が全国主要100社を対象にアンケートを実施したところ、禁止された場合の対応(複数回答)で「正社員を雇う」と答えた企業は14社にとどまり、契約社員や請負など非正社員の活用で対応するケースが大半を占めた。規制強化による安定雇用は進みそうにない。
調査は11月9~20日に実施した。製造業と非製造業の各50社を対象に、原則として経営トップに面談した。
「(直接雇用の)契約社員で対応する」が36社で、製造業、非製造業とも最多だった。「請負・委託契約」で対応するという企業も、製造業を中心に30社あった。「生産設備を海外に移す」という答えも6社もあった。
鳩山政権は安定した雇用を増やすことを狙い、製造業派遣と登録型派遣を原則禁止する労働者派遣法の改正案を来年の通常国会に提出する準備を進めている。派遣法改正については「賛成」が2社、「反対」が57社だった。
鳩山政権の本気度に関しては何かと疑わしいところもあり実現のほどは甚だ不明確ではありますが、一応は派遣法の改正が検討されているわけです。そこでイデオロジカルなカイカク原理主義者は、派遣規制を強化する(実際は過去の水準に戻すだけ)と今の時点で派遣で働いている人が路頭に迷う云々と言って脅しを掛け続けています。その辺はデータに基づかない印象操作の域を出ないわけですが、実態はいかがなものでしょうか。朝日新聞が対象は少ないながらもアンケートを採ってきたようです。
見出しには<「派遣禁止なら正社員雇う」14%>とありますから、朝日新聞的に力点を置きたいのはその辺なのでしょう。グラフ上は「正社員を雇う」と回答した企業が14社ではなく15社ありまして、その辺は単なる数え間違いかも知れませんが、そこだけを強調するのもどうかと思いますね。そもそも御用学者は、派遣規制を強化して労働者が健康で文化的な生活を送れるような労働環境を整えれば雇用が海外に流出してしまうと、これまたお得意のハッタリをかましてきたわけです。それなのに「海外への生産移転などで対応する」と回答した企業はわずか6社に止まりました。正社員を雇うと回答した企業でさえ15社あるのに、海外移転を示唆した企業はたった6社しかないのです。しかも実際に海外移転となると様々な関門を超えねばなりませんから、計画倒れに終わる企業も少なくないでしょう(「海外移転するぞ」とエコノミストよろしく脅しを掛けているだけで、本当にそうするつもりがあるかも微妙ですし)。つまりは「ちょっとぐらい雇用規制を強化したところで雇用の海外流出には影響がない」と見た方が良さそうです。
派遣社員を雇えなくなったとして、その場合にどうするか、派遣社員の代わりに「契約社員を雇う」会社が36社、「アルバイトを雇う」会社が22社、「正社員を雇う」会社が15社です。合計で73社、複数回答可とのことですので若干の重複はあるでしょうけれど、その辺を差し引いても過半数の企業は直接雇用への切り替えを示唆しています。付け加えて請負に切り替えると回答したのが30社ですから、雇用の口は対して減らないと見て間違いなさそうです。時に多少の混乱はありそうですが、その辺は社会保障の拡充や行政による直接雇用で補えば済む話、そうでなくとも「痛みを伴う構造改革」を歓迎してきた人々であるなら、雇用規制の変動による一時的な失業の増加ぐらいは我慢するのが筋でしょう。そもそも企業だって人がいなければ動かないもの、派遣社員が使えないならその分だけ人を減らす、みたいなことをしていては会社が成り立たないわけです。派遣社員がダメなら何らかの代替的な雇用形態で人を雇う、当たり前のことですね。
まぁ問題は直接雇用が待遇改善に繋がるかどうかという辺りで、中には正社員なのに時給に換算するとバイト以下みたいな世界もありますし(例えばこれ)、紹介予定派遣(派遣社員で数ヶ月働いた後に、派遣先企業の正社員もしくは契約社員へと雇用形態を切り替えるもの)なんかでも「派遣社員を続けていた方が手取りが多い=正社員になると手取りが減る」みたいなケースは珍しくありません。なので雇用形態さえどうにかすれば、と言う問題に止まるものでは決してなく、労働者全般の権利保護を進めていかなければならないわけです。派遣規制の強化はその一歩に過ぎません。その小さな一歩ですら反対の声が非常に強いですけれど、派遣規制が強化されたからと言って雇用が海外に流出するわけでもない、ましてや「派遣社員が使えなくなっても人員補充はしない/労働強化(カイゼン)で乗り切る」などと回答した企業は、少なくとも個別に項目を作って集計するほどにはいなかったわけです。政治が強い意志を持って進めれば決して実現不可能な一歩ではないはずです。
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