報われない。どうしてこんな目に遭うんだろう……。10月上旬、高松市内のファミリーレストラン。取材で会った男性(35)は手元に広げた勤務表を見ながら深いため息をついて言った。いたたまれない気持ちになった。
7月、人員整理にあい、正社員だった勤め先の宅配ピザ店を解雇された。「クビ? いつですか。そんなの仕事がないです。暮らしていけません」「3日後だ」。たったそれだけだった。目の前が真っ暗になった。
6年半の間「正社員」としてもくもくと働いてきた。ピザ焼き、売り上げの管理、アルバイトの差配。店を切り盛りしてきた。働く自覚と誇りがあった。
(中略)
勤務は楽ではなかった。正社員は自分と店長の2人だけしかいない。休日出勤は当たり前。毎日5時間以上残業した。残業代はもらえず年収は約240万円に据え置かれたが、頑張った。正社員と思ったからだ。妻も子どもと実家に戻るなどして生活をやり繰りしてくれた。
「正社員でありさえすればいい」という基準でよければ、それなりに仕事はあるものです。ただし内容は推して知るべし、ですね。正社員になったら手取りが減った、1時間当りの給料がバイト以下になった等々、間口の広い企業とはそういうものです。「若者はなぜ3年で辞めるのか?」なんて本もありますが、そりゃあ労務管理の出来ている会社の話であって、入社3ヶ月で社員の半分が入れ替わるような職場だって珍しくはないのです。
ちなみに毎日5時間以上残業して休日出勤は当たり前だそうで、1日の労働時間は13時間強で、毎週6日の勤務とすると1月の労働時間は(13+α)×6×4≒320時間ぐらいでしょうか。これで年収240万円ですから、1時間当りの給与は625円です。面倒なので残業に対して支払われる割増分を省いても、時給は僅かに625円相当にしかなりません。保険料や福利厚生費など給与外のコストをここに加えるとしても、せいぜい700円を僅かに超える程度ですから、ふ~む、どう見てもバイトより安上がりです。
あるんですよね、こういうことが。バイトや派遣社員には残業代を払いつつ、正社員の残業代は公然と不払い、こうすることで時に給与の逆転現象が発生します。飲食店や小売店業界では、それなりに散見されるケースではないでしょうか。派遣社員は高く付くから、と派遣社員をクビにして新入社員にサービス残業させたりとか、色々な面で本末転倒な事例には事欠きません。
まぁ、派遣会社の強弱に拠るところもありますね。ともすると派遣会社が強くなるのは好ましくないように見えるわけですが、それはあくまで派遣社員と派遣会社の力関係の話、そうではなく派遣先企業と派遣元企業、この両者の力関係を考えた場合は派遣会社を強くした方がよいわけです。派遣会社が強ければ、派遣社員が残業した分の残業代はきっちり派遣先に請求して、その7割は働く人に回ってきますから。一方で派遣先をそのままにして派遣会社だけを弱めてしまいますと、立場の弱い派遣会社は残業代を請求・回収できず、残業分はサービス扱いに……
それはさておき、冒頭の男性(35)は何でクビにされちゃったのでしょうね。バイトより安上がりで、「正社員だから」という理由で無理も利かせ易い、雇用側にとってはバイトより正社員の方があらゆる点で好都合にすら見えるのですけれど。残る一人の店長に2人分働いてもらおうという魂胆だったのでしょうか。店長だって使い捨てですから。
もし私だったら、こんな仕事は自分からさっさと辞めてしまうところですけれど、6年半もバイト以下の給料で働いてきた正社員氏、「正社員」という言葉に惑わされた結果なのでしょうか。非正規雇用の問題もまた大きいのですが、そこを悪用する人もいるわけで、「正社員でありさえすれば……」と思いこませようとする風潮もあるわけです。そこで「正社員であること」そのものに過剰な価値を持たされてしまうと、「どんなに待遇が劣悪でも、正社員でいることが大事」となり、バイト以下の給料で扱き使われる、それが本人の承諾の上で行われることにすら繋がってしまうのかも知れません。
しかし標題にあるように35歳でも「若者」カテゴリで論じられているわけですが、「若者」の指し示す範囲が格差や貧困の拡大と同じくらいの勢いで広がっているような気がしないでもありませんな。
管理人さんもおっしゃる通り、この給料と労働条件では、この仕事に固執する価値もなかったというところでしょうか。ていよく会社から使い捨てられたというところでしょう。気の毒ですが、かえって首になって事態がむしろ好転する可能性すらないではないかもしれません・・・てことはないかな。よくわかりませんけどね。
>「若者」の指し示す範囲が格差や貧困の拡大と同じくらいの勢いで広がっているような気がしないでもありませんな。
確かに。でも、このような人たちが40、50になったとき、どうなるんかいなということは、やはり心配になります。無論私も他人事ではないかもしれませんが・・・。
給料と労働条件には、そこに止まる理由はなかったのでしょうけれど、ただ一つ「正社員」という雇用形態が彼を縛り付けていたのでしょうね。本来であれば劣悪な待遇の仕事は取捨選択、選別され淘汰されるはずが、そうならない仕組みがあるような気もします。
「3日後に解雇」やサビ残の違法性に気付けない、または、気付いても対抗できないのは、問題がありすぎではないでしょうか。
こういった労働者の無抵抗な態度が蔓延していることが、雇用主を増長させてると思います。とりあえずクビを切って、次の安い人を採用すれば良いという安易な手段が通用しちゃう訳ですから。
無知で無抵抗な善良な労働者ってのは、雇う側にとっては美味しい存在でしかないですね。
立ち去り型の抗議も、そういう労働者がたくさんいる状況では無意味ですから、やられたらちゃんとやり返す人が増えないとどうにもならない感じですね。
実は、この話と同時に就労者に正社員になることがいいことだと意識改革を迫っていましたが、今回の事例のようにアルバイトよりこき使える正社員を増やす策略だったのかとすら勘ぐってしまいます。まあ、正社員になればよいと思考が停止してしまっている可能性もあるかもしれませんが。
しかし、正社員になったからといって幸せになれるとも限らないということは少し考えれば分かることであり、我々にとっては常識なのですがね。今回の例以外でも、正社員になることで被る被害はまだまだありそうですし。ところが、「フリーターは就労意識が低い。」とうの批判を今回や「雇用者側が雇いたがらない」といった問題を無視して言われるのは、うんざりします。
派遣の増加が社会の不安定をもたらすという根拠には、いつクビになるか判らない身分の危うさというのが重点の一つにありましたけど。
・・・変わんないじゃん、これじゃ正社員でも。
辞めるにせよ歯向かうにせよ,それに伴うリスクが大きく感じて,躊躇してしまう,悪い状況が広がっているように思います。
従順さにつけ込まれている部分は大きいですよね。あからさまな違法行為でも、それに抗うことがむしろ「悪」とされてしまうような空気すらありますし。「公」に尽くすことばかり教え込まれて、「私」を守ることには無関心、そんな人もまた多いでしょうか。
>GXさん
正社員とフリーターの格差もさることながら、正社員と正社員の格差もまた深刻なのですよね。派遣社員より安上がりな正社員も少なからず作られている有様ですから、「正社員である」ことばかりを過大視してしまうと、今回のように陥穽に嵌められたようなケースも出てくるのでしょう。
>Gl17さん
経営側の都合で突如として解雇される、という点では非正規社員も今回の正社員氏も一緒ですからね。労働関係の法律が当たり前のように保護される社会では、正社員であるだけでは足りないようです。
>やくもさん
そうでしょうね、苦労して正社員になれたから、ここで辞めるとまたフリーターに逆戻り、歯を食いしばって社員として頑張るしかない、そう思って続けてきたのでしょう。そこにつけ込まれた結果がこの待遇です。
>介護員さん
まぁ「普通の」勤務先であれば正社員の方が手取りも多いですからね。とはいえ正社員といえど、いいように酷使されているのもまたよくあることで、これがまたなんとも。もしかしたら、いかに酷使されても従順で反抗しないからこそ正社員でいられるのかもしれませんね、反発心のある人は雇う側にとっては遠ざけておきたいでしょうし。
飲食関係の正社員というと、どうしてもアルバイト上がりみたいな印象しか持てないです。
そもそも、ここしか行き場がなかったというか…転職しようにもできないといった感じでしょうか。家族もいらっしゃったみたいですしね。
あくまで、想像の上で話してるので、実際は違うのかも知れませんが……私ならすぐ辞めますね、はい。
う~ん、スキルがあれば就職できると唆され、必死で資格を取ったが報われない、そういうイメージの方が強いですね。真っ当な正社員になるなら、まず何よりも「新卒であること」ですし、逆に誰でも社員になれるような職場は、社員であることを理由に扱き使われるような決して報われない職場ですし。