非国民通信

ノーモア・コイズミ

お国のために命をかけて?

2014-04-11 23:38:13 | 社会

調査捕鯨:3隻が帰港 「中止」判断に渦巻く不安(毎日新聞)

 南極海で今年1〜3月、調査捕鯨にあたった捕鯨船3隻が5日、山口県下関市の下関港に入港した。国際司法裁判所が3月31日、南極海での現在の日本の調査捕鯨を「科学目的ではない」として中止を命じ、捕鯨存続が揺らぐ中での日本への帰港。乗組員や出迎えの家族からは判決への不満や不安が渦巻いた。

(中略)

 岸壁であった入港式で、水産庁の本川一善長官は国際司法裁判所の判断について「このような結果になり申し訳なく思う」と述べた。今後については「判決を分析し、早急に対応方法を決めたい。(関係者の)不安を払拭(ふっしょく)できるよう、必要なら予算措置を講じながら対応したい」と語った。

(中略)

 乗組員の夫を出迎えに訪れた熊本県の女性(45)は、無事の帰国を喜びながらも「夫はこの仕事に誇りを持っている。国のために命をかけて働いているのに……」と涙を浮かべた。次男(34)が16年間、調査に参加しているという山口県美祢市の女性(60)も「判決は文化の違いなのでしょう。厳しい船上生活に耐え、誇りにしてきた息子の仕事がなくなるかもしれない」と不安そうに話した。

 

 さて国際司法裁判所が日本の南極海での(自称)調査捕鯨に「科学目的ではない」との判決を下し、中止を命じたのは記憶に新しいところですが、国内の反応はどれほどのものでしょう。南極海などでの捕鯨活動を擁護する驚くほどレベルの低い国内の言論を見れば見るほど、今回の判決に納得がいくところでもあります。わざわざ南極海くんだりまで遠征して鯨を殺してこなければならない必要性を強弁する人々の、あまりの無理筋を目の当たりにすれば、要するに屁理屈とハッタリを並べ立てないと日本の行為は正当化できないのだなと確信が深まるばかりですね。

 このような結果に対し水産庁の本川一善長官は「必要なら予算措置を講じながら対応したい」と語ったとのこと、また税金が使われるようです。当然ながら税金の使い道は相応に問われるべきものなのですが、世間の見方はどれほどのものでしょうか。この(自称)調査捕鯨という税金漬けの事業に対する批判の一つには、捕鯨のPR活動にばかり力が入っていて大義名分のはずの調査・研究結果が不十分というものがあります。国際司法裁判所の判決も批判の妥当性を裏付けるものと言えますが、こうした現実を水産庁サイドが受け入れることができるか、大いに問われるところです。研究ではなくプロパガンダ活動の方にさらなる税金の投入となれば尚更、日本の外では「科学目的ではない」との理解が進むことでしょう。

 現実を受け入れたがらない、という点では引用元で伝えられている乗組員の家族の反応も結構なものがあります。山口県美祢市の女性(60)も「判決は文化の違いなのでしょう」云々は完全にテンプレ的な回答と言いますか、確かに日本国内ではその様に語られるものですけれど家族が関係者であるからには、もう少し知見を持っていて欲しいところ、客観的に科学的な調査目的と認められない行為を聞く耳持たずで(ついでに税金ジャブジャブで)強行する、そうした振る舞いが世界の反感を買うのは文化の違いとはまったく関係のないことです。そもそも南極海くんだりまで遠征するのが日本の文化だと言うつもりなら、それこそ世界中の失笑を買うだけですし。

 それ以上に恐ろしいのは「国のために命をかけて働いているのに……」と語る熊本県の女性(45)です。う~ん、「お国のために」ですか。色々とツッコミようはありますけれど、まず第一に「調査・研究のためという建前を守らなくていいのか?」と。日本側の一方的な言い分であるとは言え、一応は「調査」を名目に掲げて来たわけです。そうである以上は「調査のため、科学のため」にやっているのだと、嘘だと分かっていても主張しなければならないのではないでしょうか。それを関係者(ただの家族とはいえ)が「お国のため」などと言い出しては、ますます日本側の主張が怪しくなる、「科学目的ではない」との判決が正しく見えるばかりです。

 科学者、研究者あるいは船員が「国のために命を賭けて」などと言い出したら、この人の頭は大丈夫かと大方の人は首を傾げるのではないでしょうか。例えば日本の調査捕鯨と同様に科学としての信憑性が強く疑われている理研の小保方氏が、「国のために命を賭けて研究してきたのに……」などと涙ながらに自らの正当性を訴える場面を想像してください。今以上に、変です。あるいは地球上の船に乗るよりも過酷で、原発作業員よりも遙かに膨大な放射線を浴びながら活動するスペースシャトルの乗組員の場合はどうでしょう。若田光一さんが「国のために命を賭けて~」などと言い出したら、それは色々と心配になる場面です。そしてマグロなりカニなりを獲りに行く漁船の乗組員が同様に「国のために」などと語ろうものなら、コイツは頭がおかしいのではないかと周囲から白目を向けられることでしょう。

 「お国のために~」などと言い出す家族の声を伝える毎日新聞の記者は、何かおかしいとは思わなかったのでしょうか。こういう発言が普通に受け入れられるのが調査――というより「遠征」捕鯨を巡る日本人の感覚であるとしたら、そもそも目的はどこにあるのかと訝しく思うところです。調査のためなら、そんな言葉は出てこないはず、商業目的であってももちろん、そんな言葉は出てこないはずです。「国のために命を賭ける」というスローガンに浸かった国家プロジェクトというのも、なんだか恐ろしい話ではないでしょうか。どうせならもう、公然と武装した艦船に朝日新聞社社旗でも掲げて遠征するぐらいやった方が、嘘偽りのない正直な気持ちを伝えるという面ではマシなんじゃないかと思えてきます。

 

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Unknown (プラグ)
2014-04-12 11:04:32
私はこういうのを見ていると日本近海での限定的な捕鯨のみならず「普通の」漁業までもが規制されてしまっても自業自得としか思えません

そしてその結果、余計に被害者意識に捉われ、客観性や考える事・理性を失い、今まで以上に身勝手な行動を取り、余計に理解を得られなくなり、最終的には逆ギレして国際社会からの批判や日本に対する規制がより強化されていき、という悪循環にはまるのではないでしょうか

形や規模こそ全く異なるものの、私はあの無謀な戦争へと突き進み自滅した時と非常に似たものをこの捕鯨に対する反省や客観性の無さ、勘違い・被害者意識の中に見いだせる様な気がしてなりません
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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2014-04-12 15:29:11
冒頭の新聞記事でインタビューに答えた人からすれば、クジラ獲りは「けしからん外国から自国文化を守る聖なる戦い」とでも言いたい、のですかね。

あと、管理人さんは「税金ジャブジャブ」と言ってますけど、国と国とのお付き合いで「屈しない」ことを第一に考えたい無責任な第三者(世論とも言いますね)からすれば「屈しない」ために使われる税金は無駄遣いではないのでしょう。
まあ私個人の感想としましてはそれこそ「無駄に突っ張っているだけ」という風に感ずるわけですが。
(そもそもの問題として取ってきたクジラをちゃんと食べるのか、例えば牛のほうがおいしいとか思わないのか、と考えてしまうところでもあります)
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Unknown (ハゼ)
2014-04-12 21:18:50
 水産庁としては、海外からの非難もシーシェパードの妨害も渡りに船なのかもしれません。もはや国民のナショナリズム感情に訴えない限り、税金使って捕鯨を続けるのは難しいでしょう。
 
 それにしても捕鯨問題に関する限り、日本のメディアは左右を問わず「外国の(不当な)非難に屈するな」的な反応でほぼ一致してるような印象があり、それが不思議です。大手紙を読み比べる程度では「調査捕鯨」の非合理性に関する情報を得ることなどは難しいのではないでしょうか。

 捕鯨に関して国内の大手メディアから流れる情報が画一的なのが、日本人が捕鯨ナショナリズム的感情を抱く大きな原因な気がします。大抵の人は捕鯨に関して、新聞を読む以上の情報収集をする気にはならないでしょうし。
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Unknown (非国民通信管理人)
2014-04-12 23:29:07
>プラグさん

 こういう被害妄想に駆られての行動は、色々と危ういですよね。国際社会からの真っ当な批判さえも被害者意識を滾らせるばかりで、なおさら依怙地になって世界を敵に回すような行動に固執する、単に捕鯨だけに止まらない危険さがあるのかも知れません。

>ノエルザブレイヴさん

 味の好みは個人の問題としても、現に在庫がだぶついて商業捕鯨としても成り立たなくなっている、それに焦りを募らせて尚更PR活動の方に税金を投入するという悪循環ができている世界ですからね。その不毛さを感じない人々の感覚もどうなんだろうと。

>ハゼさん

 捕鯨の他には領土問題などもそうですが、「左」と目されがちなメディアも、そして「左」として扱われる政党も挙って日本側の一方的な主張を繰り返すところがありますよね。反グローバリズムを語り、外国企業の脅威を訴える左派政党なんかもあるわけで、実なナショナリズムを焚きつけるのは左右問わずに有効なのが、日本の現状なのではと感じないでもありません。
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