非国民通信

ノーモア・コイズミ

良心の痛まない仕事を見つけるのは難しい

2014-04-09 21:37:33 | 雇用・経済

「置くだけ空間除菌」は根拠なし 消費者庁が措置命令(朝日新聞)

 消費者庁は27日、空気中に放出される二酸化塩素の効果で生活空間の除菌・消臭ができるとうたう空間除菌グッズは効果を裏付ける根拠がないとして、景品表示法に基づき、販売元の製薬会社など17社に表示変更などを求める措置命令を出した。「首からぶら下げるだけ」「部屋に置くだけ」で除菌できると宣伝するのは同法違反(優良誤認)にあたると判断した。

 (中略)

 同庁の説明では、二酸化塩素自体には除菌効果が認められる。しかし生活空間を除菌する効果があるかを疑問視し、17社に表示を裏付ける合理的根拠の提出を求めた。各社から提出されたのは密閉空間などでの試験結果で、換気をしたり、人が出入りしたりする部屋などでも効果があるとは認められなかったという。

 

 先月の話ですけれど、こういうこともありました。シャープのプラズマクラスター製品群も景品表示法違反で消費者庁から措置命令が出されていたのを思い出します。まぁ、「それっぽい」効能を謳って商品を売り出すハッタリ商法は、それこそ「怪しげな」3流メーカーに限らず日本を代表するレベルの大企業にも共通するところですけれど、第三者に検証されてしまえば結果はこういうところに落ち着かざるを得ないのでしょう。

 もう随分と昔のことになってしまいますが、家電量販店で働いていた頃は「マイナスイオン」グッズを売るのに良心が咎めたものです。本当はマイナスイオンの効能なんてあるはずもないのですが、だからといってお客さんに「マイナスイオンが効くなんて宣伝しているメーカーは信用しない方が良いですよ」と言うわけにも行きません。メーカーの宣伝を真似して客を騙して売りつけるのが量販店の仕事ですから。

 理研の小保方氏も第三者からのツッコミで続々とボロが出て無惨な結果に終わりそうです。ただ、これが「たまたま」第三者の検証に晒されたからこその不運と言いますか、所属が普通の民間企業であったなら、あるいは学会向けの論文ではなく一般向けの書籍として発表されていたのなら、「気鋭の女性若手研究者」みたいに持ち上げられ続けていたのではないかと思われてなりません。見る人が見ればインチキでも、世に憚っているエセ科学理論はいくらでもあります。

 ノバルティスファーマ社の社員が、臨床研究に不正に関与していたことも昨今は問題視されています。しかしまぁ、関与した社員の多くは決して望んで不正を働いたわけではないのだろうなとも思うところです。悪いことをしたいのではない、しかし日本の営業としては「やらざるを得ない」こともあって、その結果として医師や研究者への一線を越えた関与があったのではないでしょうか。

 製薬会社に限らずどの業界でも、営業である以上は強引な売り込みを「せざるを得なかった」経験を持っている人は多いと思います。必ずしも顧客にとって必要ではない商品を売りつけないと予算が達成できない、都合の良い情報だけを語ってデメリットについては伏せておかないと製品(サービス)が売れない、そうした状況の中で自らの良心に背いて営業を続けるなんてのは、日本中どこでも見られることです。

 今時の日本の本屋の多くは、レイシスト向けの書籍を積極的に売り出しています。韓国や中国への偏見や憎悪を煽る本が売り場の目立つところに平積みされているのが当たり前の光景となりましたが、まぁ日本の書店員ともなると今度はレイシズムに「寛容に」ならなければならないのかも知れません。差別主義の本など売りたくない――そんな個人の思いなど許されないのが日本の職場というものです。

 昔は出版社で働いてみたいと思っていました。もっとも今は違います。「作りたい本、世に出したい本」のために働けるとは限らないもの、しばしば意に沿わない本の出版のために働かねばならない場面も出てくることでしょう。何よりも「売れる本」として差別や歴史修正主義の本を押し出してくる出版社も多いですし、一見するとお堅い岩波のような出版社でもエセ科学系のトンデモ本を乱発しているわけです。要するに自身の良心が咎める類の書籍を世に広める、その片棒を担がされてしまうであろうことは必至です。だから私は、もう出版社に入りたいとは思わなくなりました。

 なかなかどうして、良心の呵責に悩まされない職場を探すのは大変なことです。冒頭の空間除菌グッズで措置命令を受けた企業の中には「効果がある」と強弁して消費者庁から再度の懸念を伝えられたところもあるようですけれど、大幸薬品に所属の開発者達の心中はいかほどのものでしょう。本当に自社の製品が第三者の検証に耐えるものと確信しているのか、それとも会社の建前として効果があると言い張らねばならないのか――

 

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3 コメント

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Unknown (クエ)
2014-04-10 12:41:03
トンデモ系の本やレイシストの書いた本ばかりが売れ、自称評論家や御用学者ばかりがヨイショされている現状を見るに「疑う事や考える事自体が悪である」という反知性主義が罷り通っている様な気がしてなりません
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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2014-04-10 14:56:06
不本意ながらやりたくない仕事をせざるを得ない、などということはまあ珍しくもなんともないことではあると思います。

その一方で、「不本意ながらやらざるを得ない」ふりをしているだけの人もいるのではないか、(例えば「人種差別する意図はないししたくもないが相手が悪いから正義のために仕方なく…」というポーズをする、というイメージですね)と思ってしまうところもあるのですがどんなものでしょうか。
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Unknown (非国民通信管理人)
2014-04-10 22:45:38
>クエさん

 その一方で(自分にとって)都合の悪い情報には疑うことを呼びかける陰謀論者もまた跋扈しているわけでして、まぁ無条件の肯定と無条件の否定は表裏一定ではあるわけですが……

>ノエルザブレイヴさん

 その辺は生活保護受給者や福島のバッシングに熱を上げている人達も同様ですね。偏見を広めるのが自らの楽しみになっているくせに、心苦しいフリをしている人も多いですから。
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