非国民通信

ノーモア・コイズミ

ホワイトカラーに限らない派遣社員の話

2010-07-06 22:55:58 | 編集雑記・小ネタ

 ある会社で正社員50人、派遣社員50人が働いているとしましょう。不必要な人員の解雇は一通り終わって、会社を切り盛りするためには100人の人員が必要です。そこで、実質自由化されているところの派遣社員雇用が、本来の基準(「本当に」専門的な業務のみ活用可能)まで戻されるとしたらどうなるでしょうか。今まで常用してきた派遣社員が使えなくなってしまうわけです。残る50人の正社員だけで業務を回すのは、当然のことながら無理です。営業活動を存続させるためには100人分の労働力を確保しなければなりません。ではどうしたら――

参考、「派遣禁止なら海外移転」は6%に止まる

 昨年末のアンケートでは「契約社員を雇う」が36%、「請負に切り替える」が30%、「アルバイトを雇う」が22%、「正社員として雇う」が15%との回答が得られました。ちなみに「海外に移転する」は6%でしたが、言うは易く行うは難しです。海外に移転すると息巻いたところで、実際に移転できる企業は半分にも満たないでしょう。そもそも派遣規制の緩和が続いた中でも海外移転は止められなかっただけに、今さら派遣規制の強化をためらったところでその流れを変えられるとは、とうてい考えられないはずですし。

 元から余剰人員を抱えている会社なら、派遣規制強化と同時に派遣契約を打ち切る会社もあるように見えるかも知れません。しかし余剰人員である限り、派遣規制強化とは無関係に契約打ち切りのリスクには絶えず晒されます。これも今さら派遣規制の強化をためらったところで流れを変えることなどできません。では余剰人員ナシ、冒頭の例のように操業のためには100人がどうしても必要な場合は、派遣規制強化にどう対応したらいいのでしょうか。どうしても派遣でしか雇うつもりはない、直接雇用に切り替えるくらいだったら廃業する、事業から撤退する――そんな馬鹿な決断を下す経営者は、さすがに考えにくいところです。普通だったら派遣以外の雇用形態で、引き続き必要な人員を確保しますよね。

 派遣が請負やパートに変わっても待遇改善に繋がるのかとか、そういう問題はあるにせよ派遣がなくなっても労働力需要がなくなるわけではない以上、仕事の口がなくなることにはなりません(雇用は派遣会社が生み出しているのではなく、派遣先企業が生み出しているのですから)。そりゃ契約形態の変遷に伴って混乱は起こるでしょうけれど、別に規制が現行(実質制限ナシ)のままだって、派遣社員ってのは絶えず契約打ち切りのリスクに晒されているものです。法律の改正などなくとも組織変更のたびに派遣社員の入れ替えは当たり前のように行われているわけで(雇われている派遣社員の頭数は変わらずとも、定期的に人は入れ替えられているものです)、今さら派遣禁止で雇用形態の変更が必要になったところで、普段のリスクからすれば取り立てて騒ぐほどのものでもありません。

 では景気が回復して、新たに100人の人員増が必要になったとしましょう。派遣雇用に本来の制限が加えられていたら、必要な100人は直接雇用で賄う必要があります。一方、相変わらず派遣雇用が実質無制限であったなら、直接雇用は最低限に止めてなるべく派遣社員で済ませようということになるはずです(中には、わざわざグループ内に専用の派遣会社を作るところまであったりします)。こうして直接雇用の増加は抑制され、正規雇用は異常なまでの「狭き門」と化していくのですが、それは当然ながら、労働者側の需要から完全に反したものでしかありません。

 派遣会社側もしくは規制緩和論者の通り一遍の言い分としては、「多様な働き方」「派遣で働きたい人もいる」とかが定番です。確かに派遣で働きたがる人もいるわけですが、それが求人数と釣り合っているかは考えるべきでしょう。長く働きたい人が90人、派遣で必要な期間だけ働きたい人が10人いれば、確かに「派遣で働きたい人もいる」との言い分は間違っていません。しかるに長く働ける求人が50人分、いずれ切られるのが明らかな派遣の求人も50人分みたいな状況を放置していれば、「本当は一箇所で長く働きたいけれど、仕方なく派遣でしのいでいる」人が増えるだけですよね。

 「一定期間だけ派遣で働きたいが、派遣の就職口がない」ケースなど極めて稀にしかならない一方で、「本当は一箇所で長く働きたいけれど、派遣の求人くらいしか余っていない」ケースがあまりにも多い、それこそが問題となっているわけです。前述のように直接雇用が待遇改善に繋がるとは限らないのですが、現行の無制限な派遣雇用が放置されている限り、有期雇用の仕事が増えるばかりで長期雇用の仕事の増加は抑えられるばかりということになってしまいます。問題は一つ一つ、着実に潰していかなければなりません。そのためにも、派遣法の改正――本来の派遣の枠組みに戻すこと――は避けては通れないことと言えるでしょう。

 ついでに言えば、「派遣で働きたい」人の声にどこまで深刻さがあるのか、そこも考えてみる必要はあると思います。派遣規制が本来の枠組みに戻れば、「派遣で働きたい」人の希望には添えなくなるわけで、例によって派遣会社側だけではなく規制緩和論者もこの辺を強調するものです。しかし「派遣で働きたい」=有期雇用で十分、将来的な収入の当ては必須でない人の要望と、「長く働きたい」=将来にわたって収入の保証が必要な人のどちらが、より早急に対応しなければならないのか、そこを無視すべきではありません。若い内だけ働いて後は専業主婦になるつもりだったり、あるいはバイトの延長みたいなものであったりするケースと、自分の生活を支えるために安定した収入が必要なケース、どちらのケースを優先的に扱うべきでしょうか。放置した場合に貧困を引き起こすのはどちらのケースでしょうか? 自分の生活を支える必要がない(だから派遣で十分)な人の声と、自分の生活を支えねばならない(不安定な派遣雇用では不十分)な人の声を同列に扱う論者には、雇用の問題を語って欲しくないと思います。

 

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3 コメント

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Unknown (貝枝五郎)
2010-07-07 12:29:42
「たらざるをうれえず、ひとしからざるをうれう」という言葉がありますが、よわい立場の人を優先しさえすれば、何を目指すべきかはおのずと明らかになるとおもうのですが、何を目指すべきかで議論がまとまっていない現状をかんがみるに、そもそも「よわい立場の人を優先」するという発想自体が無いのではないでしょうか、すくなくとも自民・公明はもちろん民主の過半数の党員には(そして有権者の過半数にも)。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-07-07 22:54:57
>貝枝五郎さん

 ある意味、上から見て「ひとしからざるをうれう」ところすらあるような気がしますね。弱者を優先するどころか、逆に弱者への保護を「ひとしからざる」ものと見なす、そんな政治が主流化していますから。
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Unknown (派遣社員)
2010-08-04 17:25:57
いつも楽しく観ております。
また遊びにきます。
ありがとうございます。
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